教訓、五十。ニピ族の勘は当たるので、変なことを言い出しても世迷言だと思わないこと。 2
シークはベリー医師から、言い渡されたフォーリを部屋から出さないという任務に成功した。シークは疲れ切ったベリー医師から、驚かれる。
一方、眠っているフォーリは悪い夢を見ていた。それも、若様がセリナと結婚するからフォーリはいらないと言い出しており……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
それからしばらくして、ベリー医師がげっそり疲れて戻ってきた。それを見てシークは申し訳ないと思う。部下達もみんな疲れていたせいか、王太子一行が帰った後、一斉に風邪を引いたのだ。
「はぁぁぁ。ようやく一段落ついた。」
こんなに疲れ果てているベリー医師を見たのは、初めてかもしれない。
「怪我より病気の方がやっかいなんだよぉ。」
随分、情けない声でベリー医師は言った。こんな情けない声を聞いたのも、初めてかもしれない。
「先生、お疲れ様です。部下達がご迷惑をおかけしています。申し訳ありません。」
シークが椅子から立ち上がって謝ると、ベリー医師は隣の椅子にどさっと座った。
「いいよ、いいよ。君のせいではないしね。きっと、王太子殿下のご一行が運んで来たのだろうから。」
そう、王太子殿下のご一行の随行員が運んできたのだろう。ベリー医師は、椅子に寄りかかり、目をもんだり肩を回したりしていたが、ふと、目の前の長椅子に横になって寝ているフォーリを見つけた。
「!?」
それを凝視した後、思わず立ち上がり、そっとフォーリの側に近寄る。だが、一定の距離以上には近づかない。ニピ族は寝ている時にも反撃できるように訓練されており、ちょっとの気配で起き上がる。しかも、ただ起き上がるのではなく、鉄扇を抜いて容赦なく攻撃してくるのだ。
そして、シークを振り返ると血相を変えて、小声で怒鳴るという器用なことをしながら詰め寄った。
「あれ、どうやったの!?」
「?どうって、普通に話をしながら、宥めて寝かせましたけど?」
シークはフォーリとの会話をベリー医師に話して聞かせる。すると、ベリー医師は深いため息をついた。そして、安堵の表情を浮かべる。
「良かった。一番の薬はよく休むことだからね。」
ひとしきり頷いてから、シークに説明してくれた。
「いいかい、普通のニピ族はね、主と離ればなれになると思ったら、てこでも動かないというか、主の元に行こうとしてわがまま言うんだよ。一筋縄じゃいかない。こんなに素直に言うことを聞くということは、相当やせ我慢してたな。そして、君のことを信用しているからですな。」
「……そうなんですかね?」
「そうなんです。」
その後、シークはベリー医師の手伝いをした。一度フォーリを起こして薬を飲ませ、さらにフォーリを確実に深く眠らせた後、担架を使ってフォーリをある場所に移動した。それは、この屋敷にある牢だ。そこに寝台を用意してフォーリを寝かせる。
「可哀想だけど、こうでもしないと若様のところに行こうとするからね。」
ベリー医師はガチャンと牢の扉を閉めた上、ガチャリと鍵をかける。
「君には預けないよ。同情して鍵を渡してしまいそうな気がするから。」
ベリー医師は鍵を懐にしまって、目の下に隈ができた顔で悪そうに笑って立ち去った。
もちろん、フォーリが目覚めた後、開けろ、出せ、と大騒ぎしたのは言うまでもない。
フォーリは悪い夢をみていた。
若様がセリナと結婚するから、フォーリはもういらないと言うのだ。二人で手を繋いで一時も離そうとしない。お互いに顔を見合わせてはふふふ、と笑い合う。
『じゃあね、フォーリ。これからは自由に生きて。ずっと思ってたんだ。フォーリはもっと自由に生きたらいいのにって。それに、私の側にいたら、死んでしまうかもしれない。そうなるより、お別れした方がいい。』
フォーリが言葉を失っている間に、さらに若様は続けた。
『心配だったんだ。フォーリが死んでしまわないか。だから、これは良い機会だ。フォーリ、お別れしよう。フォーリのことをセリナに相談したら、お別れするのが一番いいって、教えてくれたんだ。だから、そうするよ。』
『若様…!何をおっしゃるのですか!別れるなど、とんでもないことです!私には若様しかおりません!』
ようやくフォーリは叫んだが、静かに若様は首を振った。
『もう、決心したんだよ、フォーリ。今までありがとう、フォーリ。』
『若様!――!』
フォーリは叫んだが、上手く声を出せない。
『早く行きましょ、若様。』
隣にいるセリナが別れを惜しんでいる若様の背中を押した。
『……うん。寂しいけどフォーリのためだもん。それじゃあ、元気でね。』
名残惜しそうに別れを惜しみ、歩き出す若様。そして、若様がフォーリに背を向けた直後に、セリナがニヤリと笑った。その表情を見た途端、フォーリの腹の底から黒い怒りがふつふつと沸き上がってきた。
『この、小娘、貴様――』
『ふふーんだ。若様はもう、わたしのものだもんね~。』
セリナが勝ち誇った顔で言うと、ぺろりと舌を出して笑い、フォーリに背を向けて若様の後を追う。
『この小娘、貴様ー!何が、わたしのものだもんね~、だぁ!待てぇぇぇ!』
フォーリは布団の中で悶絶して目覚めた。むっくりと起き上がって周りを見ると、近くの小机の上に小さくランプを灯してあった。 はぁぁ、と両手で顔を覆い大きくため息をつくと、フォーリは今見た生々しい夢について考え込んだ。
(なんか、嫌な予感がする。胸騒ぎがする……!『若様はもう、わたしのものだもんね~』に何か意味があるのか?)
フォーリは真面目に考え込んだ。フォーリはしばらく沈黙した後、一つの可能性に行き当たり、はっとする。
(ま、まさか……!本当にするつもりじゃないだろうな、あの小娘!!もし……。もし、本当に若様に手を出したら、絶対に許さんっ!素直で純粋で純情な穢れなき若様に余計なことをしたら、絶対に許さんっ!!)
フォーリがまるで目の前にセリナがいるかのように、鉄扇を床に打ち付けると、鉄扇が牢の床板にめり込んで突き立った。
怒りのあまり、その後、フォーリはあまり眠れなかった。
しかし、このフォーリの妙な心配は的中することになるのだった。
星河語
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