王太子タルナス 5
王太子タルナスは、感情を吐露した後は大笑いして、すっきりした様子で……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
ようやく、シークから離れてくれた王太子タルナスは、殺気立っているポウトから手巾を受け取ると、涙を拭ってにっこりした。
「……ありがとう、ヴァドサ。わざと私を怒らせたのだろう?」
「……はぁ、まあ。」
完全に同調してもいいのか迷ったため、思わずそんな間抜けな返事を返すと、タルナスは目を丸くしてから吹き出し、さっきよりも朗らかに笑い出した。
「なんだか、父上がお前と会ってきてから、妙に上機嫌だった理由が分かる気がするな。」
そうだったのか?そんなに陛下は、上機嫌だったのか!?なんだか、嫌な予感がするな、とシークは内心でおののいた。
タルナスは椅子に座りながら言った。
「父上がこんなことを言っていた。お前の恋文はきっと恋文ではないだろうから、レルスリに恋文の添削をするように言いつけてきたと。それで、どんな恋文になったのか、面白そうだからとても楽しみにしていると。」
(!?はぁぁ――!?)
心の中でシークは、思いっきり叫んだ。そう、必死になって口に出すのは堪えたのだ。なぜ、そんなことを息子に喋っているんだ、あのおじさん……もとい、陛下は!?そんなこと、どうでもいいじゃないか!!
凍り付いたシークを見て、ポウトがふとニヤリと笑って口角を上げたのを、シークは見逃さなかった。シークがタルナスにやり込められたのを見て溜飲が下がったのだろう。
(く…!あいつもやはり、フォーリと同類か!大人しそうな感じでおっとりしているが、一緒だったか…!)
そこはやはりニピ族である。主が自分以外に興味を持つのを嫌がる。
「ぶっ…!くくく………!」
すると、シークの顔を見ていたタルナスがさっきよりも勢いよく吹き出し、大きな声で笑い出した。何度か堪えようと努力したが敵わず、結局腹を抱えて笑い出す。
憤懣やるかたない気分だったシークだが、あまりにも清々しく笑われているため、辛そうな表情の少年の姿を見た後だけに、まあ、いいかと思ったのも事実だった。
そして、先ほどとは違う涙を拭いてから、ほう、とタルナスは大きく息をついた。
「すまない。お前を馬鹿にしたつもりは全くない。ただ、あまりにも父上に対して、なぜそんなことを話しているのかという、疑問と困惑がありありと表情に出ていたから、おかしさを堪えきれなかった。」
また、あはははと楽しそうに軽く笑った後、王太子殿下は、それはもう爽やかに仰った。
「ああ、すっきりした。こんなに腹を抱えて大笑いしたのは久しぶりだ。」
本当に清々しい顔をしているので、シークは良かったと思う。さっき、必死になって考えて口走った嫌味も役立ったというものだ。それが、本当に役立ったのかは定かではないが。
「あんなに感情を露わにして怒鳴ったことも、久しぶりだった。それに……。怪我はしていないか?」
タルナスは急に神妙な面持ちになってシークに問いかけた。一瞬、考えてしまったが、すぐに殴られ役になったことだと思い至る。
「怪我などしておりません。」
「…そうか?何発か、けっこう強く入ったと思ったのだが。」
なぜか、タルナスはやや残念そうにしている。少し強めに入った拳を親衛隊の隊長であるシークに、良い拳だったと褒めて貰いたい部分もあるのだと理解した。
「殿下。なかなか体術の筋がよろしいかと存じます。良い拳はいくつかありました。ですが、私は教官もしていたことがあり、あの程度で怪我をすることはありませんので、ご心配なく。」
多少のお世辞はあるが嘘ではない。タルナスはなかなか筋がいい。それに、けっこう痛い拳もあった。メイルスが複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「…それでも、お前に当たり散らしてしまった。」
「…お構いなく。大丈夫ですから。」
シークが答えると、ポウトがそっと出てきて口を挟んだ。
「今度から私に当たって下さい、殿下。私ならばいつでもおります。」
「それがよろしいでしょう。ニピ族なので、ちょっとやそっとで音を上げませんし、口も固くて信用できます。」
フォーリだけでなく、ポウトにも恨まれるのはごめんなので、シークは急いで彼の心を宥めておくようにそう進言しておいた。
「なるほど、それでポウトを宥めているのだな。ニピ族に恨まれないように。」
「……い、いいえ、そういうわけでは。」
慌てて言葉を濁す。すると、少し楽しげにシークを見やったタルナスは、一度肩をすくめると真面目な表情に戻った。
「それで、お前はグイニスには王は似合わないというのだな。優しすぎて傷つくから。」
「はい。そういうことです。ただ、殿下が決して優しくないということではありません。殿下は優しいだけではなく、同時に強さも併せ持っておられると思います。」
「…強さ?」
「はい。ご両親と反目することになっても、セルゲス公殿下をお助けになり、そして、今でも同じように手を差し伸べられていらっしゃいます。それは、なかなかできないことです。難しいことをなさっておいでです。」
星河語
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