教訓、四十八。雨降って地固まる 5
シークは落ち込んでいるフォーリを慰めようと、必死に頭を巡らせるが……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
確かに、フォーリが最初に選んだ主としては、フォーリの性格やいいおつむのできを見ても、タルナスを選んだのは理解できるし、納得できる。若様ではないかもしれない。
でも、今は若様を主として選んだと言われたら、そうとしか見えなかった。きっと、あまりに不遇な境遇であることに心を痛め、この可哀想な少年を守ってやりたいと切に思ったのだろう。心からそう思ったから、最初はタルナスの命令だったにしても、若様を主として仕えることができているはずだ。
はっきり言えば、今はタルナスに対するフォーリの態度は、王太子に対して接する親衛隊などと変わらない。
「お前の王太子殿下に対する接し方は、私達と同じ親衛隊が接するのと何ら変わらないと私は感じた。」
「……。」
黙っているフォーリに、さらに続けた。
「お前はよくやっている。若様が毒を口にされてしまった件は、私の方が責任が大きい。情に流された。」
その時、足下に転がっているオルが呻いた。意識を取り戻したようだ。途端、フォーリが鉄扇を構えたので、慌ててシークはフォーリを止めにかかる。
「待て!気持ちは分かるが、まだ殺すな。お前の言うとおり吐かないかもしれないが、私はもう少し、聞き出せる情報があるのではないかと思う。今度は私が尋問してみよう。お前は少し休んだらどうだ?」
フォーリがオルを殺さないよう、シークはそう提案してみた。実際に“裏”にいる者をできる限り探りたい。何者なのか、分からないと困る。おそらく、あの黒帽子という謎の組織に違いないだろうが。
シークの提案に、フォーリは少し考える素振りを見せた。シークはそんなにフォーリが自分を頼りにしていると思っていないが、タルナスが指摘した通り、シークが思っている以上にフォーリはシークに一目置いていた。
だから、感情が爆発している状態のニピ族であるフォーリも、シークの言うことをとりあえず聞いていた。そうでなければ、ニピ族に話して聞かせるなどできない。普通は無視されておしまいなのだ。主に手を出した者に対して情状酌量するなど、毛頭からそんな考えはない。
「分かった。」
しばらくして、フォーリは頷いた。シークはかなりほっとした。珍しく鼻声だったフォーリは、窓からひらりと降りていった。二階だというのに。
(まあ……、あれを見ても、もう驚かなくなったな。二階程度はニピ族にとって、一階となんら変わらない高さのようだし。)
フォーリが出て行った後、シーク考えた。問題はこの一筋縄でいかないだろう、オルの口をどうやって割るかだ。
(さて、こいつをどうやって尋問するか。蜂蜜の件は動揺していたが。)
シークが考え始めた時、ぬっと先ほどフォーリが出て行った窓に影が射したが、気づいたのと声がしたのは同時だった。
「…一つ考えがある。」
全く気配がなく、行ってしまったものと思っていただけに、飛び上がりそうなほど驚いた。思わず胸の辺りをさする。
「なんだ?」
すると、フォーリは窓から入ってくると、シークに囁いた。
「おそらく、何も答えない。だから、泳がせる。」
目でオルの様子を確認すると、やはり完全に意識を取り戻した様子だった。それを見るや否や、フォーリはオルを気絶させた。まったく容赦ない。気絶したのを確認してから、さらに慎重に小声で告げた。
つまり、わざと逃がすのだ。
「ニピ族の後をつけられるのは、同じニピ族しかいない。」
「お前が後をつけると?」
そういうことだとフォーリは頷いた。さらに、念のためにタルナスにも伝えておくという。ニピ族の戦力は重要だ。若様の護衛のこともあるので、ベリー医師達カートン家の医師にも伝えておく。
もう、フォーリの頭の中で、作戦ができあがっているようだった。シークは頷いた。
「分かった。フォーリ。お前の気の済むようにしたらいい。」
「…いいのか?あれだけ死なすなと言っていたのに。」
「お前が拷問して死なせるのと、自然に逃走して戦闘で死ぬのとでは違う。できるだけ、お前に手を汚して欲しくないだけだ。訓練を積んできているとはいえ、そういうことを続ければ心が傷つくものだ。どんな人でも苦しむものだから。」
タルナスに言われたことは隠してそう伝えると、一瞬、何か言いかけたフォーリだったが、結局、黙っていた。
「分かった……。後で詳しい作戦を伝える。それまでは、そいつを見張っていてくれ。」
シークが了承すると、フォーリは今度は普通に部屋を出て行ったのだった。
(なんだ、さっきと今と一体、何が違うんだろう?)
何の理由で二階から飛び降りるか、階段で行くのか決めているのだろうと、どうでもいいけれど気になったシークだった。
星河語
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
 




