イージャ・アズレイという男 8
グイニス君が今回はいい仕事をします❗だんだん、才能を表して来ましたよ。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
グイニスが起きようと布団をめくると、ようやくフォーリが気がついて振り返った。
「!若様、申し訳ありません。お目覚めになったのですね。起こしてしまったでしょうか?」
言いながら急いでやってきて、グイニスの肩に毛織りの肩掛けをかけてくれた。
「ううん。それよりも、何があったの?セリナがいるの?」
グイニスがセリナの名前を出した途端、フォーリの顔がやや苦いものになったが、すぐに気を取り直したように答えた。
「はい。どうやら、若様に会いに来ようと塀を乗り越えて屋敷に入ったようです。それで、捕まっています。ちょうど、朝の見回りをしていたヴァドサが気がついて助けようと介入していますが、難しいかと。」
グイニスは頷いた。
「あのアズレイが、何かヴァドサ隊長に言いがかりをつける?」
フォーリは厳しい表情で首を振った。
「それでは済みません。おそらく、アズレイはヴァドサが剣を抜くのを待っているのです。剣を抜いた所で、陛下の命令の遂行を邪魔した罪で捕らえる算段でしょう。」
その時、セリナの悲鳴が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!なんで、殺されなきゃいけないの!」
この声で、グイニスは合点がいった。セリナを助けるために、シークは必ず剣を抜く。だから、おそらくセリナを処刑すると言っているのだろう。シークが必ず剣を抜くように。
「フォーリ。」
グイニスが呼ぶと、フォーリはすぐに姿勢を正した。下からは「や、やだ!死にたくない!」というセリナの悲鳴が響いてきた。
「はい。」
「セルゲス公として命ずる。セリナを助けよ。そして、村人の血を流してはならぬとアズレイに伝えよ。ヴァドサに剣を抜かせるな。」
「は。」
その間にも「ふぃやあああぁぁぁ!!!」という独特な剣を抜く前の気合いを入れている声が聞こえてきた。一瞬、何の声か分からなかった。シーク達の剣の練習に参加したことがなければ、分からなかっただろう。きっと、セリナも度肝を抜かれてびっくりしているはずだ。
フォーリが窓を開けると、さっと窓から身を翻した。ニピ族は背中に羽でも生えているのかと思うほど、二階や三階から出入りするのが好きだ。
フォーリが飛び降りていった直後に、ガッキィィン!という激しい金属音が響いたので、フォーリが間に合ったのが分かった。そもそも間に合うと信じていた。二階のすぐ下だったのが幸いした。セリナもこの中庭の位置が、グイニスの部屋の下だと分かっていたから、ここを選んで入ってきたのだろう。
「フォーリ!」
シークのほっとしたような声が聞こえてきた。
その時、部屋の扉が叩かれて、入室を求めるベイルの声がしたので許可した。ベイル以外の許可はしていないので、彼の監視にくっついていたイージャの部下は、部屋の前で待機だ。
ベイルは入ってきてグイニスの隣まで来ると、そっと背中を押して窓辺に誘導した。静かに下を見れるようにしてくれる。
「貴様…!なぜ、邪魔をした!?しかも、剣を折りやがって!」
イージャが被っていた猫をかなぐり捨てたらしく、怒りをむき出しにしてフォーリに怒鳴りつけた。今までフォーリは、セルゲス公であるグイニスの直接の護衛なので、どこか遠慮していた様子だった。それが、今は本性を現しているようだ。
「若様のご命令だ。村の者の血を流してはならぬと仰せだ。」
怒り狂うイージャとは対照的に、フォーリは冷静に淡々と答えた。
「私は陛下のご命令を受けている…!貴様のように個人的な護衛ではない!個人の護衛が余計な口出しをするな!」
「たとえ、個人的な護衛であろうとも、ニピ族の護衛を陛下もお認めになられている。それを否定するのか?」
「そうであったとしても、陛下のご命令の方が重んじられる。当たり前のことだ。若様は陛下の甥御にすぎぬ。その者は処刑されてしかるべき行為をした。邪魔をするな!」
イージャはまくしたてている。
「それは聞けない。」
あくまで淡々とフォーリは返す。
「私は今回の移動にあたり、全権を陛下から委ねられている。あくまで邪魔をするなら、ニピ族であっても貴様を捕縛するぞ。」
獣が唸りをあげるように、イージャはフォーリを威嚇する。だが、フォーリの方が格上だと感じるのは気のせいだろうか。余裕がないイージャに対し、フォーリは落ち着いている。
「お前は知らないのか。国王軍の兵士は、陛下がご不在の場合、次の指揮官に従う。最初に王太子、王太子が幼いかまた不在の場合、もしくは病などで正しい判断ができない場合は、王妃またはセルゲス公に従え、とある。」
フォーリに決まりを持ち出され、シーク以外の国王軍とアズレイの部下達がはっとしている。さすが、フォーリだ。シークは完全にフォーリに任せるつもりなのだろう。黙って様子を見守っている。
「若様はセルゲス公だ。その上、ここには国王陛下も王太子殿下もいらっしゃらない。繰り返すが、セルゲス公が村の者の血を流してはならぬ、と仰せだ。」
「…だが!」
それでも、イージャは何か言おうとしていた。
「療養中の気が狂った王子が出した命令に、従うことはできぬと言うのか?村の者の血を流してはならぬ、これのどこがおかしい?」
さっきまでの勢いがイージャにはなかった。本当は喜んではいけないと思うが、なんだか胸がすくような気分だ。もう、他の国王軍の兵士には、イージャの方が正しいと思う空気はなくなっていた。イージャの部下達だけが、困ったように佇んでいる。
「分かった。セルゲス公のご意志に従おう。」
ようやく悔しそうな声でイージャは言うと、折れた剣を鞘にしまった。
「今日は命拾いしたな、娘。」
フォーリに言い返せない分、セリナにぞっとするような冷たい声で言うと睨みつけている。セリナがその声にびくっとしていて、それを見た途端、腹が立ってセリナにここから声をかけたかったが、隣のベイルに肩をぽんと叩かれて思いとどまった。
「くそ、名刀なんだぞ、これは。」
イージャはフォーリに折られた剣を拾うと、手巾を出してくるんだ。フォーリとシークを睨みつけながら、部下達に持ち場に戻るように指示している。イージャに睨まれてフォーリは睨み返し、シークはセリナが助かったので、もうどうでも良さそうな猫のような表情で眺めている。
たぶん、挑発に乗らない上に、どうでも良さそうな態度を取られるから、イージャは余計に腹が立つんだろうとグイニスは思う。
「さっさと帰れ。」
地面に座り込んだままのセリナに、八つ当たりのように冷たい声でイージャは言う。セリナに対して冷たく当たっているので、余計にグイニスはイージャが嫌いになった。
イージャに冷たく言われたセリナは、よろよろと立ち上がって、中庭の木の下の方に向かった。たぶん、あそこから入ったんだろう。
「どこから戻るつもりだ。」
イージャがセリナの首根っこを掴む。そして、ぐいぐいと彼女を引きずって歩き出した。
それをフォーリとシークは黙って見守っている。殺されないと分かっているとはいえ、もう少しセリナに対して優しくするように、言ってもいいのではないか。
「仕方ありません、若様。これ以上口は出せません。」
グイニスの心を読んだように、ベイルが困ったような声で言った。
「…うん。」
仕方なくそれだけグイニスは答えた。後で少しだけ二人に抗議しよう。この時、グイニスはそう思った。
(さようなら、セリナ。元気でね。)
グイニスは、心の中でセリナに別れを告げた。
星河語
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