教訓、五十五。人の意思は変え難いのに、人の命は儚い。 9
遅くなって申し訳ありません。
一行はヨヨの街に引き返していた。シークの暗殺未遂の上、イージャも死んでしまったからだ。シークはかつての上司、ギルム・イゴン西方将軍と対面する。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
ヨヨに引き返していた。親衛隊の隊長であるイージャが死んだからだ。それに、シークを狙った焼き討ち事件についても報告する必要があった。親衛隊の隊長が二人とも狙われたので、小さい事件ではない。
人の往来はそれなりにはあるものの、地方都市の一つでしかなかった街は、瞬く間に国王軍で溢れかえった。まずは、事件を受けてセルゲス公である若様の護衛のために、ブローブスの隊がやってきたこと。
次に事件を重く見た上層部と国王が、ギルム・イゴン西方将軍を送ってきたからだ。
色々と情報を集めて調べた結果、事件のあらましはこうだ。
セルゲス公の一行がやってくるという連絡をして、準備をするための役人が町にやってきた。セルゲス公の他、親衛隊が泊まる部屋も準備していた。
役人は、セルゲス公の泊まる部屋のみならず、親衛隊の隊長も暗殺の危険があることから、窓が補強されている部屋がいいと伝え、補強された窓がある宿屋を選んでいた。
宿屋の窓は最初から補強されていた。その役人は窓が補強されているかを確認してから、部屋を決めた。
そして、宿屋の主人は役人がやってきた晩から姿が消えていた。つまり、シーク達がやってきて会った宿屋の主人は、別人が成りすましていた。
偽の主人は、シークに鍵が壊れているから、臨時の金具を使って鍵代わりにするように伝えて、鍵を渡さなかった。しかも、中からは開けられないように実際に鍵も壊していたが、外からはかけられるように巧妙に二つ作ってあった。
こうした下準備をした上で、真夜中過ぎに行動を起こした。特に国王軍の隊長ともなってくると事務仕事が忙しくなるため、夜中を過ぎても仕事をしていることがある。そのためか、夜中を過ぎて朝方に近くなってから、行動を起こしたらしい。
壊れているはずのシークの部屋に鍵をかける。そして、静かに他の者達を起こさないように、準備してあった薪と藁をシークの部屋の前に積み重ね、黒水と呼ばれている油をかけた。国王軍の兵士が夜中に便所に起きた時、たまたま藁と薪を運んでいるのを見たらしい。だが、どこかに移動しているだけだと思ったという。
黒水については、プーハルからレイト近郊、その他、セッサラ湿原が付近で産出するもので、燃やすことができる油っぽい水である。この当時の人達は石油とは知らなかった。ただ、一緒に取れる天然アスファルトなどを接着剤や塗装、防腐剤などに使ったりもしていた。臭いがきつかったため、アスファルトの方が重宝されていた。
それで、火を付けるとあっという間に燃え、瞬く間にシークの部屋の前は火の海になった。この時、シークはすでに窓ガラスを割るために、椅子をぶつけていたが、敵は窓を破る前に部屋が燃えると踏んでいたらしい。どうやら、椅子の脚が折れたのは、事前に脚に切り込みを入れてあったからのようだ。万一のための逃走防止対策だった。憎らしいほどの念の入れようである。
役人が椅子の脚に切り込みを入れているのを、偶然目撃した宿屋の近所の子供がいた。二階の部屋の窓から見たらしい。子供といえども、もう十二歳なのである程度の信憑性はあるだろう。
狭い宿屋だったので、シークの隣の部屋にいた者が一番最初に異変に気が付いた。まず、隣室から激しくぶつける物音がしていることで目を覚まし、次に起きて扉を開けたら、隣の部屋の前が火の海になっていることで、大慌てで二人は逃げだし、さらに他の部屋に知らせて回った。
国王軍で占拠している状況だったので、あっという間に知らせは行き渡り、他の宿屋にも連絡をしに行った。それだけでなく部隊長達は急ぎ、シークの部屋を確認しに行ったが部屋の前だけでなく、すでに隣室まで燃え始め廊下にも火が回っていた。
しかも、隣室の扉を慌てて開け放っていたため、部屋がすでに燃え始めていて、そこからシークを助けに行くことも、もはやできない状態だった。
そこで、仕方なく、まずは避難をすることにして、外から行けないか梯子を探していたが梯子が見つからず、そうこうしているうちにシークが自力で脱出したという次第だった。
「そうか……。大変だったな。…アズレイのことも残念だった。」
シークがギルム・イゴン将軍に全てを説明すると、一度目を閉じてから、将軍は答えた。
「……アズレイは、お前との確執が解消されれば、親衛隊に向いていると思ったのだが。お前なら、きっと確執を解消できると思った。だから、本当に残念だ。」
苦渋がにじみ出るギルムの独白を聞いて、ニピ族の護衛のレクスが驚いた顔をしている。シークが秘書をしている時にはまだいなかったが、数年の間に雇っていた。
「ニピ族は無表情だろう?」
シークがレクスの顔を見ていたためか、ギルムが苦笑して、言い訳をするように説明した。
「……いいえ。そうでもありません。私の人生の中では、多数のニピ族と接触しているので、もう無表情だと思わなくなりました。」
シークがかつての上司に素直に答えると、ギルムは苦虫を噛みつぶしたような表情で口を開いた。
「そうか。確かに、お前の方が私よりもニピ族に接触しているのだな。表情を読めるようになったのか。」
その口調には驚きも含まれている。
星河語
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