教訓、四十九。いつも相手の気持ちに寄り添えるとは限らない。 2
若様の食事の間、シークは気を紛らわせるために話をしていたが、流れでシークの家族のことになり……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「なんで、二人とも何も言わないの?」
「若様。きっと、二人とも若様が余計に機嫌を損ねると考えたと思います。」
「えぇ?なんで?……もしかして、普通の男の子って、私とは違うの?」
若様は少し落ち込んで、恐る恐る聞いてきた。まあ、確かに普通とは違う。でも、それを言えばもっと若様は落ち込むだろう。だからといって、それを隠すのもいいとは言えないとも思う。
「…そうですね。まあ、確かに普通の男の子は、もっと態度も口も悪いかもしれません。」
「そうなの……。その方がいい?」
「いいえ。別にそうしなくていいと思いますよ。」
「でも、普通じゃないんでしょ?」
「人はそれぞれですから、わざわざ悪ぶって見せる必要はないと思います。」
シークの言葉に、若様は少し考え込んだ。
「じゃあ…、ヴァドサ隊長はどうだった?」
「私ですか?当家では、そういうことが出来る家風でもありませんし、しようと思ったことがありませんでした。ですから、目上の人に対して家族でも不遜な態度を取ったことは一度もありません。」
すると、若様はシークの実家について、興味を持ったらしい。
「ふうん?ヴァドサ隊長のおうちって、どんな家なの?もし、仮にヴァドサ隊長のお父さんに、不遜な態度を取ったらどうなるの?」
なんということを聞いてくるんだ…!と思ったが、こう答えるしかない。シークの恐いものが“父親”だと知っているフォーリとベリー医師が、出し物でも見ているかのような興味深げな表情になる。
(……二人とも面白がってるな。)
「若様。おそらく、そんなことをしたら、殺されると思うだけです。」
「…こ、殺されるって!?」
若様がびっくりして声が裏返りかけている。当然もう少し説明が必要だ。
「殺されると思うほどの殺気を浴びるだけです。それが分かっているので、誰もそんなことはしません。」
と言ってから、一人例外がいることを思い出した。シークのすぐ下の弟のギークは恐いもの知らずだ。だが、余計なことは言わないでおく。
「なんだ、そういうことか。本当に剣で切られるのかと思っちゃった。」
一度だけ、ギークが父のビレスを本当に怒らせ、道場で剣を抜く構えをしたことがあった。シークが剣士狩りに遭い、それをちんぴらに絡まれて怪我をしたことにした後の事件だ。たったそれだけで、十剣術交流し合いに出場させないのは、本当に不公平だと食ってかかったのだ。
普段から、公平に家の名前を鼻にかけるなと言っておきながら、自分の息子に対して、最も不公平に扱っている、と隠された事情を知らないギークはビレスに対して怒鳴った。
本当はやくざ者のイナーン家の者達に囲まれ、殺されると思って返り討ちにしてしまった。それで、父のビレスは息子達には黙って、イナーン家と取り決めをして、イナーン家の者を殺してしまったシークが、イナーン家に報復されないよう取り計らっていた。
シークはそこまでは分からなかったが、相手がイナーン家だということまでは分かっていた。だから、その場に現れたイナーン家の若頭かなんかだろう人と、たまたま通りすがった叔父とで決めた話に従い、ちんぴらに絡まれたことにしていたので慌てた。
その話は家族にも口止めされていた。だから、シークはギークの代わりに慌てて父に謝った。そして、母のケイレも慌てて夫を叱りつけた。妻に厳しく叱責されて、父が心なしか肩を落としているように見えた。そして、ギークも母のケイレに厳しく叱責された。
つまるところ、ビレスとギークが衝突すると、二人ともケイレに厳しく叱られて終わる。結局、我が家で一番強いのは母だった。
そんなことを思い出していた。
「……。」
「なんだか、本当に剣で斬られそうになったような顔をしていますな。」
ベリー医師がどうでもいい指摘を鋭くした。そんな指摘、どうでもいいだろうに、なんでそんなことだけ鋭くするんだ。内心シークは思う。
「そんなことはありません、先生。寸前までいったことはあっても。」
嘘をつけない性分のシークは、別に正直に答えなくてもいいのに、素直に答えてしまった。別に隠す必要もないが。すると、若様の目が飛び出さんばかりにまん丸になった。
「!?ほ、本当に斬られそうになったの!?ヴァドサ隊長が?お父さんに?」
「いえ、私ではなく弟が。」
若様の目はまん丸のまんまだ。シークは苦笑しながら、さらに説明する。
「すぐ下の弟は恐いもの知らずなんです。誰も刃向かわない父に対して刃向かえる、母の他に唯一と言っていいくらいの人間です。まあ、今のは大げさにしても、兄弟の中ではそうですね。」
星河語
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