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教訓、四十八。雨降って地固まる 4

 遅くなって申し訳ありません。


 オルはフォーリに対し、思いがけないことを指摘した。そして、驚いたことにフォーリの反応が……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 シークはそう分析していたが、ニピ族のオルはシークが思わないことを指摘した。

「お前は…。」

 うつむき加減だった顔を上げ、はっきりとオルは言った。

「…お前、本来は王太子に仕えていたのか?」

 その言葉は、シークにとって衝撃(しょうげき)的な言葉だった。ニピ族は自分で仕える(あるじ)を決める。そして、“二人の主人”には決して仕えない。サリカタ王国に住んでいる者ならば、誰でも知っている。ニピ族の存在はある意味どこか伝説的で、みんな知っている話だ。

 こうして、接しているともっとそう感じる。主である若様には、フォーリはとことん甘い。絶対に守るのだ、という意識も気概(きがい)も感じていた。

 それが、本来はタルナス王太子に仕えていた……?

「…一体、何が言いたい?」

 フォーリのその答えに、もっとシークはびっくりした。もし、フォーリが最初から若様を主人に選んでいたのなら、そう答えなかっただろう。いや、そう答えた“声の調子”からして、オルの指摘が正しいという妙な確信がシークの中にあった。

 そして、フォーリが王太子タルナスに対して、妙に一目置いている理由も分かって、思い出せないことを思い出してすっきりしたみたいに、すとんと納得した。

「いや、お前は本来の主に仕えているわけではないから、王子が死にかけてもすぐに私を捕らえに来なかったのだな。なりふり構わず、怪しいとふんだ時点で私を殺しに来るかと思っていた。お前自身、気がついていないのかもしれないが。」

 フォーリが声にならない声を上げて叫んでいるような気がした。オルを見据えたまま拳を握ったかと思うと、風のような早さでオルの首に手をかけ、首を締め上げた。後ろ手に手を縛られているオルの体が椅子から浮き上がる。両足首も縛られているため、何も抵抗できない。

「やめろ、フォーリ!」

 シークは急いで部屋の中に入ると剣を抜き、フォーリにためらいなく振り下ろした。フォーリは咄嗟(とっさ)に振り払い、その拍子にオルが床に落ちた。

「……がはっ。げほっ、げほっ――。」

 オルが空気を求めて(はげ)しく咳き込んでいるのを確認すると、シークは剣を(さや)に戻した。

「まだ、何も聞き出していないのに、殺す気か!何者の指示なのかも分かっていない!」

 シークが怒鳴ると、フォーリはさっと振り返って言い返してきた。

「どうせ、これ以上、尋問しても無駄だ!若様のお立場を悪くしないようにと遠慮しすぎた!こいつの言うとおり、もっと早くに殺しておくべきだった…!」

 フォーリは肩で息をしながら、まくし立てた。

「私のせいだ……!若様に申し訳ない。私がふがいないから、若様を害されてしまった。食らわなくていい毒を口にしてしまった。」

 シークはフォーリを凝視(ぎょうし)していた。フォーリが手の甲で両目を覆い、泣き出したのだ。

 時々、ニピ族の感情の起伏にはついていけない。激昂(げっこう)したかと思うと、今度は落ち込んで泣き始めた。思わずびっくりしていると、小走りで近づく足音が(ひび)いてきた。

「隊長、一体、今のは何事ですか…!?」

 オルが落ちた音が響いたのだろう。シークは慌てて廊下に出ると、「なんでもない…!」と言いつつ、目線で向こうに下がれと促し、急いで扉を閉めた。

 考えてみれば、ニピ族は主をとっても大切にしている。ベリー医師に言わせると、フォーリはニピ族の中のニピ族だというから、そのフォーリが若様が毒を食らう状況にしてしまったということについて、責任を感じないわけがなかった。

 若様の立場を考えすぎて、ニピ族の勘に従わなかったから、こうなったのだという、ちょっと危ない考えでもある。

 とにかく、フォーリには落ち着いて貰い、このどんより落ち込んだ様子から浮上して貰わないといけない。このままではオルを殺してしまうかもしれない。それだけは避けなければ。

「お前…。」

 一言話したものの、シークはすぐに言葉が出て来なかった。だが、確実にオルが言ったことを気にしている。

「お前、この男がさっき言ったことを気にしているのか…?」

 オルが本当にオルという名前なのか分からないので、シークは男と言っておいた。フォーリの背中を見ながら、シークは慎重に言葉を重ねた。

「仮にその男の言う通りだったとしても、状況が状況だったのだろう。なんとなく想像はできる。仕方の無いことだろう。」

「……。」

「ニピ族の誇りが傷ついたのかもしれないが、私にはそう思えない。私にはお前が心から、若様にお仕えしているようにしか見えない。命がけで心からお仕えしている。いつだって、お前は若様に寄り添ってきた。残酷な運命に翻弄(ほんろう)されているあの方に、お前は心からお仕えしている。お前でなければできないことだと私には分かっている。

 それに、私は何度もお前を見て、ニピ族は本当に忠義の(あつ)い者なのだと思った。(ちまた)で言われていることは本当なのだと何度思ったかしれない。お前は若様を大切にしている。私には、若様をお前が主人として選んだようにしか見えなかった。実際にそうなのだから、この男の言うことを気にする必要はない。」

 実際にそうだった。フォーリはいつだって、若様のことを優先して、命がけで守ってきたのだ。たとえ、最初は王太子の命令でそうであったのだとしても、でも、今は本当に自分の主として心から仕えているようにしか見えなかった。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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