表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

532/582

教訓、五十。ニピ族の勘は当たるので、変なことを言い出しても世迷言だと思わないこと。 1

 驚いたことにフォーリが風邪を引いた。そして、シークはベリー医師に若様と引き離したフォーリを部屋から出さないようにという、大変困難な指令を受けていた。風邪を引いていようとも、ニピ族はニピ族。腐っても鯛と同じで腕は立つし、窓から出入りできるわ……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

「フォーリ、お前、風邪を引いたのか?」

 シークは目の前で鼻をかんでいるフォーリを凝視(ぎょうし)した。たった今、ベリー医師に言いつけられた任務を果たしにやってきたのだ。

「……幽霊でも見たかのような顔をするな。」

 フォーリは反論しながら、ぶるっと身を震わせた。

「んー?熱が上がる兆候じゃないか、今のは。」

 思わずシークが言うと、フォーリは首を振った。

「違う。熱は上がらない。ただ、ちょっと鼻水が出ただけだ。お前だって、少しぶるっとしていた。」

「あれは寒暖の差でぶるっとしただけだが。」

 暖かい部屋から、寒い廊下に出た時に思わず身震いしたのだ。それをフォーリは見ていたらしい。

「とにかく、私は風邪を引いてない。だいじょ――はっくしょん!」

 大丈夫だと言いながら、フォーリは盛大にくしゃみをした。それを見たシークは急いで側の窓を開けた。

「なんだ、その反応は――はっくしょん!」

 さらに別の窓もシークは開けた。

「ベリー先生に、誰かがくしゃみをしたら、必ず二カ所以上の窓を開けるように指導を受けている。できるだけ対角線上に開けろと言われている…!」

 ベリー医師は今、いなかった。若様の具合が悪いわけではない。今、親衛隊の隊員達が一斉に風邪を引いて大変なことになっていた。

「あぁぁぁ!とうとうこの時期がやってきてしまったぁぁ!!」

 とベリー医師は叫びながら、治療に走り回っている。それと同時に、これ以上風邪引き患者が増えないように、手洗いやうがい、換気などの予防措置をするように義務づけられた。

「決して風邪引くんじゃありませんよ!?あなたは、毒で体が弱っているんですからね!いいですね!」

 と鬼気迫る勢いで念を押されたので、シークは必死に予防に努め、根性で風邪にかからなないようにと頑張ったが、それでも一瞬だけ寒気がして、ベリー医師に薬を処方された。

 前だったら、寒気がしても一日が終わる頃には治っていただろう、くらいの弱い寒気だったのだが、ベリー医師に強制的に薬を飲まされ、結局それで元気になった。半日もしないで治った。

 実の所、シークは風邪のか、くらいで済んだのだ。

 だが、一方、フォーリはそれよりひどいようだ。確かに王太子が来ている間、一番、活躍したのがフォーリだったのだから、疲れも()まっていたのだろう。

 しかし、若様と離ればなれになりたくないばかりに、フォーリは風邪を引いていないと言い張っている。それで、ベリー医師にあることをシークは命じられていた。フォーリがこの部屋から出ないよう、見張っているようにと。

 若様は今、セリナと二人っきりで部屋にいる。なんせ、シークの部下達はほとんどみんな風邪で寝込んでしまっているし、寝込んでなくてもベリー医師に、風邪を移すといけないから若様への接近を禁じられているので、側にいれないのだ。離れた所から護衛している。だが、部屋の中までは入れないので、元気なセリナが若様の側に張り切って一緒にいる。

 シークは油断なく、フォーリを見据えた。窓から出てもいけないし、もちろん部屋の扉からも出してはいけない。非常に困難な任務である。ニピ族は二階だろうと三階だろうと、窓から出入りするのが好きだ。さらに言えば見通しの利く屋根の上も大好きだ。猫みたいに高いところが好きなのだ。

「私は風邪を引いていない。だから、邪魔をするな。」

 フォーリは鼻をかみながら部屋を出ようとするが、その進路上にシークは立ち(ふさ)がっている。

「フォーリ、いいかげん(あきら)めろ。明らかにお前は風邪を引いている。黙って、そこで休め。」

 シークは寝台を指さした。

「嫌だ。若様のところに行く。」

「それで、若様に風邪をうつしたらどうする?」

「う……。だが!ぐすっ。」

 フォーリは勢いよく言い返そうとして、鼻水が垂れてきて慌てて手巾で鼻を覆った。

「もう、誰が見たって風邪引き決定だ。医者じゃない私が見たって風邪引きだろう。」

「しかし!」

「いいから、いいから。お前だって人間だ。風邪くらい引くさ。」

 シークは言いながら、フォーリの肩を叩いて部屋の奥に行くように促した。

「その割には、目玉が落ちそうなほど(おどろ)いていたな。」

 フォーリも反論する割には、シークに素直に従った。

「そうだったか…?まあ、いいじゃないか。びっくりしたのは事実だが、考えてみればお前だって人間だ。先日まで一番、活躍していたのはお前なんだから、疲れていて当然だ。見抜けなくてすまなかったな。」

「……。」

 シークは部下を相手にしているように穏やかに言うと、フォーリが困っている隙に長椅子に誘導して座らせた。

「ちょっと休んだらどうだ?」

「しかし、気になることが……。」

 何かごにょごにょとフォーリは小声で言った。

「足を伸ばしたらどうだ?」

「何かあった時に速やかに動けない。」

「大丈夫だ。その時のために私がいるんだし、ニピ族のお前なら風邪を引いていても、すぐに起き上がれるさ。」

 そう宥めながら、シークは毛布を持ってきた。シークに言われてフォーリもそう思ったのか、素直に長椅子に横になった。すぐに動けるよう、靴は履いたままだ。

「……まあ、仮眠を取るか。」

 ぼそっと小さな声でフォーリは言った。そんなフォーリに毛布をかけると、フォーリは毛布を引っ張り上げてぶるっと体を震わせた。

「……。」

 やっぱり熱が上がる兆候だとシークは思ったが、フォーリが起き出さないように、もうそれ以上は言わなかった。

 シークも近くに椅子に座り、体を休めることにした。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

 本棚登録やいいね、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