教訓、五十五。人の意思は変え難いのに、人の命は儚い。 8
シークはとりあえず、みんなと合流できた。ただ、敵に投げられた暗器が刺さった腕が痺れ始めて、ベリー医師に診てもらうが……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
シークはロモルに話しながら、腕が痺れてきて、ベリー医師にすぐさま診て貰う必要性を感じた。
「ハクテス、ベリー先生は?」
それだけで彼はどういうことか察し、急ぎ案内しながら、近くの国王軍の兵士にベリー医師を呼んで欲しいと伝えた。
「広場に行けるか?」
「少しずつ、向かいましょう。まだ、こっちには火は来ていません。」
消火活動のおかげか、以外に火は広がっていない。だが、時間の問題だ。黒衣の男達を追っていた国王軍の兵士達も、消火活動に加わっているようだ。シーク達は親衛隊なので消火活動には加わらず、人が逃げる中を広場に向かって進んでいく。
ようやく広場に到着し、若様達と合流できた。
「隊長……!入れ違いになったんですね。」
ベイルがロモルと入れ替わりにやってきた。
「ベリー先生が呼ばれて先ほど、行かれたんですが。」
「そうか。人が多いからな。でも、困った。フォーリを呼んで欲しい。」
ベイルはシークのぼろぼろの姿を見ながら、特に押さえている左上腕を見つめた。
「私を呼んだか?」
小声だったが、十分に聞こえていたようだ。フォーリが自分から来てくれた。ベイルが代わりに若様の側に移動する。
「ニピ族らしい男に、お前達が飛刀と呼んでいる暗器を投げられて、腕に刺さった。戦っている最中で抜くに抜けなかったんだが、痺れだしている。」
「ああ、毒だな。」
こともなげにフォーリは答えた。まるで、今日の飯は何か聞かれて、答えているかのような気軽さだ。
「まあ、これでも飲んでおけ。ニピ族秘伝の毒消しだ。」
フォーリは懐から、筒状の入れ物を取り出した。
「ベリー先生に聞かれたら、私にもらった毒消しを飲んだと――」
「ちょっと待て…!」
そこにベリー医師の声が割って入ってきた。
「ああ、良かった、間に合った…!」
「先生。どうして駄目なんですか?我々の毒消しが危ないとでも?」
フォーリは不満げだ。
「いや、違うよ。ただ、この人は夏に猛毒を喰らってるでしょう?そのせいで、いろいろと面倒なことになるから、それを飲ませちゃだめ。そういうこと。」
ベリー医師が説明すると、フォーリは一つ頷いてさっさと戻って行った。
「飛刀が刺さった?」
「はい。」
ベリー医師は縛った傷を診て考えていた。
「飛刀に毒を塗るか、塗らないかは里によることも多いんだけど。でも、塗らない人達もいるんだよ。どうも、塗らない派みたいだね、この人達は。」
「なぜですか?」
「傷が変色していない。だから、塗っていないと思う。そもそも使い捨てになりやすい暗器なんだけど、毒を塗るのもけっこう手間がかかる。毒自体も高価だしね。こうした鉄器に塗れる毒で、乾いてもある程度高価を発揮できる毒ともなると。」
「なるほど。懐事情が如実に表れると?」
シークの確認にベリー医師は、そう、と頷いた。
「君の腕の痺れは、止血のためにぎゅうっと縛りすぎたことが原因だね。」
言いながら、ベリー医師はシークの手巾を外したが、それをなぜかじっと見つめた。
「…ガラスの破片が刺さってる。」
指摘されて思い出した。
「そうでした。ガラス窓を破った後、手を怪我しないよう、手巾で覆ってから窓枠に触ったので。」
ベリー医師は鋭く傷口を見つめた。そして、物も言わずにシークの頭を叩いた。
「痛っ!」
シークは思わず悲鳴を上げた。かなり痛かった。
「馬鹿もん! ガラスの破片がついているので縛る馬鹿があるか!」
「なかったからですよ、できるだけ、傷口には触らないように、上の方を縛りました……! それに一応払ってから使いました。」
「傷口にガラスが刺さったら、どうするんだ! 全く、もう! 手当が面倒になるだろうが!」
「ですから、傷口には触っていないはずです。上の方で止血しましたから。」
シークが説明しても、しばらくベリー医師はお冠だった。
それにしても、この火事のせいで、シークの物はけっこう燃えてしまった。襲撃の可能性を考えて、半分、ベイルに預かって貰っていて良かった。そうでないと、全て失っただろう。
結局、火事は建物を四棟全焼させる火事となってしまったのだった。ただ、住民が一人も死ななかったのは、不幸中の幸いだった。
たった一人、イージャが死んだこと以外は。シークの中に、これ以上ないほど苦いものが心に残ったのだった。
星河語
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