教訓、五十。ニピ族の勘は当たるので、変なことを言い出しても世迷言だと思わないこと。 1
驚いたことにフォーリが風邪を引いた。そして、シークはベリー医師に若様と引き離したフォーリを部屋から出さないようにという、大変困難な指令を受けていた。風邪を引いていようとも、ニピ族はニピ族。腐っても鯛と同じで腕は立つし、窓から出入りできるわ……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「フォーリ、お前、風邪を引いたのか?」
シークは目の前で鼻をかんでいるフォーリを凝視した。たった今、ベリー医師に言いつけられた任務を果たしにやってきたのだ。
「……幽霊でも見たかのような顔をするな。」
フォーリは反論しながら、ぶるっと身を震わせた。
「んー?熱が上がる兆候じゃないか、今のは。」
思わずシークが言うと、フォーリは首を振った。
「違う。熱は上がらない。ただ、ちょっと鼻水が出ただけだ。お前だって、少しぶるっとしていた。」
「あれは寒暖の差でぶるっとしただけだが。」
暖かい部屋から、寒い廊下に出た時に思わず身震いしたのだ。それをフォーリは見ていたらしい。
「とにかく、私は風邪を引いてない。だいじょ――はっくしょん!」
大丈夫だと言いながら、フォーリは盛大にくしゃみをした。それを見たシークは急いで側の窓を開けた。
「なんだ、その反応は――はっくしょん!」
さらに別の窓もシークは開けた。
「ベリー先生に、誰かがくしゃみをしたら、必ず二カ所以上の窓を開けるように指導を受けている。できるだけ対角線上に開けろと言われている…!」
ベリー医師は今、いなかった。若様の具合が悪いわけではない。今、親衛隊の隊員達が一斉に風邪を引いて大変なことになっていた。
「あぁぁぁ!とうとうこの時期がやってきてしまったぁぁ!!」
とベリー医師は叫びながら、治療に走り回っている。それと同時に、これ以上風邪引き患者が増えないように、手洗いやうがい、換気などの予防措置をするように義務づけられた。
「決して風邪引くんじゃありませんよ!?あなたは、毒で体が弱っているんですからね!いいですね!」
と鬼気迫る勢いで念を押されたので、シークは必死に予防に努め、根性で風邪にかからなないようにと頑張ったが、それでも一瞬だけ寒気がして、ベリー医師に薬を処方された。
前だったら、寒気がしても一日が終わる頃には治っていただろう、くらいの弱い寒気だったのだが、ベリー医師に強制的に薬を飲まされ、結局それで元気になった。半日もしないで治った。
実の所、シークは風邪のか、くらいで済んだのだ。
だが、一方、フォーリはそれよりひどいようだ。確かに王太子が来ている間、一番、活躍したのがフォーリだったのだから、疲れも溜まっていたのだろう。
しかし、若様と離ればなれになりたくないばかりに、フォーリは風邪を引いていないと言い張っている。それで、ベリー医師にあることをシークは命じられていた。フォーリがこの部屋から出ないよう、見張っているようにと。
若様は今、セリナと二人っきりで部屋にいる。なんせ、シークの部下達はほとんどみんな風邪で寝込んでしまっているし、寝込んでなくてもベリー医師に、風邪を移すといけないから若様への接近を禁じられているので、側にいれないのだ。離れた所から護衛している。だが、部屋の中までは入れないので、元気なセリナが若様の側に張り切って一緒にいる。
シークは油断なく、フォーリを見据えた。窓から出てもいけないし、もちろん部屋の扉からも出してはいけない。非常に困難な任務である。ニピ族は二階だろうと三階だろうと、窓から出入りするのが好きだ。さらに言えば見通しの利く屋根の上も大好きだ。猫みたいに高いところが好きなのだ。
「私は風邪を引いていない。だから、邪魔をするな。」
フォーリは鼻をかみながら部屋を出ようとするが、その進路上にシークは立ち塞がっている。
「フォーリ、いいかげん諦めろ。明らかにお前は風邪を引いている。黙って、そこで休め。」
シークは寝台を指さした。
「嫌だ。若様のところに行く。」
「それで、若様に風邪をうつしたらどうする?」
「う……。だが!ぐすっ。」
フォーリは勢いよく言い返そうとして、鼻水が垂れてきて慌てて手巾で鼻を覆った。
「もう、誰が見たって風邪引き決定だ。医者じゃない私が見たって風邪引きだろう。」
「しかし!」
「いいから、いいから。お前だって人間だ。風邪くらい引くさ。」
シークは言いながら、フォーリの肩を叩いて部屋の奥に行くように促した。
「その割には、目玉が落ちそうなほど驚いていたな。」
フォーリも反論する割には、シークに素直に従った。
「そうだったか…?まあ、いいじゃないか。びっくりしたのは事実だが、考えてみればお前だって人間だ。先日まで一番、活躍していたのはお前なんだから、疲れていて当然だ。見抜けなくてすまなかったな。」
「……。」
シークは部下を相手にしているように穏やかに言うと、フォーリが困っている隙に長椅子に誘導して座らせた。
「ちょっと休んだらどうだ?」
「しかし、気になることが……。」
何かごにょごにょとフォーリは小声で言った。
「足を伸ばしたらどうだ?」
「何かあった時に速やかに動けない。」
「大丈夫だ。その時のために私がいるんだし、ニピ族のお前なら風邪を引いていても、すぐに起き上がれるさ。」
そう宥めながら、シークは毛布を持ってきた。シークに言われてフォーリもそう思ったのか、素直に長椅子に横になった。すぐに動けるよう、靴は履いたままだ。
「……まあ、仮眠を取るか。」
ぼそっと小さな声でフォーリは言った。そんなフォーリに毛布をかけると、フォーリは毛布を引っ張り上げてぶるっと体を震わせた。
「……。」
やっぱり熱が上がる兆候だとシークは思ったが、フォーリが起き出さないように、もうそれ以上は言わなかった。
シークも近くに椅子に座り、体を休めることにした。
星河語
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