教訓、四十九。いつも相手の気持ちに寄り添えるとは限らない。 1
王太子一行が帰っていって、みんなほっとしていた。シークもベリー医師に寝るように言われたのだが、若様のお呼びがかかり……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
王太子一行は帰っていった。
シークをはじめ、親衛隊の一同はさすがに脱力していた。いろいろと“気疲れ”していた。
若様も従兄のタルナスに会えるのは楽しみにしていたが、その後は少し疲れてしまっていた。やはり、ベブフフ・ラスーカの存在がまずあげられる。
そして、タルナスの一行に紛れているだろう、王妃カルーラの密偵達。その存在がどこかにあると分かっているので、若様は緊張してもいたのだ。しかも、特定の数人の侍女や侍従を気にしていたので、彼らが密偵だったのではないかと思われる。
どうして分かったのかは、フォーリが教えたからだろうと思うが、若様は鋭い所があるので、もしかしたら、自分で気がついたかもしれない。
とにもかくにも、ようやく日常が戻ってきた。
「あー、ようやく終わりましたねー!」
清々しいほどに本心を述べながら伸びをしているのは、イワナプ・ジラーだ。実家がシークと同じように、イワナプ流という剣術流派である。
そのジラーは口に戸を立てることができない。思ったら、次には口の外に出ていることが多い。そのため、重要な場面では命の危険がない限り、決して口を開かないように伝えている。
その指導の結果、今回は上手くいって王太子一行が帰るまで、失敗らしい失敗をしなかった。……おそらくは。
「今日は若様は一日中寝かせておきます。」
ベリー医師は、部屋の前で待機しているシークに言った。
「分かりました。半分ずつ交代で寝かせます。」
つい、あくびが出そうになり、急いで堪えてシークは答えた。
「…珍しい。ヴァドサ隊長があくびをかみ殺すとは。よほど、お疲れの用ですな。また、体調を崩したら困りますから、君も寝た方がいい。というか、寝給え。」
最後は半眼で睨むようにしてねめつけられたので、シークは思わず生返事をした。
「…はあ。」
その時、閉まりきっていなかった扉が大きく開き、不機嫌そうなフォーリが出てきた。「来い。」と手で手招きをする。仕方なく、シークは若様のお呼びなので部屋に入った。
そりゃあ、シークも早く寝たいほど、この数日ほとんど寝ていない。部下達より先に寝るのは申し訳なく思うが、一方で早く寝たいのも事実だった。だから、ベリー医師の命令はある意味、良かったのである。
中に入ると、若様が寝間着の上に上着を羽織った状態で、遅い朝食を取っている所だった。芋のスープとおかゆだ。髪は結んで折らず、少女のようである。どうやら、食が進まないようだ。
「若様、おはようございます。」
「……うん。」
隣のフォーリは相変わらず不機嫌そうだ。何か若様が言ったらしい。一体、何だろうか。シークに一緒に食事をしろとか、そんなことを言ったのだろうか。
「どうかなさいましたか?」
「……うん。」
「若様。どれだけ、進まなくてもそれだけは食べて下さいね。どっちもたった一杯ずつなんですから。フォーリやヴァドサ隊長に食べて貰おうというのは、ダメですからね。」
もう一度部屋に戻ってきたベリー医師がびしっと言う。
「……うん。」
いつも、若様は寝起きは元気がない。
「だって、食べたら薬を飲むんでしょ?あれ嫌だな。苦いもん。」
おや、とシークは思わず、フォーリとベリー医師と顔を見合わせた。今までより、はっきりと自分の言いたいことを言っている。好き嫌いさえ、若様は言いたいことを上手く言えなかった。
「……またー。さっきから、二人ともそんな風に顔を見合わせてばっかり。ヴァドサ隊長まで…。」
なんだか、突然、若様が普通の男の子になってきたようで、シークは思わず笑った。シークの笑い声に、若様が匙を持った手を止めて、目を丸くしてシークを見つめた。
「……なんで笑うの?」
若様は少し顔を赤くして、戸惑っている。
「失礼致しました。若様が突然、進歩されたので嬉しかったのです。」
「え?進歩?…私は何もしていないよ?」
思いがけない言葉だったらしく、若様は不思議そうな表情を浮かべた。
「はい、何もしていませんが、進歩です。」
若様はきょとんとフォーリとベリー医師の顔を見比べながら、シークの顔も見つめた。
「若様。分かりませんか?」
シークの問いに少し考えて首をふる。
「分からない。」
「若様。今まで若様は、好き嫌い、したい、したくないということも、はっきり仰ることができませんでした。ですが、今日はしたいこと、嫌いなことをはっきり仰っています。大きな進歩ではありませんか?」
その指摘に若様はびっくりした表情を浮かべた。
「……あ、ほんとだ。」
目を丸くして嬉しそうに、へへ、と笑う。
「なんだ、そういうことか。フォーリもベリー先生も顔を見合わせて妙な顔をしているから、何かと思ったよ。」
若様は途端に、にこにこして嬉しそうにスープを口に運んだ。
「二人とも、言ってくれればいいのに。」
すると、フォーリもベリー医師も困ったような顔になる。それは、普通の男の子は、そいういことを言われたら、余計に怒るような気がせんでも無い。『なんだよ、そんなことか。どうでもいいだろ、別に。どうでもいいことで、変なこと言うな。』などと言う返事が返ってくるような気がする。もしくは、全くの無視か、どちらかだろうか。返ってきても『ふーん、あ、そう。』とか、その辺だろうか。
若様はその辺、普通の男の子と少し違う。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
 




