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イージャ・アズレイという男 7

 実は屋敷にセリナが侵入したのだった。というのも、若様がサプリュに行ってしまうと知り、その前に会いに来たからだった。しかし、それを逃すイージャではない。さっそくシークの揚げ足を取ろうとしてきて……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

「何を甘いことを。侵入者だ。」

 どこか嬉しそうにイージャは言う。ようやくシークの揚げ足を取れる、決定的なものが目の前にあるのだから、そうだろう。

「村娘だ。そんなことをやっていたら、村中の娘達を殺さなくてはならなくなる。」

 それを聞いたイージャは鼻で笑った。

「構わん。どっちだ?若様かフォーリ目当てなのだろう。見せしめにちょうどいいのではないか?」

 やはりな、と思う。セリナを殺すつもりなのだ。イージャはいつからか、規則を破った人達を斬りたがる傾向にあった。規則を破ったといえば確かにその通りなので、誰も反論しにくいが、だからと言って殺してまで通すべき事なのかという疑問が当然ある。

「やめろ。ここの責任者は私だ。」

 だが、イージャは自信満々に言い放つ。

「私は陛下からじきじきに、きちんと命が行き渡っているか確認し、なってない場合は是正せよとのご命令を承っている。」

 到着した三日前に言っていたことと違う。規則が守られているか確認しなければならないと言っていたが、『是正せよ』という命令だとは言っていなかった。任務をきちんと全うするために、お互いに受けた命令は、書類を提示して確認し合うことになっている。だが、それをイージャはしなかった、というか、伝えるべき情報を隠していたのだ。

 腹が立ったが、今そのことを追求している場合ではなかった。セリナの命がかかっている。

 そんなシークを、イージャは冷徹(れいてつ)な眼差しで眺めた。

「…そもそも、なんで四倍の八十人でここに来たと思う?」

「……それは。」

 さすがのシークも腹が立ち、何か言い返してやりたいのだが、普段より悪口の語彙(ごい)数が圧倒的に少ないため、こんな時に出て来ない。その上、何か言おうにも下手に言えば、若様の立場が悪くなる。それだけは、避けなければならない。

 そう、下手にシークが手を出せば、王命に逆らったと言いだして、シークを拘束する算段だろう。

「分かってるだろう、シーク。お前はまだ、完全には信頼されていないわけだ。バムス・レルスリの報告があってもな。陛下は用心深い方だ。だから、万一の時にはお前らを封じ込められるように、四倍の八十人を送ったということだ。さすがのお前でも、私達八十人を相手にどこまでできる?」

 イージャは性格が悪い所を除けば、実力のある隊長だ。さらに、イージャの他に三部隊はある。どれも、腕自慢の隊だという話を聞いている。その上、従兄弟達が流した(うわさ)のせいで、シークに良い印象がない。そのため、かなり冷たい視線が彼らから突き刺さっている。

「……。」

 仕方なく何も答えずに、黙っているしかない。揚げ足を取られないためにも。シークは心の中で必死に、自分を制していた。

「それに、セルゲス公に加担されても困ると思われたのかもな。」

 陛下はそういう方ではない、と言い返したかったが必死に我慢した。もし、そんなことを口走ったら、それこそ王の怒りを買う。

「今の状況は命令が行き渡っているとは言えないな。この娘は死罪。手早く私が処刑する。それで我慢しろ。私ならば苦しまずに体から頭が離れる。」

 セリナは不思議そうに、シークとイージャのやりとりを見守っていたが、シークが劣勢だと見て取って青ざめている。緊張した面持ちで息もせずに石のように固まっていた。

「だが!」

 本当に刑を実行しそうな雰囲気で、シークは何とかしようと口を開いたが、イージャがさらに意地悪く続けた。

「それ以上言うと、お前も職を解かれるぞ!さすがにお前は私がすぐに処刑はできないが、私の証言があれば、お前はすぐに解雇だ。解雇ですめばいいがな。あの噂が出た時、陛下は激怒なさったらしい。」

 イージャは実に楽しそうに喋った後、冷徹にくくく、と喉で笑った。


 その少し前。

 グイニスは、珍しく早くに目が覚めた。悪夢をよく見るため、ぐっすり眠れるように夜寝る前には薬を飲む。そのため、こうして早朝に目覚めるのは珍しかった。

 いつもは、すぐにフォーリが気がついてやってくるのだが、この日に限っては違った。フォーリが窓の下を見ている。しかも、窓を細く開けているようだ。早朝からの気持ちの良い澄んだ空気と共に、早朝の爽やかさには似つかわしくない、何やら緊張感を伴った喧噪(けんそう)が聞こえてきた。

 グイニスはそっと、体を起こした。いつもなら、さっと気がつくはずだが、フォーリは窓の下を真剣に見つめている。

「……何やってるんだ、ヴァドサ!いや、あの馬鹿娘のせいだ。面倒なことを……!」

 フォーリは珍しく、怒気を含んだ小声で呟いた。

(馬鹿娘…?つまり、セリナが来ているってこと?)

 そう考えて、グイニスは本当なら喜んでいる場合ではないのに、急に目の前が明るくなったように嬉しくなった。

(私に会いに来てくれたんだ!)

 今すぐ布団から出てセリナに会いたかったが、そんな状況ではないようだ。フォーリがグイニスが起きたことにも気づかず、窓の下を(のぞ)いているということは、かなりの緊張状態にあるということだろう。

 三日前に来た、イージャ・アズレイというサプリュで交代するはずの親衛隊の隊長が、シークを敵視しているというのは本当のようだった。

 冷徹な目でグイニスを見下ろしていたが、どこか馬鹿にしている様子がうかがえた。まともに話せない王子を護衛する意味があるのか、そんなことを思わせる視線だった。

 とにかく、そのイージャはシークにつけいる(すき)がないか探し回り、これといった決定的な証拠が見つからなかったらしく、今度は揚げ足を取ろうと躍起になっている。やたらと規則を振りかざしているし、最初から父と思わせてくれるような、どこか温かさのあったシークを敵視しているので、好きになれない。

 そして、彼の目線は、シークと過ごす日々のうちに、すっかり忘れてしまっていた、王宮での目線や生活をグイニスに思い出させてくれた。予習という意味では、良かったのかもしれないが、気分は良くない。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


 この部分は『命を狙われてばかりの王子と田舎の村娘の危険な恋 ~けっこう命がけの恋の行方~』にも描かれている部分です。

 こちらを読めば、若様とセリナの関係がもっと分かるかと思います。

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