教訓、五十五。人の意思は変え難いのに、人の命は儚い。 7
遅くなって申し訳ありません。
シークは後悔しながら、男と対戦して怪我を負わせたが……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
全てが終わってしまった。
そして、イージャ自身、勝てないのに男に向かって行ったことも分かった。少しでもシークに勝機を与えるために。死ぬと分かっていて突っ込んで行ったのだ。それが、彼なりのけじめでもあるとは分かる。
それでも許せなくて、腹の底から怒りがわき上がってくる。そして、自分自身にも腹が立った。さっさととどめを刺しておけば良かったものを! 手ぬるいことをしていたからだ……!
「!」
男が防ごうとしたが、若干、シークが早かった。今度は袈裟懸けに下から一気に切り上げる。だが、手ごたえが妙だった。
(やはり下に防具を着ていたか…!)
男が体勢を崩したが、シークも斬った後で少し体勢を立て直すのが遅くなる。男は懐から何かを取り出すと投げつけてきた。
「くっ!」
避けるのが間に合わなかった。飛刀とニピ族が呼んでいる暗器の一種だ。左腕に刺さったが、それを抜いている暇はなかった。立ち上がった男の脇を狙う。だが、狙いは逸れて剣で弾かれた。
「!」
その時、イージャの血で地面がぬかるみ、立ち上がった男が滑った。シークは見ていた一瞬の違いで滑らないように踏ん張り、男が体勢を直す前に踏み込んだ。剣を振るう。男の防具がない腕を狙った。今度は二の腕を狙って切り上げる。だが、腹に衝撃を受けて、万全にはならなかった。男の鉄扇が腹を叩いていたのだ。
両者は離れて睨み合う。男は左の腕を押さえたが、だらっと下がった指先から真っ赤な血が滴っている。一方、シークも腹を押さえ、脂汗を流しながら、男を睨んでいた。
朝日が昇ってきて、辺りを照らし始めていた。涼しい朝の空気の中に、煙と血の臭いが立ちこめている。
「……引き分けだな。」
男は呟くと走り出した。
「待て!」
数人の国王軍の兵士が追いかけたが、すぐに返り討ちに遭ったようだ。剣戟の音がした直後にバタバタと倒れる音が煙の向こうでした。
「待て!!それ以上、深追いするな!」
シークは自分の部下達ではなかったが、急いで制止した。
「なぜ、そのようなことを?」
護衛にやってきていた、国王軍の副隊長の一人が聞いてきた。
「相手はニピ族の可能性がある。見ていた者達がいるから、後で確認するといい。鉄扇を使っていた。今も、数人がやられただろう。気絶か何かで済めば儲けもんだ。
今、私も鉄扇で腹の急所に打ち込まれたが、防具を着ていて、さらに躱したのにもかかわらず、酷く痛む。まともに受けたら、即死だろう。」
「分かりました。」
彼はそう言うと、的確に自分の部隊に指示を出していく。更に、他の部隊長達にも言付けるように指示しているようだ。
そうして、戻ってきた。
「…しかし、ヴァドサ隊長。大丈夫ですか?ずいぶん……。」
言葉を濁している。自分の姿がぼろぼろなのは分かっていた。少し煤けているだろうし、髪はきちんと結んでいないし、アズレイと男の返り血で汚れているだろう。自分自身も腕を怪我して血を流している。
シークはそういえば、敵の暗器を抜いていなかったことを思い出して、飛刀を引き抜いた。血が飛び散る。急いで左手に巻いていた手巾で止血したが、毒を塗ってあったらまずいな、と内心で思う。
しかし、その前にまずは死んでしまったイージャを弔いたかった。
すでに、国王軍の兵士達がやってきていた。急いでイージャの部隊を呼びに行っている。
「……アズレイ。お前らしい最期だった。すまない。私が……私のせいだ。」
シークはイージャの遺体の前に跪くと、黙祷を捧げ、彼の瞼をそっと下ろした。
そして、立ち上がると、迎えに来ていたロモルに歩み寄った。
「隊長。ご無事で……というか、大丈夫でしょうか? ベリー先生に、診て頂いた方がいいのでは?」
「その前に現状確認だ。若様はご無事か?」
「はい。こちらは何もありませんでした。ただ、燃え広がる前に避難の必要があり、若様はすでに町の広場の方に行かれています。アズレイ隊長の部隊も一緒です。」
「そうか。町の人達は無事だろうか?」
「それについては、分かりません。」
戦いに集中していたが、辺りは騒然としていることに気がついた。半鐘が鳴り響き、火事の知らせに人々が走り回っている。さらに、消火するため、国王軍の兵士も手伝える者は消火活動に当たっている様子だった。
「分かった。」
「それより、隊長の方です。どういうことですか? 一体何が起きたのですか?」
「まだ夜が明ける前、小さな物音がして目覚めたが、何者かに壊れているはずの鍵をかけられた上、部屋の前に燃える何かを積まれた上に、油か何かを撒かれて火を付けられた。」
ロモルの顔色が悪くなった。
「窓ガラスを破ろうとしたが、やたらと頑丈な窓でな。後で、ニピ族らしき男がやってきて言うには、プーハル特産の特殊な糊を使って窓ガラスを補強してあったそうだ。そのせいで、時間がかかり、危うく焼け死ぬ所だった。間一髪だった。」
隠しても、どうせ知られる話なので、シークは声を落とすこともせずに説明した。辺りにいる自分の隊以外の、国王軍の兵士達で聞き耳を立てていた者達の顔色も悪くなっていた。目を丸くしてシークを凝視しているし、視線を感じた。
「……隊長。では、今回のこの火事は……。」
「私を暗殺するためだろう。毎回手を変えてご苦労なことだ。」
星河語
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