教訓、五十五。人の意思は変え難いのに、人の命は儚い。 1
更新しました。
意味深な副題となりました。
ヨヨの次の街で、いよいよ事が動きます。シークは宿の部屋に閉じ込められた上に、部屋の前に火を放たれます。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
結局、ヨヨには七日滞在してから出発した。大街道に通じる小街道を進んでいく。大街道に入ると、ずっと街道警備に当たっている、ブローブスの隊が護衛に合流することになっていた。若様が通る間は、交通も一定量に規制される。何かある場合は大街道に出る前だろうとシークを始め、そう考えていた。
街道で何かあるのか、みんな警戒しながら進んでいたが、心配したことは起こらずに、予定の町まで到着した。田舎の呑気な町だ。小街道沿いで、全く人の往来がないではないが、ヨヨに近いせいもあって、あんまり人が立ち寄らない。素通りすることがほとんどだ。
シークはみんなに警戒するように伝えた。もし、自分が敵ならここを使う。こうして、警戒しながらの夜が更けていく。
そして、朝方。うっすら辺りが明るくなってくる前の時間帯である。シークは微かなカタン、という音で目が覚めた。謎の組織の男が侵入して以降、イージャは何かあってからでは遅いと言って、夜は手枷を外してくれていた。
だが、フォーリが、それでは敵を騙すことができないのではないかと言ったので、形だけ嵌めており、鍵は外しておくことになった。手枷を外して枕の下の短刀を確かめる。剣もあるが、この宿の部屋は狭いので短刀の方が有利だ。
じっと息を潜めて相手の出方を確かめる。だが、待てど暮らせど誰も侵入してこない。シークはそこで、そっと起きだして、まずは廊下の様子を確かめようとしたが扉が開かない。嫌な予感がしたので、すぐに着替えておいた。
この宿はカートン家の施設ではなかった。さすがにヨヨの隣町であるため、カートン家の施設もなかった。それで、町で一番大きくて立派な宿に泊まっている。ヨヨであぶれた人が泊まる宿があるため、宿だけはそれなりの宿があった。
ほとんどが素通りするのだが、そういう需要もあるのだった。近いために、ヨヨで泊まらずにここで泊まるという考えだ。
とにかく、それで若様がなんとか泊まれる程度の宿で泊まっていたが、シークは一応、見張られているため、別の宿に泊まっている。みんなが一カ所に泊まれるほど宿屋が広くない。そのため、あちこちに分散して宿泊していた。
シークは若様達が泊まっている宿から、二つ建物が離れた所に泊まっている。宿としては隣であるが、間に別の建物が建っていた。
それで、シークが泊まっている部屋だったが、鍵が壊れていると主人は言っていた。だから、内側に臨時につけた金具を鍵の代わりにしていると言っていたはず。そして内側から本来ついていた鍵を開ける術はない。
(……なるほど。私を閉じ込める作戦か。この町で宿泊すると誰が向こうに伝えたんだろうな。)
もうこうなると、誰か内部に密偵がいるとしか考えようがない。というのも、本当はもう一つ先の町に泊まる予定だったのだ。だが、敵の目をくらませるため、わざと予定外の動きを続けていた。わざと出発を遅らせたり、わざとすぐ隣の町に泊まったり、ということをして、敵を攪乱させつつ、若様の安全を確保しようとしている。
だが、こうして予定外の隣町に宿泊しているにも関わらず、ちゃんと手を回してくる。若様が泊まれるようにするため、急な変更とは言え、移動や準備も考えて、三日くらい前には先触れを出して伝えておかなくてはならない。食事などで問題があったら困るからだ。その三日で準備をしてきたのだ。
シークは素早く着替えを済ませると、少ない荷物を持って窓を開けようとした。が、開かない。そういえば、この部屋は独特な臭いがしていた。油臭いような妙な臭いだ。それを消すように、わざわざ香を焚いていたようだったが、変な臭いだったので消して貰った。その時は、窓を開けていたはずだったが今は開かない。
「……。」
やはり、油のような臭いからして、焼き討ちを考えているだろうか。窓は膠かなんかで固めたのだろうか。それにしても、素早く頑丈に開かなくしてあるものだ。
シークが部屋の窓を破るかどうか考えていると、何かドサッと部屋の前に置かれた音がした。明らかに今、部屋の前に誰かがいる。
扉の上下の微かな隙間から、火の明かりが見えていた。
(やっぱり焼き討ちか。生きたまま焼き殺すつもりか、今度は……!)
いろんな手を考えてくるものだ。躊躇している暇はない。シークが暗闇の中で窓を壊す物を物色している間に、ボッといった直後からパチパチと音がしはじめた。そして、油臭いような嗅いだことのない臭いが漂い始めた。しかも、火の勢いが凄まじい。あっという間に、扉全体に広がったように思う。
ぼやぼやしている時間はない。シークは手近にあった椅子を持ち上げると、迷いなく窓にぶつけた。普通ならガシャンと派手な音がして、窓ガラスが砕け、ガラスの格子も壊れていくはずなのだが、ガシャンという音がしなかった。
ガゴン、という鈍い音がして、簡単には割れなかった。そういえば、着いたのが夕方だったせいもあって、開いている窓から外を確認した後は窓を閉めてしまった。その時に、ガラス越しの風景が曇っていて見えなかったが、それも、質の悪いガラスのせいで風景が見えないのだろうと思っていた。
それに、窓の外が見えないなくても光りは入ってくるので、それはそれで情緒があるかもしれない、などと考えていたのだが、これは窓ガラスの質のせいではなく、何か窓ガラスに張って丈夫にしてあるせいで、破れにくくなっているのだと考えられた。
つまり、最初からシークを丸焼きにする予定でこの部屋を準備しておいたのだ。黙って丸焼きにされてはたまらない。シークは必死になって窓ガラスを破ることに専念した。
星河語
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