教訓、五十一。避けられない嵐もある。 1
とうとう、首府サプリュから若様に正式にセルゲス公に任命するための儀式を受けるようにという連絡がきた。だが、その時に親衛隊の交代要員がともにやって来ることになっていたが、その人選が問題で……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「……よりによって、アズレイ隊長ですか?」
なんとか風邪の治ったベイルが苦い顔で、開口一番に言った。軍からの指令書を見つめて顔を歪ませる。
昨日、早馬で軍から指令書が来た。その内容は、若様をセルゲス公に任じるため、サプリュに帰ってくるようにというものだ。とうとう来た。そして、シークの結婚式のこともある。
問題なのは、命令によりやってくる国王軍、及びサプリュで交代になる、親衛隊の隊長のことだ。普通、首府サプリュの交代要員である親衛隊が、地方で任務に当たっている親衛隊と一緒に護衛することはない。
本来なら、シーク達の部隊がサプリュに入った後、サプリュでは違う部隊が若様の護衛に当たることになっている。理由は、地方で任務に当たった親衛隊に休みを与えるため。もう一つは、王族と特定の親衛隊が必要以上に親しくならないようにするためだ。
まあ、一応、どちらも正式な親衛隊ではあるが、サプリュで護衛に当たる隊は『臨時』という印象が強い。どうしても、地方にいる間の方が長くなるし、お互いに信頼関係もできあがる。過去に王族と親衛隊が政変を起こしたことがあるので、それ以来、交代することになっている。
それが、今回はなぜかサプリュでの交代要員に当たる部隊が、もうやって来るのだ。理由は、若様は普通の少年とは違って病であるため、道中でサプリュの交代要員である親衛隊に慣れておくため。理由は大変全うだ。だが、人選が非常にまずい。
なぜ、シークを敵視しているイージャ・アズレイが、サプリュの交代要員なのか。ボルピス王は知らずに任命してしまったのか。
(……いや。あり得ないな。あの陛下なら。きっと、報告は上がっていたはずだ。それでも、あえてアズレイをサプリュでの親衛隊に任命されたということだ。)
シークはその指令書を見ながら、考え込んでしまった。きっと、表向きは牽制しないといけないからだろうな、などと考える。それに、表向きシークには厳しく接するとボルピス王も言っていた。きっと、これもその一環なのだろうが、徹底していて恐いくらいだ。
どうしても、イージャとは折り合いが悪かった。というか、向こうがなぜかシークを敵視してきて、毎度毎度、顔を合わせる度に嫌味を言ってくるのだ。
なぜなのか全く理由が分からない。イージャが勝手にシークに敵愾心を持っており、それで何かにつけて勝ったの負けたの言いがかりをつけてくるので、本当に勘弁して欲しいと切に願っている。
「……本当に嫌な人が来ますね。どうしますか、隊長?この人選だと若様にゆっくり、サプリュまで移動して頂くのが難しそうですよ?自分の保身と昇進のために、規則を持ち出してくる人です。きっと、若様に対しても陛下のご命令を持ち出してきて、規則でがんじがらめにしてくるでしょうね。」
ベイルもほとほとうんざりしているのか、いつもの倍以上、喋っている。
「隊長?大丈夫ですか?」
シークが黙り込んでしまったため、ベイルが訝しんだ。そうだ。シークは今、パーセの国王軍でのことを思い出して不機嫌になっていた。
というのも大街道の火事の事件の後、若様の護衛について、パーセで大街道の護衛の任務に就くことになった、ザス・ブローブスと話し合いをしたが、その時の副がイージャ・アズレイだったのだ。そして、イージャがその時、若様を侮辱したのを思い出していた。
「大丈夫じゃない。」
怒りを堪えたシークの声を敏感にベイルは聞き分けた。
「隊長、怒ってますか?」
「うん、パーセでアズレイが言ったことを思い出してな。あいつ、若様のことを侮辱したんだぞ。そんな人間が若様の護衛をする、親衛隊になるだと?どうして、こういうことになったんだか。」
シークは思わず愚痴った。
「失礼するよ?」
その時、ベリー医師がやってきた。
「なんか、二人とも苦り切った顔をしてますな?」
「ええ、してますよ。サプリュの交代要員が、若様が慣れるようにとさっさとやってくるんですが、そいつが問題でして。」
シークの答えにベリー医師が目を丸くした。
「おや?ヴァドサ隊長にしては珍しく、そいつ呼ばわりしてますなぁ。よほど、相性の悪い御仁のようですな、今度の交代要員。」
「なぜか、隊長のことを敵視しているんですよ、アズレイ隊長は。ほら、覚えていますか、石頭のザス・ブローブス隊長のこと。」
シークの代わりにベイルが説明する。
「ああ、融通の利かない石頭。ほんと、苛立ったよ。あの人には手こずった。」
「でも、あの人も隊長も嫌っているのが、アズレイ隊長なんです。はっきり言って、私も苦手ですね。苦手というか、根性の悪い人なんですよ。ほんと。私達のことを敵視していて、いつも嫌味を言われます。あることないこと、吹聴して回ってるんです。
ブローブス隊長は石頭なだけですが、アズレイ隊長はそれですみませんから。」
すると、ベリー医師の目がますます見開かれた。
「ほほう?ベイル副隊長までが、そんなこと言うなんて、よほどの人ですな。」
ベイルは苦り切った顔でため息をついた。
「アズレイ隊長は、人を嵌めたり意地悪するためだけに、規則を持ち出す人です。ブローブス隊長はくそ真面目で規則を持ち出す人ですから、根本的に規則を持ち出す理由が違うんです。ああ、石頭でもブローブス隊長が来てくれれば良かったのに。
ブローブス隊長は、隊長の言うことは聞いてくれますから。それに、ブローブス隊長は若様のことをきちんと敬ってくれます。気が狂っている王子だと馬鹿にすることもないですから。」
二人をからかう口調でいたベリー医師だが、ようやく真面目な顔に戻った。
「なるほど。お二人が頭を抱える理由が見えてきましたな。つまり、若様に対しても不遜な態度を取りそうということかい?」
「そういうことです!」
シークの代わりにベイルが、鼻息も荒く答えた。
「しかも、若様はセルゲス公であるにも関わらず、規則だ規則だとがんじがらめにして、うるさく行動についても言及してくる感じかな?」
「まさしくそうです!」
ベリー医師は頷いた。
「相当手こずりそうな御仁ですな。」
ベイルは相当イージャに対して、鬱憤が溜まっていたようだ。
「それにしても、シーク殿はなんにも言わないね?」
「ベイルが代わりに全部言ってくれましたから。」
シークが苦笑すると、ベリー医師も苦笑した。
星河語
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