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教訓、五十五。人の意思は変え難いのに、人の命は儚い。 5

 フォーリは仲間からの知らせで、シークの宿に放火された知らせを受けた。急ぎ、若様を起こして逃げようとするが、若様がシークを助けに行ってほしいと言い出し……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)


 フォーリは窓から下の様子を確認していた。仲間がシークが休んでいる宿屋が火事になったと知らせてきた。シークの方に待機させていた仲間は殺されたらしく、連絡がないという。仲間が言うには、おそらくシークを殺すために火を放ったのだろう、ということだ。

 そして、悪いことに火を放たれると密集しているため、あっという間にこちらまで燃えるだろうということ。

 連絡を受けたフォーリは、すぐさま部屋の前にいたロモルに伝えて、ベイルとベリー医師に伝言を頼み、若様を起こした。

「……うぅ、もう、あさなの……?」

 寝ぼけている目を必死にこすり、若様が尋ねる。せっかくぐっすり眠っていたのに、申し訳ないが緊急事態だ。

「少し早いですが、起きなければなりません。緊急事態です。」

「……きんきゅうじたい?」

 少し、寝ぼけている若様の目がしっかりしてきた。

「はい。」

 フォーリが(うなず)いている間に欠伸(あくび)をして、伸びをしている。

「それで、急いで逃げなきゃいけないの?」

「はい。」

「何が起きてるの?」

「ヴァドサが宿泊している宿屋で火事が起きたそうです。」

 若様の目が見開かれた。

「……ヴァドサ隊長がいる宿で?」

「はい。じきに火の手がこちらにも回るでしょう。そのため――。」

「分かった。」

 フォーリが最後まで言う前に、若様が答えた。急いで寝台から下りたので、フォーリはさっと着替えを差し出して、下着を取り上げた。

「急いで着替えよう。ね、ベリー先生はいる?」

「いえ、まだです。」

「ねえ、フォーリ、助けに行って。」

 着替えさせようとするフォーリの手を止めて、若様が言う。

「若様。私は若様の護衛です。主君を置いて行くことはできません。」

「でも。私は大丈夫だよ。」

「大丈夫とは言えません。」

「だって、きっと向こうはヴァドサ隊長を殺すつもりなんだよ!今度は確実に殺すつもりなんだよ、だから、ここで(おそ)ってきたんだよ!」

 ここまで言われると、主が一番のニピ族は複雑な気持ちになる。やっぱりシークは主を盗もうとしている奴だと思ってしまう。本当は違うと頭では分かっていても。

「若様。ヴァドサとて、簡単にやられはしません。」

 動こうとしないフォーリを見て、若様がフォーリの肩を叩いた。その目に涙が盛り上がる。思わず、フォーリがその涙を見てたじろいだ時、ベリー医師が入ってきた。

「ほらほら、若様。フォーリを困らせていないで、早く着替えて下さい。」

「だって、ヴァドサ隊長が危ないかもしれないのに、助けに行ってくれないんだもん!」

「若様。ヴァドサ隊長を助けたいなら、素早く着替えて下さい。それが、彼を助けることになります。」

「え?」

「たった今、この旅館の前にヴァドサ隊長が走ってきて、敵と交戦中です。だから、早く着替えて下さい……!」

 ベリー医師に強い口調で言われ、若様は慌てて寝間着を脱ごうとした。だが頭がつっかえ、急げば急ぐほど寝間着が絡んでいるので、速やかにフォーリが手伝った。若様は今までにないほど素早く着替えた。

「様子を見て!」

 若様が強い口調で言うので、ベリー医師が若様を便所に連れて行っている間に、しぶしぶフォーリは窓の下をうかがい見た。だが、位置が違うので見えない。仕方なく窓枠をつかみ屋根に登って確認に行こうとした時、キン、キン、キンという金属音がこちら側に回ってきた。

(もしかして、こっちに回ってきたのか?)

 フォーリが思うとほぼ同時に、下に二つの影が見えた。だんだん明るくなってきたその中に二人の影が見える。一人はシーク。もう一人は黒づくめの男。

 シークは防戦一方を強いられている。

(!)

 フォーリはぎょっとした。黒帽子という謎の組織の者達の中に、自分達でも知らないニピ族がいることは分かっている。そのニピ族が剣を持って舞を舞っているのだ。ニピ族は普段は鉄扇を使う。そのニピ族が剣を持つのは明確な意志がある時だ。

 相手の強さを認め、確実に殺すという意志を明確にしている時、鉄扇ではなく剣を持って舞を舞う。鉄扇は手加減できる。だが、剣では手加減できない。剣で舞を舞えば、確実に死ぬ。

 元々、ニピ族の舞は剣で舞っていた。暗殺のための舞だったからだ。それを護衛の舞にするために、鉄扇に持ち替えたのだ。身内を護衛するために、暗殺家業の時から鉄扇は持っていた。

 おそらく、謎のニピ族は大変古い一族だ。そのニピ族が鉄扇ではなく、シーク相手に剣を持って舞を舞っている。フォーリは思わず両手を固く握りしめた。

 一瞬「逃げろ!」と叫びそうになった自分がいた。だが、そんなことをすれば、すぐに死んでしまう。あの間合いで逃げるなどあり得ない。背中を見せた瞬間に()られて死ぬ。

 気配で若様達が戻ってきたのが分かったので、フォーリはそっと呼吸を整えた。

「フォーリ?」

「はい。」

 若様はフォーリの側にきて、じっと見上げた。

「ヴァドサ隊長は大丈夫?」

「本気のニピ族を相手に、防戦をしています。」

 まず、見たままに伝える。

「それって、大丈夫なの?」

 若様の顔が不安そうになる。若様も敵にニピ族がいるらしいとは分かっている。

「普通、本気のニピ族の舞に防戦できることはありません。鉄扇ではなく、剣で舞を舞います。」

 若様が驚いた顔で、フォーリを見つめた。ベリー医師もびっくりしている。

「大丈夫なの?」

「若様。おそらく、ヴァドサは大丈夫です。まず、ヴァドサ流は剣がなくても戦う術をもっている流派です。その上、ヴァドサは見切っているように見えました。ずっと、敵の舞を防戦できているということは、見切っているからです。そうでない者は、とっくに斬られて死んでいるでしょう。」

 半分、自分自身にも言い聞かせているような状況だった。でも、今はそうするしかない。敵がシークだけを狙っているのか。そうは思えなかった。

「ほんと?」

 フォーリは静かに若様の目を見つめた。

「はい。勝機はあると思います。ヴァドサの才は(すさ)まじいです。私も(うらや)ましく思います。」

 シークの才能。じっと見ているだけで、真似できてしまう。ましてや打ち合っていたら、もっと早いだろう。しかも、命がけの状況なのだ。ずっと素早く対応できるようになるはずである。

「……分かった。行こう。」

 若様はフォーリの目を見て、何か感じたのかしっかりと頷いて促したのだった。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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