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イージャ・アズレイという男 1

 出だしはしばらく、シークを目の敵にしているイージャの視点で始まります。なぜ、彼がシークに対して敵対心をむき出しにするのか、その理由が分かります。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 イージャ・アズレイは軍に迎えに来た幼馴染みに駆け寄った。

「エーナ、迎えに来てくれたのか?」

「うん。訓練兵になって二年目にもなったら、誰も気にかけず迎えにも来てくれないだろうと思ってねー?だけど、わたしは思うのよ。一年目よりも、二年目に入った頃の方がやめてく人が多いっていうのは事実だろうって。

 だから、気にかけてあげた方が、張り合いも出ていいんじゃないかなと思って、迎えに来た。」

 イージャにとって、初恋の彼女は楽しそうにしながらも、イージャを気遣いながら見上げた。イージャは十五歳入学だ。一発で入って余計に街中の人にお祝いして貰えた。国王軍に入隊するということは、それくらいのお祭り騒ぎになる。

 エーナの気遣いは嬉しかった。はっきり言って、イージャは二年目の方がきつかった。これを越えて三年目に入れば、かえってやめていく人は減る。慣れてくるのもあるだろう。それと同時に、いろいろ覚えてきて訓練の大変さだけでなく、楽しさも覚える頃だからだ。

「……。」

 でも、気恥ずかしくてまともに礼を言えない。

「何よー、来たことが不満?」

「あ、別に不満じゃないけど。でも、なんで、そんなこと別にしなくても良かったんだよ。大変だろ。」

「いいの、いいの。これくらい、何ともない。それにねー、わたしが単純にあんたを迎えに来るためだけに来てるとでも思ってんの?ねー?」

 エーナは初めて、同行している友人三人に話を振った。彼女達もみんなイージャと顔見知りの間柄だ。

「まあねー。エーナにひっついて来たら、役得があるっていうか。」

「そっちの方が比重が大きいけどね?あたし達がここまで来る目的って。」

「ほんと、かっこいい、イケメンがゴロゴロしてるんだから、目の保養よねぇ。」

「なあに、消極的なことを言ってんのよー、三人とも。玉の輿(こし)を狙ってんのよ、わたしはぁ。やっぱ、狙い目は十剣術よねー。」

 エーナの声が、一際高くなった。

「まあ、狙いやすい玉の輿は十剣術よ。」

「ほんと、ほんと。」

 エーナの目が夢見がちになる。イージャのことは眼中にもないのだ。いや、全く眼中にないわけではない。どうしても、結婚をしろと両親に迫られたら、結婚する相手にしてもいいかな、くらいには思われている。

 だから、エーナはイージャを迎えに来てくれているのだ。でも、それ以上ではない。彼女の眼鏡に適う男が現れたら、途端にそっちになびいて行ってしまうのだ。

 夢見がちな少女達がわいわい言っていると、「すみませんが。」と声がかかった。

 気がつけば門の前を陣取って、ど真ん中で話をしている。通行の妨げになっていた。

「おい、よけろ。通行の邪魔になってる。」

「あ。」

 イージャが気づいて声をかけると、ようやく彼女達は気がついて場所をよけた。

「申し訳ありません。」

「すみません。」

「ごめんなさい。」

 イージャは自分達より先輩か上官の姿を目にして、慌てて背筋を伸ばした。

「申し訳ありません。」

「いいや。迎えがあれば、つい話に夢中になるものだ。今度から気をつけてくれればいい。それに、私達よりもお前達の方が危ないぞ。馬に乗って門から出て来る場合もあるからな。訓練兵なら、その辺はきちんと覚えておけよ?」

「はい!気をつけます。」

 イージャの元気すぎる返事に、相手は苦笑しながら馬の手綱を引いた。

「帰省か。ということは、シークかギークの同期ってことか?」

 相手は呟くと、後ろを振り返った。ぞろぞろと馬を引いた一団が門から出て来る。

 イージャは内心ぎょっとしていた。エーナ達の目的である十剣術のうちの一つ、ヴァドサ家の子息達がいきなり出てきたからだ。最初は分からなかったが、『シーク』と聞いた時点で分かった。

「おい、シーク、ギーク!」

 別に呼ばなくてもいいのに、相手は友人かもしれないと思ったのだろうか、親切にもおそらく弟達か、従弟達かを呼びつけた。ヴァドサ家は国王軍の入隊率が高く、一族郎党がぞろぞろいるため、誰が兄弟で従兄弟なのか、全く分からない。

「どうしましたか、バロス兄さん?」

 同期で一緒に訓練を受けている、聞き慣れたシークの声がした。

「いや、大した用事ではないんだが、お前達のうち、どっちかの同期の訓練兵がいたから呼んだだけだ。顔見知りか?」

 後ろから、二人が馬を引いたままやってきた。

「ああ、アズレイ。」

 シークが穏やかに笑う。

「今から帰り?」

「あ、ああ。」

 エーナ達がヴァドサ家の子息達に目が釘付けになっているのが分かっていた。

「そうか。お前もサプリュだから、自腹で帰らないといけないな。」

 遠方から来ていると、年に二回の帰省時に交通費が支給される。だが、首府サプリュ出身だと交通費は支給されず、自腹で帰らなければならない。

「ああ、そうだな。」

 イージャは苦笑いしながら、馬に目をやった。すぐに馬を引いている理由が見当たらなかったのだ。よほどの遠方でもない限り、訓練兵に馬は支給されない。遠方だと行き帰りに時間がかかるため、申請を出せば馬が支給される。

「ああ、これ?」

 シークは言いながら、馬の首をぽんぽんと軽く叩く。イージャが(うなず)くと説明してくれた。

「うちは遠いだろう?知ってるだろ、ヴァドサ家は郊外にあるって。普通に歩いて帰っていたら、明け方になってしまうから馬で行き来していいことになってる。」

「そんなに遠いのか?」

 思わずイージャは素直に聞いてしまった。

「馬で帰っても夕方近くになる。」

 本当に遠いようだ。ヴァドサ家は特別に遠いのだ。他のサプリュ出身者でも、確かに郊外の人は帰りは夜になるだろう。でも、乗合馬車で帰ることができる。しかし、ヴァドサ家まで行く乗合馬車はないので、馬で行くか個人の馬車で行くしかないのである。

「じゃあ、早く帰らないとな。気をつけて。」

「ああ、ありがとう。お前も気をつけて。」

 そう言った後、シークはエーナ達にも会釈した。

「そちらのお嬢さん方も気をつけて。」

 そう言って、黙って立って待っていたシークに似た少年を促し、颯爽(さっそう)と馬に乗って帰っていった。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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