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教訓、四十八。雨降って地固まる 3

 フォーリが若様のパンにかけた毒について説明を始めると、ふてぶてしい態度を取っていたオルも、さすがに青ざめ……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 満足げに笑うオルを前にしてフォーリの眉間が寄った。普通の…というか、国王軍の兵士でもシークの部下達でも、今のフォーリを目の前にして笑うことはできないだろう。こっそり(のぞ)いているシークでさえ、後ずさりたいほどだ。

 フォーリがオルに近づいた。さすがにオルも身構える。

「余計なことを言うと、指がどんどん使い物にならなくなると行ったはずだ。」

「ぐあぁぁ!」

 という悲鳴でほとんど聞こえなかったが、フォーリはオルの指を折ったようだ。さすがのオルの顔も涙と鼻水で汚れ、息も乱れていた。

「さて、それで、お前の仲間は商人の他に何人だ?仲間ではないか。お前はただ、使われているにすぎないようだからな。」

 すると、オルはすぐにふてぶてしい態度を取り戻し、フォーリに言い返した。

「フン、それはお前も同じだろう。」

「では、質問を代えよう。あの毒はどうやって精製した?」

 その質問を聞いた途端、オルはニタァと不気味な笑いを浮かべた。

「フフフ、ハハハア。」

 気味の悪い声で笑う。しばらく笑い続けているオルをフォーリは黙って見下ろしていた。

「お前に分かるか?分かるわけがない。」

 笑いながらオルは、なんとか、という感じでフォーリに答えた。

「お前はよほど、あの毒には自信があるとみえる。」

 フォーリは怒りを抑えた様子のまま、オルの足下に(かが)むと、彼の右足の靴を脱がせた。さらに、靴下も脱がせる。

(……これは本格的に拷問(ごうもん)するつもりだな。)

 シークが困ったなと思った時、人の気配がしたので振り返った。

「隊長。」

 ロモルとダロスだ。声を出したら気づかれるので、若様の護衛をしない残りの半分は、少し離れた所で待機するように手信号で命じた。二人は(うなず)いて、シークの側を離れていく。シークが目線を、細く開けた扉の向こうに戻すと、フォーリが戸棚の前から戻ってきた所だった。何か手に持っている。

(やっぱり、確実にするつもりだな。やらないという選択肢はないようだ。)

「私はある程度、あの毒について予想を立てていた。だから、昨日、証拠を持ってきた。」

 そういえば、どこかに行っていたが、何をしてきたか聞かなかった。必要があれば、向こうから話してくるからだ。

「お前は養蜂をしている。」

 フォーリは続けた。

「ベリー先生に話を聞き、花をつける植物で、人里から離れた冬も比較的温暖な山林に自生する毒草だと知った。ここは、冬でも比較的温暖で、しかもリタの森に続いていて人里離れた山林がある。

 お前の巣箱の場所を徹底的に調べた。当然、村に近い場所には置いていまい。だから、獣道でその先に続く開けた所がある場所を探して見つけた。リタ族がクラーと呼ぶ植物の群生地だ。そこにお前の秘密の巣箱を発見した。」

 そういえばフォーリが出かける時、ウィットを連れて行きたいと言っていたので、一緒に行かせた。ウィットが隊長のシークに報告で何も言わなかったのは、フォーリに黙っているように言われたからだろう。まあ、仕方あるまい。相手はフォーリだ。

「お前が知っている植物、ということは私達も当然知っている。猛毒だからだ。だが、カートン家の先生方ほど、すぐに何の毒かは判別できない。だから、ベリー先生がすぐに毒の判別をして下さって助かった。

 お前はクラーの花の蜜を集め、それを煮詰めて純度を高めた。クラーの毒は煮詰めれば煮詰めるほど、純度が高まるという。だが、お前が作ったものほど純度を高めた毒は初めて見たそうだ。

 お前は、クラーの純度を高めた蜂蜜の結晶を乳鉢などで粉末にし、若様用のパンに振りかけた。セリナの話から、私と若様が同じ食事を摂ることも知っていたはずだ。あわよくば護衛の私も、一緒に毒に当たって死ぬことを目論(もくろ)んでいただろう。」

 ニピ族でなければ、推測も立てられない特殊な毒だ。しかも、ウィットを連れていったのは、これが理由のようだ。おそらく、ベリー医師からクラーと呼ばれる植物が、この近辺に必ず自生しているはずだと言われ、それを探しに行ったのだ。そして、それは当たりだった。

 フォーリの推測を聞いて、さすがのオルの表情も青ざめた。今度は冷や汗か何かが、額からつっと一筋垂れる。何か考えているようだが、さすがに同じニピ族だから、次に何が待っているか分かって、少し恐怖がわき出てきたようだ。

 フォーリはそんなオルの様子を観察しながら、淡々と続けた。声の調子だけは冷たいと感じるほど冷静に聞こえる。見知らぬ者が見たら、フォーリは冷静に見えるだろう。シークはある程度、フォーリを知っているので彼が今、激昂(げっこう)しているのを抑えている状態だと分かっているが。

「お前ならば、若様とセリナが仲良くなるのを待っている間に、山道のあちこちに仕掛けを作っておくのは、わけもないことだ。村人のほとんどは、木の管理が苦手なのでお前に任せきりな所が多いし、普段の様子からしてお前がやっていることに口出しはしなかっただろう。危ないのではないかという指摘が出ても、何か理由をつければ、みんな納得したはずだ。

 もしかしたら、知らずに仕掛け作りを手伝わされた村人もいるかもしれない。勘の良い者ならば、お前ではないかと気づいた者もいるはずだ。だが、ジリナにもお前にも村人は太刀打ちできないから、気づいた者も黙っていた。自らに災いを招きたくないからな。

 お前はそれをいいことに、一度失敗したのにもかかららず、もう一度、仕掛けを作り直した。そして、殿下の馬車と分かっていても丸太が転がるようにした。

 だが、お前は見栄えの良い馬車には、殿下と若様が乗ることはないだろうと考えた。商人と共について来ていた者に、仕掛けの縄を切ることと、矢を射かけることを頼み、お前自身は村の裏手の小道に向かった。若様が殿下と共に同乗しておられるとふんだからだ。

 お前は今日しか機会はないと焦り、自ら手を下そうとして私達に捕まった。」

 今のフォーリは何か圧倒的な存在感を放っていた。静かに進んでくる虎が目の前に居て、じっくりと狙いを定めているかのような感じがする。そういう圧倒的な殺気を感じるのだ。

 すると、オルもそう感じているようで、さすがに小刻みに全身を震わせていた。冷や汗で髪の毛からも汗の滴が落ちた。額に髪がくっついている。気の弱い者なら、失禁しているだろう。あるいは吐いているかもしれない。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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