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王太子タルナス 7

 王太子タルナスは、シークがバムスが命の恩人だと言ったので、バムスは自分を見せるのがうまいのだと注意する。そして、あることについて聞いて来て……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 静かにシークの話を聞いていたタルナスは、眉間に(しわ)を寄せながら一言、言った。

「レルスリは、自分を良く見せるのが上手いのだぞ?」

「存じております。それでも、助けて頂きました。」

 さすがにシークが命の恩人だと言っている以上、タルナスはそれ以上は言ってこなかった。

「レルスリ殿だけではなく、セルゲス公殿下のために、ノンプディ殿にも助けて頂きました。」

 シェリアが何もしていないと思われたらいけないと思い、シークが言うとタルナスは言い放った。

「ノンプディは自分から、グイニスの療養場所を提供したのだ。当然のことだろう。」

「当然のことが当然のこととして全うされることは、思いのほか(むずか)しいものです。」

 シークの言葉にタルナスは一つ、(うなず)いた。

「…まあ、それもそうではあるが。」

 そして、何かを思い出したように、シークを見やった。

「……そういえば。」

 思いっきりのいいタルナスにしては珍しく、言いよどんでシークを意味ありげに見つめた。ほんの少し、彼の(ほお)や首筋が赤いような気がする。

「…ノンプディとの……(うわさ)は本当なのか?」

 シェリアとの噂、と聞いてシークはピンと……こなかった。もう、すでに遥か昔の十年くらい前の遠い昔のことのように思え、シェリアとの関係について噂されていることをすっかり忘れ去っていた。

 あまりにも忙しい上に、事件続きで忘れてしまったのだ。若様の毒味役が亡くなったことに始まり、その後の毎日の生活(これが一番大変で、釣りや狩り、水汲み、薪割り、肥え汲み……など。)や、大工仕事、また、若様のパン毒事件や襲撃(しゅうげき)事件などが起きたため、ピンと来なかったのである。

「?……噂ですか?」

 あまりにもシークがぼんやりとしているため、メイルスが咳払いしてさらに補足した。

「ノンプディ殿がお前に懸想(けそう)していている云々という噂だ。」

 それを聞いてやっとシークは思い出し、焦った。他にもシェリアとのそういう事態に至った経緯も思い出した。一気に汗が噴き出してくる。何と答えたらいいのか、咄嗟(とっさ)に答えを見いだせない。

(はい、そうでした、と答えるわけにはいかないよな…?でも、違いますと答えると嘘になってしまうし…どう答えたら、いいんだ?)

 シークが必死になって考えていると、さらにタルナスが口を開いた。

「そういえば、先日、父がノンプディにグイニスがいた時のことを、詳しく報告しに来るように通達を出したが、彼女の息子が代理できた。それで、どうして本人が来なかったのか問いただした所、ノンプディの手紙を預かってきていた。」

 なぜ、彼女の手紙が関係あるのか知らないが、手紙続きで言えば、とても嫌な予感がする。シークは知らず顔を強ばらせた。シークには婚約者がいるうえに、ボルピス王に結婚するように命じられているので、丁重にお断りしたはずだが、それに彼女もあきらめてくれたはずだが、妙に心配になった。

「その手紙にはこんなことが書かれていた。内容はある程度はぶくが、本人が来なかった理由だ。『今、恋の病で容色が衰え、とても陛下にお目にかかれるような状態ではございません。このようなお姿をお見せすることは、わたくしにとっては一大事ですので、どうかご理解下さいまし。』と書かれていた。お前との仲が噂されていたから、当然、勘ぐってしまうな。」

「………。」

 シークは何と言えばいいのか、全く分からなかった。これにきちんと答えられる話術を持ち合わせていない。機転も利かない。ただただ、冷や汗をかいているばかりだ。

「ふむ……。なるほど、分かった。」

 タルナスは、そんなシークを観察していたが、ふむと納得して頷いた。

(何が…お分かりになったのですか……!?私には何も分からないのに…!)

 シークは焦っていたが、何も言えなかった。

「お前は実直で、正直者だ。間違ったことは違うと言う。それが今、何も言わないで黙りこくっているということは、事実だったが答えてはいけないと思っている、ということだろう?もしくは、答えられないか、父上に口止めされたかいずれかだろうな。

 お前の方から、ノンプディに迫るとはとても思えないから、きっと、ノンプディの方がお前に迫ったという噂は正しいのだろうと思う。お前に会って話したから、そう思う。」

 まったくもって正しいが、それを認めちゃって良いのだろうか。王太子は父王譲りの洞察眼を持ち合わせている。

「……。」

 答えられないでいるシークを見て、タルナスはおかしそうにまた頷いた。

「やっぱりな。分かった。父上がお前を結婚させると言っていた。つまり、ノンプディはそれで失恋中ということになる。まあ、さすがは八大貴族か……。

 父上に対しても痛烈にそんなことを言って、直接会いに来ないのだから。恋煩(こいわずら)いで会いに来ないなんて、前代未聞の理由だ。」

 そりゃあ、そうでしょうとも……。シークは心の中で思った。

「……ぶっ、くくく。」

 シークが困り果てていると、タルナスがとうとう吹き出して笑い出した。本日、何回目だろうか、王太子殿下に笑われるのは……。

 だが、悟りが開けたように、もうどうでもいいや、というあきらめの境地に到達した。何か言い訳もできるわけではないし、こっちがどうにもできないことなのだから。

 恥ずかしさはあるが、開き直るしかないのだ……!

「ああ、ヴァドサ・シーク、お前は面白い男だな。良かった、グイニスの護衛がお前で。本当に良かったと私は思う。真面目で嘘もつけない。仕事は実直だ。これからも、グイニスのことをよろしく頼む。頼んだぞ。」

 最後はなぜか、上機嫌でタルナスに笑顔で言われ、シークは真面目な顔を作って承ってタルナスの部屋を出たのだった。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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