オルが死んだ理由。 1
シークは忙しい合間に、フォーリから山林で何があったのかを聞いた。すると、オルが死んだ本当の理由を教えてくれたが……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
忙しい合間を縫って、フォーリはシークに山林で何があったかを教えてくれた。
まず、オルが亡くなった件についてだ。実は止めを射したのがジリナだったという。
というのも、セリナを殺そうとしたので、怒った彼女はオルをシェインエン大陸から取り寄せた弩で射殺したのだという。ジリナはオルの仲間に接触し、オルを手助けするために弩が必要だと言ったらしい。
元々、彼女は王宮で侍女をしており、そこで若様の母君である、故リセーナ王妃に仕えていたそうだ。そこで、彼女は重大な秘密に気がついた。シークは耳を疑ったが、リセーナ王妃は二人いたというのだ。優しいリセーナと冷たいリセーナといたそうだ。
そして、シークはボルピス王がリセーナに薬を嗅がされたという話を思い出した。このリセーナ王妃が二人いたという話は、ジリナが若様にしたらしい。
その二人いるという秘密を知ったため、ジリナは優しいリセーナの方に王宮を辞すように言われ、貴族の屋敷で働けるよう、紹介状を貰って辞めたのだという。
その後、ジリナの身辺に異変があった。ベブフフ家の屋敷で働いていたのだが、そこの二番目の若様と恋仲になったらしい。そして、セリナを身ごもった。二番目の若様はベブフフ・ラスーカの弟である。
だから、セリナは貴族の娘ということになる。しかし、当時ジリナは、身ごもっていないとベブフフ家に断言してしまっているため、セリナは拾った子にしたという。セリナより年上の兄姉達は、孤児院から養子に貰い、家族を作った。
そして、肝心のオルだが、王宮を辞めてからジリナを殺そうと送られてきた刺客らしい。何がどうなったのかまでは知らないが、オルが頭をぶつけて記憶喪失になり、上手いこと全てを忘れたため、夫ということにして欺きながら監視していたらしい。
なんともまあ、大胆な女性である。それくらいでなければ、王宮に勤めることなどできないかもしれない。
そうやって、欺いて守ってきたセリナも含めて殺そうとしたので、ジリナはオルに鉄槌を食らわせたのだそうだ。
それをフォーリは黙って見ていた。なぜ助けなかったのかと思いはしたが、ニピ族は裏切りを決して許さない。そのため、報復が凄惨であるのを知っているから、そのまま傍観したらしい。後からベリー医師が補足してくれた。
オルは事故か何かで記憶を失ったらしいが、黒帽子側にしてみれば、長らく裏切っていたということになるのだろうか。少し気の毒な気もする。
森の管理について村に来た頃、いろいろと世話にはなったので、複雑だが一概にただの刺客だと思えなかった。ジリナの夫でもあった。
そして、彼女はそんな大胆なことをした上に、自分の手を汚してまで夫に制裁を加え、身の潔白を証明してみせた。セリナも悪事に荷担していないことを立証するには十分だった。
だから、タルナスはジリナもセリナも、二人に対して何のお咎めもなし、で終わった。
ここまでも重要な話だったが、さらに大事な話は続いた。
すでに夜中どころか、朝方になっている。裏方はなんだかんだで寝れないほど忙しいのだ。シークは護衛専門だとはいえ、いろいろあった。
「それで、私が殿下に若様を連れ帰らないように進言したのには理由がある。」
シークは頷いた。
「どうやら、黒帽子の中でもそれなりに立場のある者が接触してきた。普通の実行部隊の兵士と違うようだ。指示していたからな。」
それは重要である。
「レルスリ殿のことを言ってきた者と同じか?」
シークの従兄のセグが亡くなった後、カートン家の施設に侵入してきて、バムスが行方不明になっている話をしにきた。その男はどうやら普通の実行部隊と違う様子だった。少しは立場が上のような印象を受けた。
セグの殺害について、男は忘れたような素振りを見せていたが、セグは『二人』という言葉を残していた。もし、実行犯の指揮を執る者が二人ならば、話はやっかいだ。
フォーリは首を振った。
「はっきりとは分からないが、おそらく違うと思う。」
フォーリは考えながら言う。
「たぶん、いくつか実行部隊の班に別れていると思う。
それで、その男だが、私達ニピ族に対しても反感を持っている様子だった。どうやら、踊りの方が貴族や金持ちにも仕えるようになっているから、腕が落ちたと思い馬鹿にしていたようだ。
私はその男を斬ろうとしたが、下に何か着ていて斬れなかった。私がその男に危機感を抱かせたため、礼にと言って、いくつか話をしていった。」
フォーリはそこで、フンと鼻を鳴らした。実は相当頭にきていたらしい。
「人を見下していて偉そうな奴だったが、重要な話をしていた。まず、オルに記憶を取り戻させたのは、その男だという。
さらに、若様は殿下と一緒に帰らない方がいいとも言った。王妃がさらなる計画を立てているので、一緒にいたら殿下暗殺の疑いで捕まるだろうということだった。」
シークは思わずフォーリを凝視した。
「つまり……王宮にも密偵がいるということだな?まあ、ジリナさんの話からいっても、そうなるが。」
そう、この話、単純な話ではない。王家と深く関わってくる話だ。しかも、ボルピス王でさえ、全容を把握していない様子だった。叔父のエンス達が来た時、かいつまんだ話を聞いたが、どうやら、黒帽子は五百年前のディイード王の時代から存在するらしい。この当時、王家が分裂したそうだ。
表向きの歴史はそんな危機があったが、分裂はしなかったことになっている。だから、真逆の話だ。
とにかく、王宮ほど深く根深いのかもしれないが、黒帽子は何を狙っているのか、いまいち分からなかった。セグはとにかく、若様をセルゲス公として守れと言ってきていた。つまり、王位に就かない方がいいとセグも思っていたのだ。
「そういうことになる。おそらく、お前の家の黒帽子の密偵が言った通り、王家の話が絡んでいるのは間違いないと思う。」
フォーリは難しい顔で頷いた。
星河語
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