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教訓、五十三。悩みは人に話すと、あまり悩みではなくなる。 1

 イージャはシークに提案されて、馬車に一緒に乗って話をすることにした。困らせるために話をすることにしたはずだったが……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 イージャが何もできないまま、ゆっくりしか進んでいないのにも関わらず、確実に旅路は進み、とうとうヨヨの街の手前にまで到達した。

「――アズレイ。アズレイ、大丈夫か?」

 ようやくイージャは、シークに呼ばれていたのだと気がついた。

「大丈夫か?ずっと上の空だったが。」

 シークが言う通り、最近ずっと上の空かもしれない。シークのことを恨み、憎んでいたはずなのに、いざ彼が殺されるかもしれないと思うと、決心が鈍った。拘束するだけでいい、と王妃の配下の男は言った。

 拘束さえすれば、お前は何もしなくていいと言われていた。でも、いつ、何が起こってどうなるのか、気が気でなかったのだ。確かに拘束している。手(かせ)で拘束したシークを馬車に乗せるために、連れてきたのだった。もう、いつの間にか馬車の前に来ていてシークは自分で馬車に乗り、扉を閉めるまでになっていた。

 本当に自分は、シークを殺すほどに憎かったのか。そんなに恨んでいたのか。そう、突き詰めれば突き詰めるほど、悩みは深くなった。

「アズレイ。一緒に馬車に乗らないか?」

「……? は?」

 シークの提案に少し間が空いてから、何を言われたのか理解して聞き返した。

「話がある。それに、お前はずっとぼんやりしている。その状態で馬に乗ったら危険だ。とにかく話があるから、一緒に乗ってくれ。」

 確かにこの機会に、シークにエーナのことを話して聞かせてやるのもいいかもしれない。イージャはそう考え、部下を呼んで自分の馬のことを任せた。

「大丈夫ですか?」

 馬のことを任せた部下に聞き返されたが、大丈夫だと伝えて下がらせて一緒に馬車に乗った。

 カートン家の駅を出発して、しばらくしてからシークが話し出した。

「アズレイ。ずっと聞きそびれていたから、ちゃんと確認しておきたい。」

「…何をだ?」

「お前のご家族が人質に取られている件だ。」

 やはり、その事だったか。

「一体、誰に人質に取られている?」

「……。」

「…おそらくという想像はついている。それでも、確認したい。」

 シークの表情は真剣だった。しかも、イージャの家族を案じているだろう、というのは分かった。敵愾(てきがい)心を持ってシークに対していたが、嫌味を言うために観察していた所、かえってシークの表情や心情を慮るのは上手くなっていた。

「それでは、お前の想像通りだ。」

「それでも、きちんと誰だか言って欲しい。それでは確信を持って、次の質問ができない。」

 次の質問が何なのか気になったイージャは、もう一度シークの顔を見た。やはり、心配そうにイージャを見つめている。イージャは一度馬車の床を見てため息をついた。決して乗り心地が良くない、床もがたついた馬車だ。

 さすがに、今回は王宮からの呼び出しなので、セルゲス公は王家の紋章がついた馬車に乗っている。来る時は、ラスーカ・ベブフフが嫌がらせをして、きちんとした馬車を遣わさなかったと(うわさ)で聞いていた。

「王妃だ。」

 あんな女に敬称をつけたくなかったので、そんな風に答える。

「おいおい、アズレイ。どこで誰が聞いているか分からないんだ、付けたくなくても敬称くらいはつけておかないと。」

 シークがびっくり(まなこ)でイージャに注意する。そんなシークを前にして、もうすでに遅いと思ったイージャは笑った。

「すでにさんざん言ってある。それでも、殺されなかった。」

「さんざんって、一体、何を言ったんだ?」

 ただでさえ(おどろ)いているシークをもっと驚かせてやろうかと思い、口の端を上げてイージャは不敵に笑うと続きを話すことにした。

「ああ、そうだな。傲慢(ごうまん)でいけ好かない女だって言うようなことを言った。それに、他人の力を自分の力だと勘違いしている、愚かで馬鹿な女だとも言ったっけな。」

 話して正解だったとイージャは思う。イージャが見た中でもっとも笑いを誘う顔で、シークはびっくりしてイージャを凝視(ぎょうし)していた。シークにしてみれば、驚きを通り越して呆れていたのだが。それに気をよくして、イージャはさらに付け加えた。

「セルゲス公を王位につけたくないのは、王太子殿下のためではなく、自分が権力を握っていたいからだろう、セルゲス公が王位についたら、復讐されるから、それを怖れて王位につけたくないんだろうと言ってやった。」

 ふふん、と妙にすっきりした表情で話すイージャを見て、シークは今までにないほど驚いていた。驚くではすまないかもしれない。そして、イージャという人格を、今まで勘違いしていたとシークは気づいた。

 彼の剣術は豪胆な居合剣術のガドカ流だが、それだけではない。彼の性格自体も豪胆なのだ。こんなに豪放なのだと知らなかった。どこか陰湿に(にら)みつけていたのは、どうしてだろうか。彼には似合わないことをしていたのではないか。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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