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イージャ・アズレイという男 2

 イージャの回想続きます。そう、つまらない話ではないと思っていますが……。なぜ、シークを恨んでいるのか、はっきりします。


  ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 ヴァドサ家の子息達が行ってしまい、イージャはエーナ達を促して歩き始めた。やがて、あまり人通りがない通りにやってきた所で、エーナ達が立ち止まる。

「なにー!?」

「いきなり、十剣術ー!」

「ヴァドサ家でしょ!?地味だっていう(うわさ)、どこが!?」

「みんな、カッコ良くなかった!?」

「カッコ良かった!一番最初にイージャに声かけた人、大人って感じでカッコ良かったなー!」

 ああ、この女達は……。さっそく始まったか……。イージャは少し遠い目をした。女性達のこういう会話には、下手に加わらない方が無難だ。身をもって体験している。

「しかも、兄に向かって敬語だったよ!びっくりだよね!」

 そこにはイージャも(おどろ)いた。まさか、本当に兄弟同士で敬語の家があるとは。

「なんか、やっぱりお坊ちゃんなのかなぁ。どっか雰囲気いいよねー。」

「だって、さらっとそっちのお嬢さん方も気をつけて、って言って行くんだよ!?」

「どっかの誰かさんとは違うよねー。」

 エーナが言いながら、イージャを見やる。

「比べちゃ、可哀想だよ。育ちが違うんだから、育ちが。」

 すかさずエーナの友人達が庇ってくれるが、当然、イージャにしてみればいい気はしなかった。イージャには分かっていた。今日から彼女達は……エーナはシークに目を向けるようになったことを。

 それ以来、エーナはイージャにシークのことを色々と聞いてくるようになった。そんなに仲が良くないのに、見栄を張ってエーナに仲が良いと言ってしまった。すると、休みの日にヴァドサ家に遊びに行けと言い出す始末。

 困り切っていた時、たまたま他剣術流派の友人に出会い、さりげなく探りを入れた所、ヴァドサ家には休みがない事が分かった。休み期間中も、何やらヴァドサ家道場での用事が立て込んでいるらしい。どうやら、国王軍の入隊率が高いため、道場の方の用事も国王軍の休みに合わせて行われているという。

 それを知ったイージャは心の底から安堵した。そして、エーナにそのことを伝えると、がっかりしながらも、さすがは古くて大きいんだと余計に憧れた様子だった。

 身分が釣り合わず、いつかは目が覚めるんじゃないかと思っていたが、彼女の目は覚めなかった。それよりも年々シークについて聞くようになり、彼のことを追い回そうとする始末。とうとう彼女の両親が困り果て、イージャとの縁談を進めることにした。イージャはエーナの両親が持ってきた話だから、喜んで受けた。

 だが、彼女には見栄を張って、自分の気持ちが乗らなかったら、断ってもいいと言ってしまった。すると、彼女は本気で悩み出した。まさか、本当に悩むとは思わなかったのだ。イージャとは子供の頃から何年もの付き合いがある。しかし、シークとは全く縁がない上に話したことさえないのだ。

 十剣術とはあまりに釣り合わない。せめて、剣術をエーナが習っているなら、何かしら(つな)がりもあるかもしれないが、通常、名家になれば婚約は家が決めるものだ。最初から何の剣術も習っていない、エーナが候補に挙がることもない。ましてや、知り合いですらないのだ。

 イージャは彼女に、名家の結婚事情を教えた。しかし、エーナは頑なに現実を受け入れようとしなかった。

 そして、とうとう婚約式当日。エーナは結婚しないと宣言した。その上、家出をしてしまった。必死に家族総出で探しまわり、エーナがヴァドサ家に使用人として雇って貰うべく、面接まで受けたことが分かった。

 だが、彼女は面接に落ちた。というのも、面接をしたヴァドサ家の女性に、エーナが子息達の誰かに思いを寄せていて、下心があると見抜かれて雇われなかったらしい。

 彼女は借りていた部屋の一室で、自分を落としたヴァドサ家の女性達の悪口を言っていた。酒を飲みながら。そして、暴れていた。仮に、エーナが使用人として雇われていたとしても、長く続かなかっただろう。エーナは両親に可愛がられて育ち、気遣いもできるところはあるのだが、自由奔放で規律だったことが苦手だからだ。

 シークの話を聞いて、どう考えても使用人としてやっていける訳がない。家族間で敬語の家庭で、しかも、大勢の人間が出入りする。それが嫁になるとなれば、どれほどの花嫁修業をしないといけないのか、エーナは何一つ分かっていなかった。


