教訓、五十三。悩みは人に話すと、あまり悩みではなくなる。 2
シークはイージャが王妃に向かって言いたい放題、言っていたことにびっくりしていた。よく不敬罪で殺されなかったというところだか……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
シークは大きなため息をつくと、もう一度イージャを見やった。
「――アズレイ。お前、得意そうな顔をしている場合ではないぞ? 分かっているのか? 妃殿下にそれだけ言えば、失敗した場合、お前は確実に殺される。いや、実際には妃殿下ではないのかもしれないが。」
「……まあ、そうだろうな。」
イージャはシークの顔を観察してから、答えた。ずっと悩んでいたのだから、それなりに彼も困っているに決まっているのだが、それでも、どこか人ごとのようにイージャは答えた。
「とりあえず、私が確認したいことがある。妃殿下と面会した際に、誰か妙な人物はいなかったか?たとえばだが、ニピ族のような男とか。」
シークの質問を聞いて、イージャの顔が弾かれたように上がり考え込む表情になった。
「……どうして、そういう男がいると分かっている?何か知っているのか?」
イージャの答えを聞いて、シークは当たりだったと思う。昨日もモナと少し話したのだ。おそらく、イージャの家族を人質に取ったのは王妃だろうと。そして、王妃の側には見慣れぬ何者かがいるはずだと。
その何者かは、おそらく『黒帽子』の一員のはずだ。その謎の人物について、イージャから聞き出そうということになっていた。
「…知っているといえば知っている。何度か接触している。セルゲス公を狙っているのは、その者達だからな。王宮にも根深く存在するとは思っていたが、やはり、妃殿下の側にもいたか。」
昨日の相談で、イージャにある程度のことを話してみようということになった。ベイルは反対していたが、状況が変わったから味方に引き込むべきだとモナが主張したのだ。ロモルも少し考えてから同調し、フォーリは信用はできないが、利用するのはいいかもしれないと言い、ベリー医師はその辺は任せると言っていた。
「……そういえば。おかしなことがあった。」
イージャが考え込みながら言いだした。
「おかしなこと?」
「ああ。私が王妃に向かって暴言を吐いている間、その男はなぜか注意したのは最初だけで、後は放っていた。私が言わせるままにしていた。」
本当に王妃の側近ならば、王妃に対して不遜なことを言い始めた時点で、厳しく注意するか、もしくは部屋を追い出すか何かされるはずだ。
「確かに変だな。」
「ああ。後で私を殺そうとした時があったが、その時は王妃が止めた。私がセルゲス公を殺したい理由が、王位につかれたら困るようなことをしたんだろうと言った時だ。その後は私を殺そうとしていた。
あの男、私が王妃を侮辱したから殺そうとしたのではないと思う。その男にとっても、あまり人に知られたくない事に私が触れたから、私を殺そうとしたのだと思う。」
確かに王妃は、若様が王位に就いたら復讐されるだろうことをしている。今まで、息子のためになりふり構わずに、行動しているのだとばかり思っていたが、確かに考えてみれば復讐されるのが恐い、というのもありそうな線だ。
「…確かに。その線もあるかも。セルゲス公にそれだけのことをなさっておられるからな。」
シークの呟きにイージャの方が微かに目を見開いた。
「……なるほど。お前はある程度知っているのか。」
「まあな。この一年ほどの間に、今まで生きてきた以上のことを経験した。」
シークは苦笑いする。
「……そうか。」
イージャは妙に神妙な顔をしている。
「…なあ、アズレイ。お前、私を殺すように言われたのか?」
シークの問いに、イージャはため息をついた。
「王妃はお前が邪魔だから、殺せと言っていた。でも、側についていた男は、お前を拘束するだけでいいと。セルゲス公についても、何もしなくていいと言われた。」
素直に話すイージャ。
「とりあえず、拘束はしているが、実際にお前に手を下すとなると、私が犯人として捕まるだけだ。部下達もただでは済まない。面倒なことだ。まったく、権力だけが取り柄の嫌な女だ。」
「……。」
「たとえ、お前に私自身が手を下さなくても……あぁ、そういうことか。結局、私が犯人になるってことか。あの野郎。私がお前を殺さなくても、私が殺したことになる。
あの男、きっと、私がお前をし損じると思ったから、拘束するだけでいいと言ったんだろう。そして、自分の手でお前を殺すつもりだった。だが、犯人になるのは私。家族が人質になっているから、犯人に黙ってなるしかない。」
イージャはかなり面倒な状況になっている。かなり追い詰められている状況ではないか。それに、どこであの黒帽子が仕掛けてくるか分からないのだ。
「それに、見張られているようだから、手を抜くわけにもいかないし。どうするか、考えものだ。」
シークはイージャの言葉に、引っかかった。つまり、見張られていなければ、手を抜くということか?
「アズレイ。一つ聞きたいんだが。お前はどうしたいんだ? 本当に私を殺しに来たのか?」
それにしては、どこか妙だ。本気で殺したいなら、今、馬車に乗っている間中ずっと隙だらけだったのだ。それなのに、何一つしてこない。殺気もない。そう、殺気を感じないから馬車に乗れと言ったのだ。今回の件より前の方が、妙に殺気の籠もった目で見られていた気がする。
今のイージャはどこか吹っ切れたのか、何かが変わった気がしていた。
「……。妙な所で鋭いんだな、お前。」
唸ったような声でイージャが呟いた。
「…確かにお前のことが嫌いだったはずなのに、なんだかな。何というか、相手の手の上で踊らされるっていうのが、どうにも気に入らない。筋書き通りにするのが、癪に障って腹が立つ。そんな所だな。」
「やっぱりな。殺しに来たにしては、妙に殺気がないと思った。」
「そりゃそうだ。殺す気がない。殺したら面倒だろう? なんで、私が罪を被らなきゃいけないんだ。」
イージャは膝の上で頬杖をしながら答える。
「だよな。私は一応、親衛隊の隊長だし、陛下のお怒りを買うに決まってるもんな。」
「それに、私が素直に言うことを聞いて、王妃とあの男が喜ぶだけだと思うと、妙に納得がいかない。なんとかして、あの傲慢な女の鼻っ柱を折ってやりたい。それくらい、腹が立つ。エーナを殺したんだから。」
イージャはシークに説明しながら、そうか、自分は怒っているのか、とようやく理解した。そうだ。あの二人のせいでエーナが死んだのだ。どうして、あの二人の言うことを聞かなくててはならないのか。ようやくイージャは自分の気持ちに納得した。
星河語
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