教訓、五十五。人の意思は変え難いのに、人の命は儚い。 4
遅くなって申し訳ありません。更新しました。
シークは謎の組織の男と対面していたが、男はシークと対戦するのを楽しみにしていたという。どうやら、ニピ族らしい男にそう言われても、恐ろしい予感しかもたらさなくて……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
対戦にたる人物だと思われるのは嬉しいことだが、急にそんな風に思われるのはどうも落ち着かない。しかも、相手はサリカタ王国一の武術を身につけており、ニピの踊りまたは舞は、ルムガ大陸一だとも言われている武術である。
「……楽しみにしていた所悪いが、手加減して貰えるとありがたい。なんせ、お前達のせいで毒を飲まされたりして、だいぶ体が弱っている。」
そこは、あえて嘘をつかずに真っ直ぐにぶつけてみた。
「そうか? それは悪かったな。しかし――。」
まさか、男が謝罪しようとしているのか……?
「しかし、あの強化されている窓を短時間で破って出てきたのだ。そんなに体力が低下したとは思えない。あのプーハル特産の糊は非常に頑丈なのだ。紙でさえ防具に変えるのだから。簡単には鏃も刺さらない。斧を投げつけた所、十秒ほど耐えたという逸話もあるほどだ。」
素直に謝罪してくれるわけではなかった。しかも、窓がどうりで頑丈だったわけである。椅子の脚が折れたわけだ。それにしても、たしかプーハルはトトルビ・ブラークの本拠地だったはずである。領主にちなんで、粘着質な物が特産品なんだろうか。思わず、そんなことを考えてしまう。
「……。」
シークが何も言えないでいると、男はさらに話かけてきた。
「かかって来ないのか?」
「ニピ族相手に、そう簡単に隙はない。しかも狭いし、死体も転がっている。」
「まあ、確かに足場は悪い。それに、煙もあるし、そっちには条件が悪いだろう。まあ、私達がそうなるように仕向けたが。」
男はそう言って、優雅に鉄扇で扇いでいる。男が扇がなくてはならないくらい、この辺にも煙が充満してきていた。シークはじっと考えてみたが、ここにじっとしていても勝機はない。若様がどうなっているかも気になる。フォーリもベリー医師もいるから、めったなことになっていないと思うが危険はある。
シークはふと、横を静かに歩いたら通れるような気がして、なんとなく実行してみた。
「……。」
男がじっと見ている。
「……。」
こっちも何も言わない。
「……どこへ行く?」
「足場の良いところへ。」
と言いながらシークは走ると、手近にいた鎖の武器を持った男を捕らえ、持っていた鎖で首を締め上げ、そのまま抱えて人質にして走った。もちろん、気絶させない。引きずって走るなんて無理だ。人質にした男も一緒に走らせる。
そして、ある程度、狭い通路を抜けた所で人質を解放すると、脇目も振らずに走った。あっという間に、若様が泊まっている旅館の前にたどり着く。普通に行けばなんてことはない距離だ。
旅館の入り口には国王軍の兵士が見張りに立っていた。シーク達が宿泊していた宿屋が火事になっているので警戒し、おそらく中にいる者達みんなにすぐに避難できるよう準備をさせているはずだ。その証拠に窓という窓から明かりが漏れている。
その緊張の最中に、シークが現れたのである。
「! 何も――。」
何者だと言いかけて、親衛隊の制服だと気づいたようだ。
「ヴァドサ・シークだ。閉じ込められた上に、部屋の前に火をかけられた。逃げてきたが追っ手が来ている、ちょっと避けてろ!」
シークは急いで後ろに跳び下がった。今、シークがいた所に鎖のついた分銅が突き刺さるように、ドンッと音を立てながら多少めりこんだ。
敵が鎖を戻そうとしたが、シークは逆にその鎖を掴み、相手が思わず引き寄せるのを利用して、さっと間合いに入り込むと足技をかけながら鎖を回し、敵の首に回して締め上げた。
「さすがに鮮やかだな。こっちも、手加減していられない。」
後ろに迫っていたニピ族らしい男は言うと、配下が帯剣していた物を引き抜いてきたのか、剣を持ってすっと進んできた。
「!」
咄嗟にシークは剣を抜いて相手の剣を弾いていた。
「本当に凄まじい才だな。勘もいいようだ。今まで舞を弾かれたことはない。」
舞、という言葉にシークは息を呑んだ。つまり、カートン家に協力し、契約を交わした方ではないということだ。しかし、フォーリ達は知らない様子。しかも、ニピ族は暗殺家業は基本的にしないのだ。しかも、お互いにニピ族が護衛している者を殺さないのは、暗黙の了解のことである。
それなのに、殺しを行うニピ族。明らかに異端であることは分かる。
そして、シークが驚いたのはもう一つ。剣でニピ族が舞をすることがある、ということだ。今までフォーリが剣で舞をしている所を見たことがない。だが、今の男はそれをするようである。それは、悪い予感しかもたらさない。
男がふわっと、浮くように前にやってきていた。考えるより先に体が動いていた。
キン、キン、キン、キン……シークは今、ひたすら防衛を強いられている。防衛しかできない。攻撃に転じる機会がない。相手は殺すつもりだ。フォーリ達と試合をした時とはまるで違う。あの時、彼らは手加減していたのだ。
くるくると剣舞を舞うように、だが、確実に急所を狙ってくる動き。一歩でも、一つでも動きを間違えれば、それが命取りになる。
周りで見ている者達は動いてこなかった。動けないのだ。まるで、二人して剣舞でもしているかのように見える。だが、シークは今まで経験してきた中で、一番、死の危険を感じていた。これは死の舞だと思う。
星河語
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