教訓、四十九。いつも相手の気持ちに寄り添えるとは限らない。 3
シークと話しているうちに、なんとか食事を終えた若様だったが、シークの家族の話を聞いていて、何か「良いこと」を閃いた。だが、それはシークにはちっとも良いことなんかではなくて……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
シークの説明に、若様はなぜかさらに質問してきた。
「ねえ、ヴァドサ隊長の兄弟って何人兄弟?」
答えようと口を開きかけて、はっとした。
(あれ?ちょっと待て。えーと……。)
急いで心の中で数え直す。
「……。」
「…もしかして、数が分からないのかな?」
ベリー医師がからかうように言ってきた。
「…先生、うるさいです。確認し直しただけです。九男六女の十五人でした。妹が二人亡くなっているので、今は十三人です。」
シークの答えに若様の目がまん丸になった。
「すごーい。たくさんいるね!」
ええ、そうですね。とシークは思う。なぜ、真面目な父が第二夫人、第三夫人まで娶って子を為したのかという疑問は、当然ながらシークの兄弟の間でもあった。長老達の話などから、総領になるからには、子をたくさん為さなければならないらしい、ということは見当をつけていた。
だが、そうらしいとも言えずシークは苦笑した。
「とっても賑やかそうだね。」
「そうですね。そこにいとこ達や甥、姪、親族や同じ流派の道場の子供達なんかが、入り交じっているので、どれが誰の子供でどうなのか、把握するだけで大変です。」
シークの説明にベリー医師が質問した。
「そんなにいれば、年上の姪とか甥とか、出てきそうだね。いるんじゃないの?」
「末の妹のカレンですが、長兄の長女と一歳しか違いません。ですから、二人とも幼い頃から姉妹のように育ち、今でも姉妹のように過ごしています。カレンが今、十七歳で姪のテラが十六歳なので。」
シークの説明に若様がますます目を丸くした。
「叔母さんと姪が一歳違いなの!?」
「ええ、そうです。」
若様は声にならない声で驚いている。
「…十七歳と十六歳じゃ、私とあんまり変わらないね。妹なのに。」
すっかり、食事の手が止まったままだ。
「若様、そうですね。ほら、食べながらにしましょう。」
「あ…うん。」
シークがさりげなく促すと、ようやく若様はすっかり冷め切ったスープとお粥を食べ始めた。
「…そんなにたくさんじゃ、おうちに住むところがなくなっちゃうんじゃない?」
ふと、若様は聞いてきた。
「そうですよ。ですから、当家は建物を建て増ししているので、かなり複雑な配置になっています。別棟に渡り廊下を渡したりしていて、入り組んでいるので初めて来た人は、ほとんど間違いなく迷います。迷路みたいになっていますから。」
「家の管理が大変そうだな。」
今まで黙って聞いていたフォーリがぽつりと漏らした。
「そういえば、私の部屋は雨漏りがしていた。」
思わず思い出して口にした。手直ししただろうか。あちこち直すのに大変なお金がかかるから、悩みの種だったのだ。シェリアの祝儀なんかで解決したならいいのだが。
「ヴァドサ隊長のお部屋って広いの?」
「すぐ下の弟と使っていました。まあ、私が結婚するので、別棟に移動することになりますから、部屋は順次繰り上がりになっていきます。」
「繰り上がり?」
若様が首を傾げる。
「誰かが結婚すれば、その部屋を出て別の兄弟が、その部屋を使うんです。二人で一部屋というのが、当家での基本です。もっとも、十歳以下は四人まとめて一部屋ですが。」
「へえ!みんなで寝ていたの?」
若様はその方に興味が沸いたようだ。確かに若様は王族なので、そんな経験があまりないだろう。
「私も小さい時は、従兄上と一緒に寝ていたりしたよ。でも、大きくなってからも同じ部屋で一緒に寝るなんてないから、びっくりした。」
若様は言った後、「あ!」何か嬉しそうに呟き、食事を何とか平らげた。食べたくないとか言っていたが、シークと話しているうちに気が紛れたらしい。まあ、なんとか役目を果たせたようだ。ベリー医師がシークに機嫌良く頷いてみせたから。
フォーリが食器を下げに行く。その間に若様は薬を飲んでいたが、それも終わってから、キラキラした笑顔をシークに向けた。
「ねえ、ヴァドサ隊長。いいこと、思い付いたよ。」
「え、いいことですか?」
さっきの話で何か、いいことに繋がることがあっただろうか。シークは首をひねる。
「この後、一緒に寝よう。だって、同じ部屋で寝てたんでしょ。それに、ベリー先生もヴァドサ隊長に早く寝なさいって言ってた。」
「……。」
(は!?なんという勘違い!)
口には出さなかったが、シークは心の中で盛大に叫んだ。そんなことをしたら、フォーリに絞め殺される。なんとかして、フォーリが戻ってくる前に、その考えを却下して頂かなくては…!
やはり、若様はその辺が、普通の男の子と違う。それだけ、人の温もりに飢えているのだろう……などと考えている場合じゃない。急がないとフォーリが戻ってきてしまう。
「若様、それはできません。それに、同じ部屋で休んでいるだけで、同じ布団では寝ないんですよ。体がはみ出るので入りませんから。」
すると、若様はにこにこして宣った。
「大丈夫だよ。だって、この布団は広いよ。私はいつも、端っこで寝てるもん。ヴァドサ隊長がいても大丈夫だよ。」
「若様、しかしですね……。」
「ええー、嫌なの?」
若様は眉尻を下げて、残念そうに呟いた。
「嫌というか、私の立場上、それはできないんですよ。」
「でも…、一緒に寝てたら、敵が来てもすぐにやっつけられるじゃない。」
良い考え、とばかりに若様は顔を輝かせて言う。ちっとも良い考えじゃない!フォーリに殺される。
「いいえ、若様、かえって危険です。私が寝ぼけて若様に絞め技をかけないとも限りませんし。」
そうだ、これで乗り切ろう。シークが思った時、若様はさらにその上をいった。
星河語
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