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イージャ・アズレイという男 5

 イージャの前に、エーナが連れて来られた。しかし、彼女は手違いですでに亡くなっていた。

イージャはそれを見て……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 どれくらい時間が経っただろうか。

 誰か人がやってきた気配があった。そして、近づいてきて、目の前にどさっと布の固まりが下ろされた。人一人分ほどの大きさ。間違いない。

(エーナだ。馬鹿な奴。さっさと諦めれば良かったのに。)

 扉が開いて、王妃が戻ってきた。目の前の長椅子に座る。

「さて、分かるであろう?顔を見せてやるがよい。」

 横たわるイージャの前で、布が()がされた。

「……。」

 覚悟していたから、衝撃(しょうげき)は受けなかった。大きな(あざ)が顔にできたエーナの顔。

「何だ、死んでいる。なぜ、殺した?生きたまま連れてこいと言ったはずだ。」

 ずっとイージャを監視している男が(きび)しく向こう側に詰問(きつもん)する。すると、何やら答えがあったようだ。

「……ふむ。まあ、仕方あるまい。元々薬で眠らされていた状態だったからな。」

 男は言いながら、イージャの顔の向きを髪を掴んで変え、エーナがよく見えるように動かした。

「どうだ?見えるか?貴様が()れた女の顔だろう。悪かったな。薬を飲んで眠っていたせいで、口元に布がかかって覆われ、運んでくる間に窒息死したようだ。」

 不思議と何も感じなかった。もっと空虚な気分になるとか、怒りが沸いて出て来るとか、何もない。かえって清々しかった。ようやく終わったのだと思った。彼女はようやく解放されたのだ。エーナは昔から、思い込みが激しかった。しょうがないじゃない、とよく言っていた。自分でもどうにもならなかったのだろう。

 エーナの死に顔は穏やかだった。眠ったまま死んだのだ。ある意味、良かったのかもしれない。

 人生、何がどう転ぶか分からないものだなあと、しみじみとこんな時なのに思う。

「しかし、どうしようか。お前にこの女が殺されたくなければと迫ることができたのに。できなくなってしまったな。」

 男がぼやいた。

「まあ、いい。死んだものはしょうがない。お前の両親は、眠ったままとはいかないだろう。それに、この女の両親もいるし。」

 イージャは男を見上げた。目線で猿ぐつわを解けと伝えると、男は猿ぐつわを外した。

「いいさ。やってやるよ。あんた達の思い通りに。」

「は?どういう心境の変化だ?」

「別に。どうせ、俺に最初からそういう役回りで目をつけていたんだろうが。これで、こういう筋書きになるか?幼馴染みの死に逆上して、シークを殺してやろうと思い、殺したと。私怨(しえん)であり、王妃は全く関係ない。

 そして、俺が捕まり死刑になれば、金は払わなくていいし、悪巧みした証人も消えて万々歳って所だろう。死刑になる前に、監獄に刺客を送って殺した方がもっと早いかもしれないがな。」

「……。」

 男からは何の表情の変化も読み取れなかった。

「あんた達の思惑通りに、掌の上で踊らされてやるって言ってんだ。ありがたく思え。こっちには何の得もない取引に応じてやったんだからな。」

 王妃は口を引き結んでいたが、ようやく口を開いた。

「なぜ、取引に応じた?確かにこれでは、お前に何の得もない。取引にすらならない。聞いてやろうではないか。」

「じゃあ、俺の両親は老後まで生かしてやってくれ。そして、エーナを親に返してやってくれ。それだけだ。」

 両親のことを引き合いに出すと、ようやく王妃は何かに納得したようだった。静かに立ち上がる。

「よいか。護衛のヴァドサ・シークを殺せ。グイニスのことは何もしなくてよい。」

 それだけ言うと、王妃は古参だろう侍女を連れて去って行った。

「いまいち、信用出来んところもあるが、まあ、いいだろう。」

 男は床に転がっているイージャに尋ねた。

「一つ、確認しておく。お前はヴァドサ・シークが好きか嫌いか?」

「嫌いどころか憎んでいる。」

 せめて、エーナのことを話して、人のいいシークの心に重荷を負わせてやろう。イージャにできることはそれくらいだった。それに、王妃の本性を知った以上、こうでも言わないと生きたまま外に出られないのは明白だった。

「いい答えを聞けて安心した。」

 男は満足げに(うなず)き、イージャもそれに頷き返した。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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