教訓、五十。ニピ族の勘は当たるので、変なことを言い出しても世迷言だと思わないこと。 4
風邪引きのフォーリを牢に隔離していたが、当の本人のフォーリが何度も出すように要求していたため、とうとう折れたベリー医師が出すことにした。とりあえず、シークはフォーリを見張るように言われてついて行ったが……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
ところが、その日の夕方近くになって、事件が起きた。
おやつ時、手が空いたので、シークはベリー医師とフォーリの様子を見に来た。ちゃんと寝ているかどうかの確認と、昼食に使った食器を下げに来ていなかったことを思い出して回収に来たのである。ついでに、若様の夕食の献立について、変更を伝えに来たのもあった。
食器は小さな窓があるので、そこから出し入れする。さすがのニピ族も、そこから出入りはできないようで、シークはこっそり安心した。
フォーリは出して貰えるかと喜んでいる。まるで散歩をお預けされていた犬が喜んでいるかのようだ。
「いや、まだだよ。君が最後まで言いつけを守るかの確認がてら、食器を回収しに来ただけだ。」
「私は若様のお食事について、変更を伝えに来た。」
ベリー医師とシークの言葉を聞いて、フォーリはあからさまに機嫌が悪くなった。殺気を隠しもせずに二人を睨みつける。
「とにかく、落ち着いて聞いてくれ。フォーリ。もう少し耐えれば出して貰えるんだから。まさか、今さら大暴れして、出して貰えるのを明日以降に延期したくないだろう?」
シークの説得にフォーリは、不承不承頷いた。
「……確かに、今さら延期されたくない。それで、若様のお食事をどう変更すると?」
「若様の食欲のことも考えて、雑炊にすると言っていたが、団子汁に変更することになった。」
「団子汁に?」
シークは頷いた。
「若様に話の流れで、我が家で団子汁を食べることがあったと話したら、それを召し上がりたいと仰ってな。それでだ。」
フォーリはシークの説明に頷いた。
「分かった。別に問題ない。それにしても、最近、妙に言葉遣いが丁寧になっているが、どうした?」
「もうじきサプリュに行くことになるはずだ。だから、その時に備えて練習しておかないとまずいだろうと思って。」
フォーリは答えを聞いて、納得した。
「確かにそうだな。確かにもうじき、若様はどこかで必ずサプリュにお戻りになるだろう。陛下のあのお言葉からしても。」
シェリアの領地にいた時、王は若様にセルゲス公の位を正式に授ける儀式を行うので、若様をサプリュに戻すつもりだと言っていた。そのことだ。
フォーリが落ち着いている隙に、ベリー医師はフォーリの状態を確認していた。鉄格子の隙間から手を突っ込み、フォーリの脈を測っている。
「ベリー先生、とにかく私を出して下さい。」
ベリー医師はため息をついた。
「どうして、そんなに早く出たいんだい?」
「当然、若様がお一人で寂しがられているに違いないからだ……!」
「セリナと二人っきりで楽しそうだよ?」
ベリー医師の言葉を聞いた途端、フォーリはじろりと睨みつけた。
「セリナだと?あの娘は危険だ。二人を引き離さないと。」
「どうしてまた?」
「とにかく、早く出してくれ。若様の側にいないと落ち着かないし、あのじゃじゃ馬娘が何かしでかしていないか、心配だ。」
本当に何かあるかもしれない、という妙な焦燥感に駆られているように感じた。まあ、確かに部屋の中は二人でいることになるし、風呂の時間以外は、シークの部下達が少し離れた戸口に立ち、また若様の部屋の両隣の窓から監視している。両隣の窓から見ていれば、若様の部屋に侵入しようとしても、すぐに分かるからだ。
風邪対策でそうなっていた。人数も減っているので、風邪気味程度の者や治ってきた者が担当するしかなく、そういうことになっている。ちなみに、今回はベイルも完全に寝込んだ。けっこう酷くて、高熱も出していた。かなり疲れが溜まっていたせいだろう。
そして、シークはフォーリができない分を担当していた。料理をしているし、場合によっては若様の部屋の掃除なども行っていた。ジリナも手伝ってくれるが、彼女は娘達の監督もあり、忙しいのであまり頼めない。
だから、若様の側にいつもいる人達がいないのは、本当のことだ。それをフォーリは非常に心配している。
はあ、とベリー医師はため息をついた。
「分かったよ。ニピ族は妙な所で勘が鋭いからね。言い合っている時間も惜しいし。さっさと出て行き給え。」
ベリー医師は半ば諦めた様子で鍵を開けると、扉も開けた。
途端にフォーリは急いで出てきた。
「若様、今、参りますから!きっと、寂しがられているに違いない。」
ぐっと拳に力を入れてフォーリは言うと、走り出した。
「行ってくれる?今のフォーリ、何しでかすか分からないから。まあ、セリナを殺したりは、さすがにしないだろうけど。」
シークは調理のことをジリナに頼むようにベリー医師に頼み、大急ぎでフォーリを追った。
途中、フォーリが廊下で立ち止まって身なりを整え、姿見で確認していたので追いつくことができた。そうでなければ、とっくに若様の部屋に到達していたはずだ。身だしなみをきちんと整えている人で良かった、というか、ニピ族は貴人に仕えるため身だしなみに気をつけるので、良かったとシークは思った。
星河語
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