王太子タルナス 3
シークは、王太子タルナスと話をしていた。タルナスは自分と従弟のグイニスとどちらが王位に向いているかと尋ねてきて、シークは答えたがタルナスを怒らせてしまい……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「それで……どうして、グイニスではないのか?私はあの子に、全てを返したいのに。」
タルナスはどこか少年らしさを残した表情を浮かべて、本当に分からないというように首を振った。
「殿下。私の意見を申し上げます前に、まずは殿下のお心を直にお聞き致しまして、殿下が優しいお方でいらっしゃると感じます。そして、それと同時に何事にも負けずに、信じられた道のりをまっすぐに進んでいける力をお持ちのお方なのだとも感じます。」
まずシークは、タルナスのその心がけは素晴らしいものだと伝えたかった。だが、まだ若いタルナスが果たして本当に、最後まで話を聞いてくれるかどうか。
「セルゲス公殿下は、大変優しい気性をしていらっしゃいます。」
タルナスは頷いた。
「だから、私はグイニスに返したいのだ。」
「ですから、私はセルゲス公殿下には、王位は似合わないかと存じます。」
意味が分からなかったかのように、タルナスはシークの表情を覗き込むようにして見つめてきた。
「…似合わない?」
「はい。お似合いになりません。」
「それは…なぜだ?私は逆におっとりと寛容に、それでいて威厳のある王になれると思うのだが。」
以前、若様が言っていたことを思い出した。タルナスが王というのは、にこにこ笑って家臣達にやる気を出させ、家臣達が喧嘩を始めたら仲裁して、見守っていればいいのだと、王が気鋭に満ちている必要はないと話してくれたと。
つまり、タルナスは若様がそういう王になれば良いと思っているのだ。確かにそれは、一理も二理もあるとシークは思う。ただし、王になる本人にもやる気があり、心身がそれに耐えられればの話だが。
「確かに王太子殿下の仰ることは一理あると思います。」
ならば、なぜだ、という目でタルナスはシークを見つめた。
「しかし、王太子殿下。セルゲス公殿下は、とても繊細でいらっしゃいます。そのため、なぜ、傷つくことを言われなくてはならないのか、それが理解できず、何かある度に傷つかれます。」
シークが話しているうちにタルナスは『ああ、そういえばそうだ。』という目つきになった。
「そして、どんなに傷ついても、かつて味方だと思っていた人には、ずっと期待して、きっとまた以前のように優しくなってくれるはずだと、信じていらっしゃいます。」
タルナスがはっとした。そして、次の瞬間には落ち込んだように暗い表情を浮かべた。母のことで苦しんでいるのだろう。そう思えば、気の毒になった。シーク自身が叔母との関係に悩んでいるように、彼は母との関係に悩んでいるのだ。
「また、ご自分に向けられる悪意にも敏感です。そして、それに傷つかれます。ずっと、ご自分は弱いと思われており、自信を持つことがおできになりません。
逆に言えば、それらは人の心の機微に聡く、人の弱さを知っている謙遜な方でもあるということです。しかし、そうであるからこそ、セルゲス公殿下に王位は似合わないと思うのです。」
タルナスの顔が、シークが話している内に険しくなっていた。
「……つまり、お前は私が傲岸不遜な人間だと言いたいのか?傍若無人な性格をしているから、私には王が務まるとでも言いたいのか?私は鈍いから、王になれると言うのか?父のように、血も涙もない判断ができるから、王になれるとでも言うのか!冷酷な人間だから、王になれると言うのか!」
タルナスは悲鳴を上げるように、叫んだ。思ってもみない捉え方だったが、なるほど、確かにそう言われたら、そのように受け取れなくもない。
シークは慌てて弁明しようとしたが、その時、タルナスが泣いているような気がした。今の言葉からして、血も涙もない冷血漢だと言われてきたのだろう。まだ、十二歳の頃からずっと。そう思えば、将来、国を担うべく重責を背負っていくことを宿命づけられている少年が、とても不憫に思えた。
「そうではありません、王太子殿下。私は殿下が血も涙もないとは思いませんし、冷酷な人間だとも思いません。」
すると、タルナスは立ち上がり、シークを睨み据えて怒鳴った。
「お前に…!お前に何が分かる!さも知った風な口を利くな!私のことなど、何一つ知らないくせに!」
シークはタルナスの護衛をしている、親衛隊長のメイルスが何か言って、伸ばしてきた手を振り払った。
今、ここでこのタルナスという少年と、きっちり向き合って話をしなくてはならない。そうしないといけない気がした。というか、それはシークに与えられた使命のような気がした。時々、若様の時もそうだが、今、ここできっちり向き合わないといけないと思う瞬間がある。
今もそうだった。王ともそうだったが、この少年なら腹を割って話しても、大丈夫だという妙な確信があった。
普通の神経なら、ここでひたすら謝罪をして部屋を出るのだろう。でも、シークはそれをしなかった。むしろ、さらに激昂するかもしれないことを口にした。
「私が殿下のことを知らないのは当たり前です。」
シークが言った途端、タルナスの形相がさらに激しく変わった。
「なんだと!?」
「殿下がご自分で何をお考えなのか、口に出して説明して頂かない限り、知りようがありません。説明しなければ、口に出して伝えなければ伝わらないのです。」
淡々と告げると、タルナスがはっとして目を丸くした。それと同時にメイルスがシークの肩に手をかける。
「ヴァドサ、不敬だぞ!」
分かっている。だが、最初にそういうことで話をしたはずだ。
「早く非礼を詫びて出て行け。」
メイルスが促したが、シークは動かなかった。
星河語
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