教訓、五十五。人の意思は変え難いのに、人の命は儚い。 11
イゴン将軍とレクスが言うには、シークの剣術の腕を聞きつけて、国中の猛者がシークに決闘を申し込むのではないかという。それも、ルムガ大陸一のニピ族達がやってくるのでないかというのだが……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「そして、それはニピ族だけですむ話ではない。」
今まで黙っていたギルムが口を挟んだ。
「お前の実力は、隠されていたような状況だ。それが、ニピ族らしい敵相手に互角の戦いをしてみせた。ルムガ大陸一の武術だと言われているニピの踊りに、負けなかったという事実は、多くの剣術流派に少なからず動揺を与えるだろう。」
思わずシークはギルムを見つめた。
(…そんな大事に!?)
「他人事のような顔でぽかんとしているが、他人事ではないぞ。今後、隙あらばお前と対戦したいと望む者が大勢現れるだろう。常識のある者ならば、親衛隊の隊長であるから、滅多に対戦してくれなどという無茶は言わないだろうが、問題はそんな常識を無視するような輩も、剣術の腕に覚えのある人間の中には、以外にいるということだ。」
「……確かにいそうですね。」
シークは今から考えただけでも、うんざりして答えた。
「問題は、裏社会の実力者達です。その謎の組織の男達にも、ヴァドサ殿、あなたの名前が伝わってしまうでしょうから、今度からもっと用心してかかってくるでしょうし、おそらく、その組織だけでなく、裏社会全体にあなたの名前が広がるでしょう。」
レクスがもっと嫌な事実を予想した。
「特に、お前はイナーン家との事があるだろう?」
ギルムはシークの過去の事件について知っている。それを指摘しているのだ。
「……私のことを思い出すでしょうか?」
「おそらく。忘れていないだろう。今後、一人で夜を歩く時は十分注意することだ。一人で出歩かない方がいいだろう。それこそ、ニピ族の護衛が必要になってくるだろうな。」
「……何とも矛盾した話です。」
「ああ、そうだ。だが、現実問題だぞ?ニピ族に匹敵する実力がある猛者だと認められてしまったのだから、ニピ族が躍起になる。ニピ族は同族との対戦を禁じている。お互いに実力を高めるための訓練は別にいいが、決闘なんかはできないからな。お前に決闘を申し込むニピ族が増えるだろう。」
シークは頭を抱えた。
「それで、そのために護衛にニピ族が必要になると?」
「そうだな。」
とうとうギルムが笑い出した。肩を揺らして笑っている。
「イゴン将軍、笑っている場合ではありません……! 命がいくつあっても足りませんよ!」
シークは思わず大声を上げた。
「まあまあ。落ち着きなさい。だから、こうして私も来ているわけだ。」
半分シークをからかいながら、ギルムはかつての部下を宥めた。
「サプリュに到着するまでの間、私のレクスを貸そう。」
ギルムの提案にシークはぎょっとして、断りを入れる。
「いえ、そういうわけには行きません…!そんなことはできません。」
「お前なら、そう言うと思った。」
苦笑したギルムがシークの肩をぽんぽんと叩く。
「だから、問題を解決するには一緒に行動するしかないな。」
「え、将軍とですか?」
シークはさらにぎょっとして聞き返した。かつての上司と一緒に行動するのは、緊張するのだが。何だか見張られているみたいではないか。
「何、そう心配するな。お前の仕事に何か口を差し挟むつもりはないぞ? 私のことはその辺の家具くらいに思っておけばよい。」
思っておけばよいって、思えるか! と心の中でシークは叫んだ。
「……いえ、ご心配なく。そう心配なさらずとも、一人になる時間はほとんどないですし、大丈夫でしょう。」
急いで断りを入れると、ギルムは肩を揺らして笑い出した。
「だが、陛下が心配なされて、ニピ族をくっつけておくようにと、そういうお達しでな。」
余計なお世話だ…! 本当に余計なことを仰られましたな、陛下! 私は大丈夫ですから、とやはり心の中でシークは怒鳴った。さすがにかつての上司の前で興奮して大声を出したりできない。
「……しかし、イゴン将軍、私の側にいては将軍の仕事が進まないかと思いますが。」
「うむ。何も問題はない。お前に話を聞いたり、集まった情報を分析したりするだけだからな。」
それはつまり、隊長として部下達の前に出て何かする仕事は、副隊長のベイルに任せ、シークはギルムと共に、そういう仕事をするということだった。
(……もう決定事項だし。)
そう、これは決定事項で何かシークが口を挟めるものではなかった。
「……分かりました。」
気がすっごく思いが、承諾以外の答えは必要とされていないのだ。そう答える以外になく、シークはつい、はぁ、とため息をついてしまい、ギルムに吹き出されてしまったのだった。
その後、サプリュに戻った時の話などを少し聞き、とりあえず一度ベイルに状況を説明しに戻ったが、イゴン将軍と一緒に仕事をしなければならなくなった話を部下達が聞きつけてきて、苦い顔をしていたシークはさんざんからかわれたのだった。
星河語
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