教訓、五十二。愛してその悪を知り、憎みてその善を知る。 3
シークとイージャは一応、話し合いを始めたがイージャが思ぬことで怒りだし、シークは困惑する。すると、イージャはその反応でも怒っていたが、ベリー医師が爆笑し始め……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
シークは静かにイージャを見つめた。
「何度も言うが、私は陛下がそこまで仰るとは思えない。何者かが命令を変えた以外では。入浴の時間から食事の時間まで、そこまで制限するという非合理的な命令は、本当は誰が出したのか。」
「……。命令通りに従っているだけだ。」
いつものイージャにしては歯切れが悪い。
「そうか、分かった。それでは、もう一つ、確認させてくれ。お前、家族を人質に取られたのか?」
一瞬、凍り付いたようにイージャは固まった。
「何を言っている?そんなわけないだろう?一体、誰に取られるというつもりだ?」
「そうか?もしかして、いつだったか訓練兵の時代、お前を迎えに来ていた赤茶色の髪の女性が人質に取られたのかと思ってな。親しそうだったから。」
その女性のことを口にした途端、イージャの顔色が明らかに変わった。
「…誰のことを言って……。」
イージャはそう言おうとして、結局口をつぐんだ。明らかにイージャは今、狼狽している。
「エーナは死んだ。」
ぽつりとイージャが答えた。彼女はエーナというらしい。エーナという女性に不幸が降りかかったようだ。エーナのことを何もないと否定することは、イージャにとって彼女との関係を否定することも同然だったから、否定できなかったのだろう。
「エーナは殺された。」
やはりそうらしい。あの黒帽子という謎の組織が使わないはずがない。
「…お前の……貴様のせいだ!」
突然、イージャは激昂するとシークに掴みかかってきた。
「貴様のせいで、エーナは殺された!」
「…悔やみを申し上げるが、あいにく私のせいではない。お前を利用しようとしている人達のせいだ。」
「うるさい、黙れ!!」
イージャが服を締め上げながら、殴りかかってきたので、シークは応戦して結局投げ飛ばした。受け身を取ったものの、首を絞められるは投げ飛ばされるわで、イージャの隊長としての威厳は台無しだ。もうちょっと手加減してやれば良かったか。
シークがそんなことを考えていると、イージャがもぞもぞと起き上がった。
「くそ、貴様のそういう、年上ぶった上司面に腹が立つんだ!貴様、同じ年のくせに、いつもこっちを年下扱いして見下しているだろう!」
立ち上がったイージャに思いもしないことを怒鳴られて、シークは思わず呆然としてイージャを見つめた。
「別に見下していない。」
「何が見下していないだ!やることなすこと、私のことを見下して、いつも上司達と同じような表情で見ていただろう!今だってそうだ!!」
「…はあ?何か誤解しているみたいだが。」
「はあ、だと!?貴様――。」
ぶっ、くくく、と笑い声がして、思わず二人は振り返った。犯人はベリー医師だ。フォーリも苦い顔で黙っている。
「君、君、そんなことで張り合って、馬鹿にされたと思って嫌っていたのかい?可哀想に、そんなことしたって、この人には百年経っても通じないよ。」
さすがに少し失礼すぎやしないだろうか。ベリー医師のせいで、真面目な話をしていたはずなのに、どこか調子が狂っている気がする。
「まあ、諦めなさい。それよりも、好きな女性が殺された上、ご家族が人質に取られている状態じゃ、言うことを聞かざるを得ないでしょうな。可哀想に。」
途端にイージャはベリー医師に可哀想な人扱いされて、よしよしと肩を叩かれて慰められている。
「私はそんなことは認めていません。」
はっとしたイージャが慌てて反論しているが、こっちは彼の反応で大方そうであろうと見ている。
「そういうことであれば、仕方ないか。」
フォーリにも呟かれ、イージャはどこか小さくなっている。
「だから、違うと言っている。」
しかし、否定しようとすればするほど、そうなのだろうと思われていく。周りの国王軍の兵士達も、彼の部下達も人質を取られていると聞いて、納得したような表情を浮かべていた。なんせ任務にかこつけて、私怨を晴らしている状態だという指摘は本当だったからだ。
「アズレイ。お前の置かれている状況を鑑みても、私を拘束すべきだろう。だが、条件がある。私の部下達は関係ない。だから、お前の監視から外せ。今まで通り行動させろ。若様……セルゲス公もその方が安心される。ベイルが隊長の代理を行う。」
「しかし、無関係ではない。」
「アズレイ。お前の理由は、私が事件の容疑者に名が上がったからだろう。疑わしいのは私なのだから、私一人を拘束するだけで済むはずだ。」
「拘束?」
「拘束しないのか?しておいた方がいいんじゃないのか?お前が任務をちゃんと果たしているかどうか、確認された時にまずいんじゃないか?人質を取られている以上、それくらいしておかないとな。」
さっきから、拘束する話をしていたはずだが妙な返事だ。もしかして、思考が鈍る薬でも盛られていたんだろうか。それとも、口では拘束すると言ってはいたが、本当はする気がなかったのか?妙な反応にシークは首を捻った。
「それでいいか?」
シークの確認にイージャは頷いた。
「……分かった、それでいい。」
苦い声でイージャは何か言いたそうに頷いた。
後でやってきたベリー医師によると、こっそり口が滑りやすくなる薬を彼の部屋の水差しに入れて混ぜていたんだそうだ。死なないから大丈夫だと言っていたが、なんとも大胆で恐ろしい。どうりで、いつものイージャと違うわけだった。
星河語
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