教訓、四十八。雨降って地固まる 2
タルナスはシークに、ニピ族のフォーリが暴走するだろうから、それを止めるようにと命じられたが……。そもそも、怒り狂っているニピ族を止める手立てがあるのだろうか……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
オルの尋問をすることになり、タルナス、ポウト、フォーリの三人が部屋に残って尋問を開始し、シーク達は若様の護衛に戻ることになったが、シークだけは側にいるように言われていた。
だが、じきにタルナスとポウトは出てきた。シークが黙礼すると、タルナスはシークの前で足を止め、複雑そうな顔で言った。
「…ヴァドサ。フォーリはニピ族だ。きっと、今まで我慢していた分、フォーリは暴走するだろう。オルを死なせるな。一応、ベブフフの領地に住んでいる村人でもある。言っている意味は分かるな?」
「はい。」
言っている意味は分かる。ベブフフ・ラスーカにつけいる隙を与えないためだ。しかし、しかし問題だ。本当に暴走したニピ族を止められるのだろうか?全くもって自信が無いが……。
「フォーリは、お前に一目置いている。おそらく、お前の言うことならば聞くだろう。だから、任せたぞ。」
タルナスはそれだけ言うと、シークの返事も待たずにさっさと行ってしまった。仕方なく黙礼して見送ったが、タルナスとポウトが角を曲がって行った途端、部屋の中から凄まじい悲鳴が響いてきた。
(つまり……。つまり、あれを止めろということだろう?)
そう、フォーリがオルに必要なことを話すまで拷問するだろうということだ。そして、下手をしたら死んでしまうから、死なせるなという、非常に難しい命令を承ってしまった。
仕方なくシークは、細く扉を開けて部屋の様子をこっそり覗った。フォーリが椅子に座らせて縛り付けているオルの前に仁王立ちになり、少し屈んで話をしている。
オルは不敵に喉を鳴らすように笑い出した。その姿は今までの善良そうな村人とは全く違っていた。セリナが混乱して「父さんが犯人のわけがない!」と叫んでいたが、そう思われて仕方ない。シークだって、大変素晴らしい豹変ぶりに驚いている。
「……く、くく。なぜ、分かった?」
オルは脂汗を流しながら、フォーリに尋ねる。フォーリの眉根が寄った。恐ろしいほどの殺気を隠しもしない。
「何をだ?」
すると、オルは脂汗を浮かべて脂ぎっている顔でニタリと笑う。
「いろいろだ。私自身、今秋まで自分自身のことを忘れていた。」
シークは純粋にその告白にびっくりした。この秋まで自分のことを忘れていた?
「お前の妻や娘の話から推測した。最初の毒味係の時は、まったく手がかりがなかった。だが、次の若様を攫って崖に置き去りにした時、あの時から手がかりを得た。実際の所、お前がニピ族かもしれないという手がかりは、若様のご指摘だ。
あの時、お前はいくつか手がかりを残した。まず、村人しか知らない道を知っていたこと。そして、村人さえも知らないような獣道を知っていたこと。つまり、普段から山林にいて仕事をしている者が犯人を手引きしたか、もしくは犯人だということになる。」
フォーリの答えを聞いて、オルは満足そうにフォーリを見上げた。
「なるほど。確かにあの時点でかなり絞られるはずだ。そんなことは私も予想していた。だが、なぜ、数人の山林に詳しい村人を全員、取り調べなかった?そうすれば、もっと早くに調べがついたかもしれないのだぞ。」
オルの指摘はもっともだったが、全く確証はなかったし、村人を尋問するのは危険があった。領主のラスーカ・ベブフフの存在だ。
オルの言葉を聞いていたフォーリの顔つきが、鬼ような形相に変貌した。怒っている。それも激しく怒っている。
「お前もそれができない理由を知っているはずだ。分かっていたから、お前は余裕で隠れることもせずに時を覗っていた。もし、村人達を取り調べれば、すぐに領主に連絡が行き、若様のお立場がいよいよ悪くなる。確証がない時点で、うかつに動けないことをお前はよく知っていたはずだ。」
フォーリの地の底から響いてくるような低い声を聞いても、オルは構わずに笑った。
「その通り。だから、私はセリナが王子と仲良くなるのを待った。案の定、セリナは王子と仲良くなり、近づくことができるようになったからな。王子は崖下に転落して死ぬはずだったが、まさか、セリナが気づいて助けるとは思わなかった。だが、それが逆にお前の信用を得ることになり、計画を立てやすくなった。お前のおかげだな。」
星河語
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