教訓、五十五。人の意思は変え難いのに、人の命は儚い。 6
衝撃の回。ここで、この人が死ぬとは思わなかったかな、と思うでしょうか。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
シークは必死になって防戦していた。てっきり、こうして打ち合っていたら、フォーリが助けに来てくれるかと少しは期待したが、案の定、助けに来てくれないようだ。
(冷たい奴め…!でも、仕方ないか。)
そう、自分が戦力だと考えていないから、まずは若様の護衛が大事だと散々言っていたのだ。今さら、手助けを期待するなんて、虫が良すぎる話だろう。
コケーッ、コッ、コケーーッ!
と聞こえた瞬間、脇からバサバサバサッと雄鶏が羽ばたいて、シークと相手の男の間を通ってきた。しかも、敵の男の顔を若干翼で叩いたように見えた。近くの木の枝に掴まることもできずに、鶏は必死の飛行もむなしく地面に落ちる。
視界の端に人影が写った。親衛隊の制服のようだったので、おそらく自分の部下達の内の誰かだろう。鶏を投げるなんてことをするのは、モナかウィットかその辺だ。
だが、それが十分な隙だった。シークが防戦から抗戦に出るには十分だ。素早く間合いに入って剣を一閃させる。
「!」
だが、手ごたえは軽い。相手の大腿をかすっただけのようだ。そして、シークが防戦から抗戦に出たのを見計らって、様子を見ていた国王軍の兵士達がぞろっと周りを取り囲んだ。
「おい、お前ら、手助けはありがたいが、それよりも若様――セルゲス公をお助けする方を優先しろ!」
シークが檄を飛ばすと、みんな戸惑った表情を浮かべる。くせ者がいるのだから、そうだろう。でも、火事になっている。ぼやぼやできない。
「行け! なんのための護衛だ! セルゲス公の護衛だぞ!」
シークが再三怒鳴ると、半分以上が戻っていく。だが、半分はその場に留まった。
「良かったのか? 行かせても。性懲りもなく、捕らえるつもりなのか?」
男は静かに聞いてきた。実は先日、ヨヨで捕らえた男は、その次の日、いつの間にか煙のように消えていた。誰かが逃がしたのだ。明らかに身内の中に敵がいる。国王軍または親衛隊の中に。
「ならば、今度は殺せばいい!」
男の後ろから声がした。イージャだ。
実は、イージャはシークが黒帽子の男と抗戦していると聞いて、副隊長に後を任せて自分は一人でここに来たのだ。それもこれも、自分が蒔いた種だ。だから、何とかしてシークが助かる道を考えていた。
ここに来る前に若様にも会ってきているが、その時のフォーリが見たことがないほど緊張した表情をしていたので、内心では相当危ない状況だと思っているのだとすぐに理解した。
だから、イージャは決めていた。自分は死んでもいい。どうせ、エーナも両親も死んでしまっただろう。シークは生きているかもしれないと言ったが、あの時のエーナの状況を思い出してみても、彼女は死んでいると思う。
自分はどうなってもいいから、敵に一泡吹かせたい。たとえ自分が死んだとしても、少しでいいから隙を作りたかった。そうすれば、シークがなんとかするだろう。
そう計算して、男が聞いてきた直後に姿を現した。そして、走って男に向かった。
「やめろ!お前の剣術とは相性が――」
シークが最後まで言う前に、イージャが斬りかかろうと体勢に入る。イージャには分かっていた。目の前の男は、自分以上に強いことを。シークだから、防戦できているのだということを。イージャは分かっていた。本当はずっと前から、国王軍に入って間もなくから、シークの剣術が自分より遙か上だということを分かっていた。
(そういえば、シークの奴とまともに剣術の試合をやったことなかったな……。やっときゃ良かった。)
黒づくめの男の動きがやたらゆっくりだった。
(俺は死ぬな。じゃあな、シーク。ちゃんとやれよ……。)
男の剣が首に伸びてくる。避けられないし、間に合わない。イージャはそれでも、剣を抜き続けた。
全ては一瞬だった。男がふわっと回るように動いた。イージャの首から血煙が上がる。
「アズレイ!」
朝日に照らされながら、血飛沫をあげたイージャの体は地面に倒れてビクビクと痙攣した。残っていた国王軍の兵士達に一瞬にして緊張が走った。全員、固唾を呑んで見守っている。シークと敵のニピ族らしい男に、痛いほどの視線が集中している。
「全く、使えない駒だった。」
男は何の感慨もなく、ピッと剣を振って血糊を払う。そして、呟いた。
「時間がかかりすぎた。まあ、いいか。親衛隊の隊長を一人は屠ったし。お前の代わりだ。」
いつの間にか、鎖の武器を持った男達はいなくなっていた。おそらく、国王軍の兵士達が来たからだろう。
だが、シークは今、そんなことを言って去ろうとしている男に対して、殺意を覚えていた。イージャを殺したのは、自分の代わりだと明らかに言ったのだ。
『せっかく、みんなと仲良くなれそうなのに…!』
いつか、若様が言った言葉が頭によみがえった。若様が惜しんだ気持ちが、そして、今はそれ以上に分かる。
せっかく仲良くなってきた所だったのに。イージャに恨まれ、憎まれたりしていたが、彼の人となりが分かってきた所だったのに。彼なら、首府にいる時の護衛も任せられると思った所だったのに……!
星河語
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