 エーナは馬鹿だと思うのに、()れた弱みだろうか、見捨てられなかった。

 荒れていくエーナに、追い打ちをかけるような出来事が起きた。シークに婚約者ができたという。まあ、できて当然だ。名家の子息なのだから。おそらく親族会議で決められたことで、シーク自身否を言うことはできなかっただろう。

 これならエーナも(あきら)めるだろうと思ったが、エーナは諦めなかった。エーナはなんとかして、シークの婚約者に会いに行こうとした。自分の方がふさわしいと言おうとしたらしい。

 エーナはヴァドサ家近くの市場で働きながら、情報を集めた。その力を他のことに向けたらどうだろうと思うほどだ。

 そして、婚約者のことが少しずつ分かったようだ。それなりにお嬢さんの家柄で、しかもヴァドサ流を治めている女性剣士らしかった。ヴァドサ家の近くで働いているうちに、代々ヴァドサ家の嫁はヴァドサ流を習っていることが、結婚の条件の一つらしいことも分かってきた。

 エーナは絶望した。なぜなら、エーナも今さら自分が剣術を習った所で、会得できるわけがないと分かっていたからだ。

 そして、自分が我がままで何の取り柄もないことも分かり、きついことをすることが苦手で嫌悪することも分かっていた。自分の性格も分かっていた。だから、絶望した。

 イージャは側にいなかった。軍で仕事をしていたから。

 エーナは突発的に運河に飛び込み、助けられたが生きている(しかば)のようになった。起きているのに、死んでいるようだった。

 エーナが悪いと分かっている。

 彼女がシークにこだわらなければ、こんなことにはならなかった。でも、人の心はままならないものだ。彼女が馬鹿だって分かっている。それでも、シークを憎むことでしか、このもやもやした気持ちの持って行き場がなかった。

 エーナの実家とアズレイ家の間にも、確執が生まれた。エーナの両親が、せめてイージャが間に立って、エーナの気持ちをシークに伝えてくれたら良かったと言いだしたのだ。一人娘がおかしくなって、精神的に追い詰められていたのは分かっている。

 だが、イージャの両親も黙っているわけにはいかなかった。確かにエーナに、何度もシークとの間を取り持って欲しいと泣きつかれた。でも、そのたびに無理だと答えた。 

 初めに手紙を持っていって欲しいと泣きつかれたが、断った。訓練兵は恋愛禁止だ。その理由は簡単だ。恋愛に現を抜かし、訓練に身が入らなくなるからだ。そうは言っても、口で言うほど(きび)しくはなかった。休みの日の迎えくらいは許されていた。

 だが、手紙は駄目だった。家族に何かあった時以外、手紙のやり取りも基本禁止されている。手紙に混ぜて、禁止されてる嗜好(しこう)品などを持ち込む輩がいるからだ。

 一般兵になってからは部署が違った。シークはシタレに行って、自分はレイトに行った。全然違う所に配属になったので、会うことがめっきり減った。

 シークは戻ってきたと思ったら、倉庫係かなんかになった後、いきなり教官に抜擢(ばってき)された。本当に会う機会がなかったのだ。

 もちろん、その正当な理由はイージャには、エーナが振り向いてくれるかもしれないという淡い期待があるから、恋敵にわざわざ手紙を渡さなくて良かったので、断る理由としてちょうどよかった。

 でも、本当のことなのにエーナも、エーナの家族も、そのことでイージャを恨んだ。

 だから、アズレイ家は長く住んでいた家を手放して別の場所に移り住んだ。

 何もかもエーナが悪い。エーナに振り回されている。それなのに、エーナの家族もイージャもいつの間にか、全く無関係というか、事情を何も知らない、シークに恨みを抱くようになっていた。

 イージャもそれがお門違いだということくらい、痛いほど分かっている。

 でも、いつの間にか、根性が汚い男に成り下がっていた。エーナのことで振り回されているうちに、自分自身も汚くなっていた。シークを恨み、彼の部下達を馬鹿にして、シークのことを揶揄(やゆ)することによってしか、気持ちの持って行き場がなかった。

 人生をめちゃくちゃにされた。

 それなのに、シークは淡々と出世した。セルゲス公の護衛になるなんて。親衛隊に任命されるなんて、誰が思うだろう。彼の従兄弟達が流した(うわさ)に便乗して、悪口を言って歩いていたら一定の効果があって、シークの出世に陰りが差していたのに。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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