教訓、五十。ニピ族の勘は当たるので、変なことを言い出しても世迷言だと思わないこと。 5
フォーリの勘は当たっていた。大げさだと感じていたシークだったが、ニピ族の勘の鋭さに驚くばかりだ。しかし、その問題というのが……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
さて、若様の部屋にたどり着くと、フォーリは何かに急かされているかのように、扉に手をかけた。
ガチャッと音がして扉は開かなかった。鍵がかかっているのだ。
「?」
「鍵が…?」
ガチャガチャ揺さぶっても開かないものは開かない。これは、ニピ族の勘が鋭いどころではないな、とシークは驚いていた。そして、同時に緊張もする。何が部屋の向こうで起きているのか。そもそも、隊員達はどこに行ったのか?
実は扉の護衛をしていたのは、ディルグ・アビングだったが、たまたま便所に行っていて留守だった。その上、風邪気味が風邪になっていたため、頭がぼーっとして、仕事中だと忘れて部屋に戻って寝てしまったのである。ちなみに、彼はめったにそんな過ちを犯さない。普段は真面目な隊員である。
「若様!フォーリです。どうか、なさいましたか?若様…!」
フォーリは声を張り上げ、若様の安否を確認する。しかし、中からは返事がない。
「確か、セリナも一緒にいたはずだが。」
確かも何も一緒にいるはずなのだが、一体二人に何かあったのだろうか。シークとフォーリは顔を見合わせて青ざめた。自然と緊張が走る。
「合鍵で開ける。」
フォーリは常に合鍵を持っている。安全の確保に必要だからだ。
「若様、若様!ご無事ですか!?」
「若様、お返事をなさって下さい!」
フォーリとシークは交互に声を張り上げながら、中に進む。途中の部屋を確認しつつ、奥に進んだ。寝室の前の扉に手をかけると、そこも鍵がかかっている。明らかに異常事態だ。
「若様…!ご無事ですか!」
「若様!」
二人は緊張して、何があったのかと心配して入ったのだが、そこには思考を越えた状況が広がっていた。
フォーリもシークも、二人とも一瞬思考が停止した。思わずその情景を凝視した。
寝台の上に二人はいた。しかも、下着姿の半裸のセリナが若様の上に座っていた。
驚きのあまり、二人はすぐに言葉が出て来なかった。何をしたのかは分かっている。今の状況から。確かにフォーリが言った通りの心配事が起きてしまった。セリナなら大丈夫だろうと思ったが、考えてみればジリナの娘なのだから、行動力が半端でない可能性は高かったのだ。
「…貴様、何をしている!」
フォーリが咆哮を上げた。セリナを眼力だけで殺せそうな勢いで睨みつけている。
だが、その直後にフォーリは咳込んだ。風邪も引いた直後であったので余計に敏感だったのもある。眉間に皺を寄せて、フォーリは部屋の臭いを嗅いでいる。シークも妙な臭いに気がついた。
(何だか妙に甘ったるいような臭いが?)
シークも首を傾げた。
「あははは。おっかしい、そんなとこで咳込んじゃってぇ。」
セリナが妙な話し方で笑うと、寝台の上から降りた。恥ずかしげもなく下着を堂々と直し始める。シークはセリナを観察した。まるで酔っているかのような、妙な話し方だ。
「何をしているかと聞いている!」
フォーリが怒鳴る。若様は呆然と寝台の上に横たわったままだ。自分が行ってもいいものかどうか、シークは迷った。フォーリが怒って興奮し、シークに斬りかかってきてもおかしくないし、セリナも巻き込まれるかもしれない。それに、若様がどういう反応を示すか分からなかった。
「何をしているかと聞いている!」
セリナの態度にぶち切れたフォーリがさらに怒鳴った。
「もう、見れば分かるじゃない、服を着るのよ。あ、そうだ、早く若様にも服を着せて差し上げないと。ふふふ。」
完全にセリナがおかしいが、フォーリはそれにも気づかないのかと心配した。シークが心配していると、フォーリはかろうじて正気を保っていたのか、動き出した。
「……ヴァドサ、頼む。今は出て行ってくれ。すぐ外で待っていてくれればいい。」
セリナに何かしないか心配だったが、こういう状況で若様の反応の方も心配だったので、シークはとりあえずフォーリの言うことを聞いて、部屋の外に出た。フォーリが寝室の扉を静かに閉める。
分厚い扉は、上等なので隙間を開けなければ、話し声は聞こえてこない。しばらくシークはやきもきする時間を過ごした。耳をそっとそばだてて、何か中で異変が起きたらすぐに動けるように心構えしておく。
しばらくして、ドンッという何かが床に叩きつけられたような音が響いた。
(!?何だ、セリナでも叩きつけたのか!?)
シークは慌てて寝室の扉を開けた。
「フォーリ、どうした?一体、今の音は何だ?」
努めて冷静に穏やかに尋ねた。部屋を見れば、セリナがうつ伏せに倒れて咳込んでいる。その上若様が床に倒れ、それを青ざめたフォーリが助け起こし、額に手巾を当てている。今はセリナも若様も服を着ていた。
やはり、怒ったフォーリがセリナに手をかけようとし、それを若様が止めようとして、床に叩きつけられた拍子に額を怪我したところだろうか。もはや、フォーリだけにしてはおけないので、シークは静かに扉を閉めた。今度はフォーリも出て行って欲しいとは言わなかった。
星河語
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