教訓、五十。ニピ族の勘は当たるので、変なことを言い出しても世迷言だと思わないこと。 8
昨日、更新できなかったので、今日は2回します。朝、したので2回目です。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「…実はね、こっそりお願いがあるの。」
もじもじしながら、若様は聞いてきた。
「何でしょうか?」
「ヴァドサ隊長の赤ちゃん、私も会いたいなって。それがあるから、本当は少しはサプリュに行ってもいいかなって思ってた。ヴァドサ隊長のお父さんやお母さんにも会ってみたいし、叔父さん達も元気かなって。鬼ごっこをしてくれたし。」
シークは嬉しくなり、また、そう思ってくれる若様が可愛くもあって、思わず笑いながら、若様の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやった。
若様がへへへ、ははは、と笑いながら嬉しそうに転げる。もちろん、額の怪我があるので、それには触らないように、包帯も取れないように気をつけている。
「ねえ、それで会ってもいい?」
ひとしきり笑った後、若様はもう一度聞いてきた。
「はい、もちろんです、若様。結婚式当日より、その前に来られた方がいいでしょうね、おそらく。」
「ああ、そうだろうね、それは。」
隣で聞いていたベリー医師も同意した。
「私もどんな赤ちゃんか、会うのは楽しみだな。もちろん、私も結婚式に招待してくれるんでしょう?」
「ええ、そのつもりですが、考えてみれば招待客ってどうやって、決めたんでしょうね。一応、私も手紙で送りはしましたが、その後、一切の経過が知らされていないので、どうなっているものか分かりません。」
一同の間に沈黙が降りた。若様は首を捻っているものの、それは良くないのではないかと思っているようだった。
「聞いてないの?」
「はい、尋ねてはいるのですが。私には任務を無事に全うできるようにしなさい、とばかり書いて寄越すんです。遠方の方には、早めに送らないといけないのですが。」
その話を聞いて、ベリー医師はしばらく考え込んでいたが、しばらくして結論が出たように頷いた。
「あのね。おそらく、レルスリ殿が一枚噛んでいるだろう。だから、君は任務に黙って邁進していれば良いと思うよ。」
ベリー医師が言うなら、そうなのだろうとは思うが、どこかにもやもやしたすっきりしない気持ちが残る。
「そうは言われましても。」
ベリー医師は苦笑した。
「まあ、そう気難しい顔をしなさんな。仕方ないでしょう。それに、ノンプディ殿なんかは心配いらない。じきに首府議会があるから、集まってくるから。その時に招待状を出せばいいからね。結婚式の時に着る服くらい、あるものだよ。」
はあ、結婚式かぁ、と鉛のような重いため息が出そうになった。自分のことなのに一切関わっておらず、本当に自分の結婚式なのかという疑問が起きてくるほどだ。
すると、若様がため息をついた。
「ヴァドサ隊長の結婚式のことを聞いて思い出したけど、その前に私の儀式があるって言ってたよね。セルゲス公に正式に任じるからって、叔父上が。ああいう儀式って苦手なんだ。多くの人が見てくるから、緊張しちゃうんだもん。」
確かにその通りだ。シーク自身、そんな緊張する場面は初めての経験であるので、転ばないようにしないといけない。
「そうですね、緊張するでしょうね。転んだりしないようにしないと。」
思わずシークは深く同意し、一番最初に王に拝謁した時につまずきかけたことを思い出して、最後に言わなくてもいいことを口に出してしまった。
「え?転ぶって、ヴァドサ隊長が?」
若様に聞き返されて、しまったと思ったがすでに後の祭り。
「そうです。実を言うと、陛下に初めて拝謁することになった時、何もない床でつまずいて転びそうになったのです。部下達にも陛下の前で粗相しないかと、かなり心配されました。」
頭をかきながら白状すると、若様の顔がきらきらっと輝いた。
「ほんと?それなら、良かった。私だけじゃないんだね。もし、転んだりしても安心だね。」
安心って何がですか?転んだら駄目ですよ、若様?
「……うーん、やはり、転ばない方がいいかと――」
やんわり言おうとしたシークを遮り、ベリー医師の毒舌が冴え渡った。
「何言ってるんですか。転んだら駄目でしょう。二人揃ってずっこけたら、いい笑いの種ですよ。セルゲス公と親衛隊の隊長が、二人揃って陛下の前でずっこける、あり得ないでしょうが。後世にまで残る伝説級の恥さらしですよ。
きっと、その後はどんな失敗よりも、この失敗よりましだと比較される材料になるでしょうな。」
シークと若様は顔を見合わせて、思わず同時にため息をついた。
「……。」
「……。」
そんなにはっきり言わなくても。伝説級の恥さらしって。
「そんな失敗したら、頭までちょっと飛んでる人達だと思われるかもしれません。近隣諸国にも噂を撒かれるでしょうね。」
「……。」
「……。」
ベリー医師は、さも本当に起きたかのように額に手を当ててため息をついた。
「ああ、嫌だなぁ。なんか本当に起きそうな気がしてきちゃったよー。両手両足が一緒になって歩いたりしてそうだし。二人とも案外抜けてるから、やりそうだよ。困ったなぁ。全く。剣とか、絨毯の厚みとか、靴なんかにつまずいてそうだよ。」
「先生、まだ先のことなのに、さもその通りになるかのように言わないで下さい。そんなこと言ってたら、本当になるかもしれませんよ?」
シークが思わず言い返すと、ベリー医師がからかいを含んだ視線で見返してきた。
「何それ、脅しのつもりかい?恥かくの君達なんだよ?」
「まあ、それは分かってますけど……!」
「君達のことだから、色んな組み合わせの転び方ができそうで恐いね。」
「何それ、ベリー先生。さすがに私もちょっとひどいって思う。」
「そうですよね、若様。私も全く同じ意見です。」
「全く、自分達のことは分かってないんだから。」
そんなことを言い合って、若様の落ち込みそうな雰囲気を和らげた。
そして、実際にそれから一月も経たないうちに、王宮からの使者がやってきたのだった。総勢二百四十名の国王軍及び、親衛隊の兵士達も後から共に。
星河語
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