イージャ・アズレイという男 6
ようやくシーク視点に戻ってきました。イージャの嫌味なケチのつけ方にさすがのシークも嫌気がさしています。そして、ある日、早朝から見回りをしていると……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
案の定、イージャ・アズレイはやってくると嫌味の連発だった。
まずは、やってくるなり、若様の日常の生活を調べ、規則通りの生活が行われていないとケチをつけてきた。
分かっていた。こうなることは分かっていたが、その事細かさには呆れるばかりだ。病なのだし、王には…というか、王太子にそこまで言われていなかったことまで、追求された。あんまりだったので、そこまで命令を受けていないと突っぱねると、仕方なく取り調べを終えた。もう、これは犯罪者を調べる取り調べと同じだった。
かなり腹が立ったが、仕方ない。これで腹を立てて怒れば、相手の思うつぼだ。きっと、イージャはそれを狙ってやっているのだと、シークは自分に言い聞かせて努めて穏やかに過ごすことを心がけていた。
一方でイージャの方も、一向に尻尾を掴ませないシークに対して、苛立っていた。この一年ほどの間にシークはまるで変わっていた。まるで狸親父みたいに、のらりくらりと追求を躱し、終いには王の命令ではそこまで言われていない、と王の命令を持ち出して、イージャに暗に王の命令に逆らうのかと、逆に脅してきて話を終わらせた。
以前から見た目の割に妙に老成した所があった。他のヴァドサ家の子息達もそうだが、彼らは割と頭が固い。それが、シークは他の子息達に輪をかけて真面目な上、妙に老人みたいな所があった。大人が子供をいなすように、ああ、よしよしと躱された時の妙な絶望感と苛立ちと腹立ちは忘れようがない。
おそらくシークは無意識だろう。だが、無意識に同年代を年下の子供扱いしているのだ。猛烈に腹が立った。忘れようがない。だが、イージャが絡めば絡むほど、子供のように扱われ、余計にイージャの誇りは傷つけられていった。
むなしいので、仕方なく冷徹な自分を演じている内に、だんだん本当に冷徹になっていた。
とにかく、何かしら隙を見つけて行動を起こすしか道はないのである。イージャはそっとため息をついた。
イージャ達がやってきて三日が経った。準備を整え、いつでも旅立てるようにはしてあったが、ベリー医師がいつまでも準備ができていないと言い張っており、出発が長引いていた。
カートン家の情報網から、何か連絡があるのを待っているのか、フォーリに頼まれて先延ばしにしているか、どちらかである。シークは何も言われていなかったが、たぶん、そうだろうと思って何も聞かなかった。いや、聞けなかったのだ。とにかく、シークの側にはイージャか、イージャの部下がきっちりついて回る。
本当に監視をしているようだ。イージャの部下の中でも、エルアヴオ流の腕の立つ兵士を側につけている。相当、シークのことを警戒しているようだが、シークは若様…つまり、セルゲス公を護衛するためにいるのであり、害するためにいるわけではない。
あたかも、こっちの方が悪いみたいに、つけ回されている。副隊長のベイルにも同じように監視がついていた。
その日は、朝早くから目覚めてしまい、シークは仕方なく起き出すことにした。今までやっていた屋敷内の見回りにしても、くっついてくるので、面倒でしょうがなかった。
途中で撒けないかと、わざと普段行かない所に行ってみたりしたが、ぴったりくっついてきた。そんなことをしていたので、少し遠回りになって、中庭の方に向かった所で騒ぎが起きていた。
兵士達の後ろに静かに近づく。聞き耳を立てると、どうやら、村の誰かが屋敷に侵入したので、イージャが死刑にすると言っているようだ。
「聞いていたな、娘。以上の理由をもって、お前は死罪だ。文句は言えぬ。侵入したのはお前だ。」
どうやら、侵入したのはセリナらしい。きっとそうだ。母のジリナから、若様がサプリュに行くことになったと聞いたため、やってきたのだろう。このままではセリナは殺されてしまう。急いでシークはイージャの部下達を押しのけて前に進み出た。
「何の騒ぎだ!」
シークを前に行かせまいとしていたイージャの部下達も、シークの一喝で怯み、隙間が空いたのでそこに体をねじこんで、前に進んだ。やはり、セリナだ。ようやく辺りが薄明るくなってきた。こんなに朝早くから、セリナは若様に一目会いたくて、やってきてしまったのだろう。
「……。その娘を解放してやれ。」
シークはセリナを確認してから、彼女の横に立ってイージャに告げる。セリナは横に立ったシークをほっとした様子で見上げていた。
星河語
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