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教訓、五十三。悩みは人に話すと、あまり悩みではなくなる。 3

 状況の打開のために、イージャが人質になっている両親を諦めると言い出して、シークは考えを改めさせようとして、馬車の中で2人は大げんかをする。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

「……お前の幼馴染みの女性のことについては、その…エーナさんか?」

 シークは静かにイージャに確認した。

「ああ。エーナだ。一度、婚約した仲だった。」

 イージャの答えにシークはびっくりしたが、だから、余計に王妃達に対して腹を立てているのだと理解した。

「…そうだったのか。知らなかった。」

「そりゃあ、話したことなかったからな。」

「……エーナさんのお悔やみを申し上げる。あの時の一度しか会ったことはなかったが。」

「ああ。……実は、エーナの奴、あの一回きりの出会いで、お前に一目惚れしてたんだ。」

 シークは思わぬことを言われて、理解するのに時間がかった。

「……は?」

 イージャはずっと膝の上で頬杖していたが、シークの聞き返した声でようやく顔を上げた。

「だよなあ。そうなるの、当たり前だよな。まあ、忘れてくれ。」

 妙に清々(すがすが)しい声でイージャは言った。実際の所、エーナの一目惚れはシークにしても、見当違いの的外れというか、考えもしないことだっただろう。ぽかんとしたシークの顔を見て、イージャは全て流してもいい気がした。エーナのことについては。

 イージャは話しながら、どうしたら打開策が見つかるか考えていたが、どう頭を(ひね)っても、絶体絶命の状況だった。ただ、一つだけ考えはあったが、それをするには、さすがにためらわれる。

 しかし、軍人としてのイージャは、そうするしかないと言っている。私人としてのイージャは反対するが、頭ではそうすべきだとも思っている。

 なんだかんだいいつつも、イージャは真面目に任務をこなしてきた。セルゲス公について、不敬とも取れる言動をしていたのは、単にシークに当てつけたかったからだった。

 実際には王族の一人だ。それに、村での一件で本当は馬鹿ではないということも分かった。病で正常な判断ができないわけでもない。村娘を殺そうとした時、村人の血を流すなと言ってきた。

 フォーリに剣を折られて腹が立ったが、セルゲス公はやれば、ちゃんと王子の役目を果たせると知った。

 そうなると話は違ってくる。病の王子に位をやる必要はないと思うが、ちゃんとできるなら守ってやりたいと思う。確かに病には、なりたくてなるものではないだろうが、それでも、病の王子の護衛よりは、正常な王子の護衛に磨いてきた剣術を使いたいものである。

「それで、お前はどうしたいんだ?」

 シークの再三の問いに、イージャは再び考え込んだ。

「……どうって言われてもな。」

「だから、お前の素直な気持ちだ。」

「……お前のことは嫌いだが、だからと言って、殺すほどでもないな。それよりも、あの二人の鼻を明かしてやりたい。」

 シークは頷いた。イージャは負けず嫌いだから、余計に腹が立つのかもしれない。

「だが、お前の状況は絶対絶命だぞ。どうするつもりだ?」

「ああ。絶対絶命だな。まぁ、方法はないわけではない。」

「どんな方法だ?」

「簡単なことだ。私が両親を見捨てれば良い。これが一番、合理的だ。」

 シークは一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「…何だって?」

「だから、人質を見殺しにする。」

「お前、何を言ってるんだ!」

 思わずシークは手枷(てかせ)がついたままの手で、イージャの胸ぐらに掴みかかった。

「お前、それはご両親を見殺しにすることだぞ!? 分かってるのか!?」

 しばらく前に、自分も若様に対して同じ事を言ったことは棚に上げて、シークはイージャに怒鳴った。ちょうど、馬車が曲がり角に差しかかり、二人は体の均衡を崩して、客車の壁にぶつかった。

「いてて……! ひっつくな、重いから離れろ。」

 イージャの文句に、余計にシークは腹が立った。

「お前! そんなことを言ってる場合か!」

「じゃあ、他に打開策はあるのか!? それが一番簡単だろうが!」

 だが、シークはイージャの心変わりが理解できなかった。

「なぜだ!? どうして、急にそうすることにした!? お前、私のことが嫌いだったんだろう?」

 シークに怒鳴られて、イージャも腹が立った。こっちがシークのために両親を諦めようとしているのに、諦めさせまいとしてくる。

「そうだ、嫌いだ! だが、私だって、一応は国王軍の軍人で、その上、親衛隊に任命された身だ……! 確かに、一時はお前に復讐してやりたい気持ちに駆られたが、親衛隊としてセルゲス公の護衛に任命された以上は、任務をやり遂げたい!

 そうでないと、部下達の将来がどうなると思う!お前だって分かるだろう! だったら、私の両親を見殺しにするしか、道はないだろう! これでも、私だって隊長なんだ! お前だけじゃない、部下達のことを思うのは!」

 イージャの本心を聞いて、ようやくシークは納得できた。

「分かった。」

 シークは彼の胸ぐらから手を離し、ゆっくり座席に座り直した。イージャも座り直す。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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