王太子タルナス 2
王太子タルナスがシークを読んだ理由。それは、シークの人柄を見極めようという意図があった。そして、タルナスはシークにある質問をする。それは……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
「それでは、申し上げてもよろしいでしょうか?」
シークの催促にびっくりしているタルナスは、目をしばたたかせた。
「……なぜ、怖れないのだ?」
父のボルピスより、可愛いものだ。やはり、そこは生きてきた年数の違いだろう。長年、宰相と王という権力の座に座ってきた彼の父と比べるのは可哀想だが。
「恐れながら、王太子殿下の父君であらせられる陛下ともお話申し上げております。ですから、陛下に申し上げ、さらに陛下より許可を頂いておりますことは、殿下にも申し上げます。」
びっくりして目を丸くしたまま、シークの言葉を聞いていたタルナスだったが、自分がまだ質問の内容を話していないことに気がついた様子で、急いで口を開いた。
「……お前、私はまだ何も聞いていないのに、何を答えようとしていたのだ?」
「王太子殿下とセルゲス公殿下のお二人の内、どちらのお方の方が、王位にふさわしいかというお尋ねではないのでしょうか?」
タルナス付きの親衛隊長のメイルスがぎょっとした顔をした。滅多に表情を変えないポウトも目を瞠っている。そして、淡々と答えたシークにタルナスもぎょっとしている。
「……お前、その質問を父上にもされたのか?」
「はい。」
「……それで、それについて答えたのか?」
「はい。」
「では、私にも答えてくれ。お前はどう思う?私とグイニス、どちらが王位にふさわしいと思う?」
「申し上げる前に、確認をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
シークは、このまっすぐな正義感を持った少年に答える前に、心構えが必要だったことを思い出した。このタルナスという少年に心構えが必要だ。自分の気持ち、考えと反対のことを伝えるのだから。
「なんだ?」
「もし、仮に私の申し上げますことが、殿下のお考えとは違っておりましても、最後まで聞いて頂けますか?」
タルナスにはそれで、今からタルナスの考えと違うことを話すと分かっただろう。ややあってから、タルナスは頷いた。
「分かった。聞こう。意見の違う者を排除していては、私の周りには奸臣しかいなくなる。」
さすが、よく分かっている賢い王太子だ。
「それでは申し上げます。王位にふさわしいお方は、王太子殿下だと思います。」
タルナスの眉間に皺が寄る。すると、父のボルピス王とそっくりになり、見る者に親子だと感じさせる。
「……私に媚びを売っているのか?」
「いいえ。さようなことは、セルゲス公殿下の護衛隊長を仰せつかっている私が、してはならぬことでございます。」
シークの答えに眉間の皺の深さが和らいだ。
「それでは、なぜ、私の方が向いていると言えるのだ?」
「それは、フォーリが一目置いているからです。」
もし、フォーリがその場にいたら、殴られていたかもしれない。案の定、シーク以外の三人の目が点になった。
「……フォーリが一目置いているからだと?」
タルナスの声がひっくり返りそうになっている。
「王太子殿下。私は今までにフォーリほど頭の切れる男に出会ったことがありません。ベリー先生も優秀な方ですが、殿下と直接の接触はなかったように感じられました。それに比べて、フォーリは殿下と接触があったように思われました。私は王太子殿下が、セルゲス公殿下をお助けになったと伺っております。
それで、フォーリが優秀な方だと一目置いています。ニピ族とは、フォーリやレルスリ殿の護衛の方々と任務で会い、それが初めてのことでありましたが、彼らはよく人を見ております。そのニピ族が優秀な方だと判断致しております。
私は王太子殿下とほとんどお話申し上げたことがなく、どのようなお人柄か判断することができません。しかし、こうしてお話申し上げている間に、王太子殿下が大層、優秀なお方だということは確信致しました。」
すると、タルナスが訝しげにシークを見てきた。
「確信しただと?ずいぶん、総計な判断ではないのか?私が尊大で傲慢な人間で、王太子にふさわしくないかもしれないとは、どうして思わないのか?気分次第で、お前を罰するかもしれないのに。」
思わずシークは吹き出しそうになるのを、必死で、それはもう根性で堪えた。なぜ、親子で同じことを言ってくるのか。本当にそっくりで、おかしさがこみあげてきてしまった。だが、タルナスは見逃さなかった。
「お前、なぜ今、笑ったのだ?明らかに笑ったぞ。」
「申し訳ございません。お父君でいらっしゃる、陛下と同じことを仰いましたので、思わず笑いそうになってしまいました。」
タルナスの目が点になった。よほど驚いたらしい。その間に、ボルピスに答えたのと同じように答える。
「もし、殿下が尊大で傲慢なお方でしたら、そのようなこと事態を仰ることがありません。それに先ほど、殿下は仰いました。『自分と意見の違う者を排除していたら、周りに奸臣しかいなくなる。』と。このお言葉自体が、殿下が将来、王位にふさわしいお方であると証明していると私は感じております。」
タルナスは思わないことを言われたかのように、呆気にとられたような顔をしている。そして、ふと力が抜け、泣きそうな表情を浮かべた。
「……そうか。…お前が二人目……いや、三人目だ。」
シークは黙ってタルナスの言葉を待った。
「私の肩書きではなく、私自身を見ようとしてくれた人は。」
そして、タルナスは初めてシークに対して、自然な表情を向けた。今までずっと、シークを見定めてやろうという意図を感じていたから、シークはタルナスが自分を認めてくれたことを感じて嬉しくなった。
星河語
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