王太子の来村 8
仕事で出かけているため、遅くなりました。
フォーリの視点でちょろっと。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
ニピ族は二人の主人を持つことを固く禁じている。それは、二人の主人がいれば、どちらを守るべきか分からなくなるからだ。一人目が駄目だったから、次の主人に仕えようということは決してない、ということだ。
つまり、自分で主を決めるが、一生涯使えてもいい人を捜して決める。フォーリは舞の才能を期待されて、十七歳の時から主人に仕えることができたが、フォーリ自身が仕えたい主に巡り会わなかったので、二十歳を過ぎてもまだ、誰にも仕えていなかった。
だから、主に仕えている舞の継承者を裏から手伝う生活をしていた。彼らの代わりに情報を調べたり、貴族の屋敷に潜入したり、やることは目白押しだ。
そんな生活を続けていたが、ある日、主選びの面談を受けることになった。
相手はボルピス王の息子、タルナスだ。彼は王太子であったが、父の行動を不満に思っており、反発しているようだった。多くの者達は本当にグイニス王子のことを思っているなら、立太子を受けるべきではなかった、受けた以上、やはり両親と同じ穴の狢、信用するに値しない王子だと噂していた。
だが、面談を受ける前にフォーリは相手のことを調べた。ニピ族は面談を受ける前に必ず、自分の手で相手がどういう人物か調べる。その上で、面談を受けるかどうかを判断し、よい人物だと思ったら主人と認めて仕える決心をする。そういう流れだ。
面談を受けて、すぐに決めなくてもいい。二、三日は考えることの方が普通だが、大抵は十日以内に返答をする。
こうして、フォーリはタルナスと面談した。タルナスはとても緊張していた。だが、従弟を何が何でも助けるのだという強い決意を持っていた。
必要だから、王太子になったのだとも分かった。王太子でないと閲覧を許されていない資料室から、王宮の見取り図を書き写し、従弟が幽閉されている場所の見当をつけていたのだ。
彼の計画は十三歳になったばかりの少年とは思えないほど、綿密だった。フォーリは思わず感心してしまった。
人は見かけによらない。そして、噂だけで真偽の判断を下すのがいかに危険か、フォーリは身をもって知った気分だった。
もし、きちんと調べるくせがついていなければ、周りの噂に流されてしまい、タルナスの本質を見逃してしまっただろう。そして、本当はいい子なのに誰にも護衛されず、そして、誰にも理解されず、いい素質が潰されてしまっただろう。
子供の才能を潰すのは、いつだって周りの大人達なのだから。
だから、フォーリはタルナスを守りたいと思ったし、こんな主ならば共に歩いてもいいと思った。
フォーリが選んだ主は、グイニスではなかった。
フォーリが最初に選んだのは、タルナスだった。
タルナスの護衛について、一ヶ月ほどでグイニスを助けることができた。タルナスの望みだったから。
そして、助け出したその日、すぐにタルナスは言ったのだ。グイニスを護衛して欲しいと。最初は繋ぎの予定だった。そう、あくまでもフォーリはタルナスの護衛を続けるつもりだった。次の護衛が来るまで、その間だけグイニスを護衛して欲しいと必死に頼まれた。
だから、そうした。
従弟の護衛になる人だから、自分の目でどんな人か確かめたいと言ったから、最初はタルナスの側に行くようにして、その後、カートン家で合流することにしていた。
次の護衛が来るまで、瞬く間に月日は流れた。半年はかかってしまったのだ。
そして、フォーリもタルナスも、同じ決断をした。
傷ついて弱っていて、警戒心丸出しのグイニスを少しの間でも護衛するには、彼の信頼をどうしても得なければならなかった。だから、タルナスに頼まれた通り、フォーリはグイニスに若様と言った。
傷ついた幼い少年は、実年齢よりもっと幼かった。六、七歳のような言動を取っていた。
だから、心から接する必要があった。
こうした時に、フォーリは決心した。腹を決めざるを得なかった。
護衛を交代するしかないと。
本当なら、ニピ族の掟に反する。でも、グイニスには必要だった。大人のした仕打ちに酷く傷ついている少年を助けるには、後から来た者では到底任務を全うできない。彼の様子から、それが分かったから、そうするしかなかった。
後で、グイニス本人に知られてはならない事実だ。きっと、フォーリが最初に選んだ主がタルナスだと知ったら、グイニスはどれだけ落ち込むだろうか。どれほど傷つくだろうか。自分を選んでくれなかったと、頭では分かっていても、深く傷つくに決まっている。
そして、タルナスも同じことを考えたのだ。タルナスが連れてきた、新しいグイニスの護衛はポウトだった。フォーリと同郷で、幼い頃から共に舞の修練をした仲だ。
そのポウトも決して、舞の腕が悪いとは思わないが、しかし、フォーリはグイニスの護衛は、ポウトでは無理だと思っていた。ポウトもおそらく、グイニスの信頼を得ることはできるだろう。でも、その後のことを考えると、並大抵ではない苦難を乗り越えなくてはならない。
その苦労をポウトにさせるのか、というのもあったし、何よりもフォーリがせっかくグイニスが心を開いてくれたのに、その信頼を裏切ることはできないと感じていた。
タルナスは泣きながら、グイニスの護衛はフォーリだと従弟に伝えた。タルナスは物陰からグイニスの様子を見た。フォーリとの関係を見て、もう、護衛を代えるのは無理だと判断したのだ。
まだ、十三歳なのに、なんとも大人だった。従弟のために自分の心を滅して、従弟のために何が最優先かを考え、それを実行できる。
タルナスは、嫌々ながら王太子になっているが、フォーリはタルナスが王太子がいいと思っている。父王はタルナスの才を考えて、王太子に据えたのだろう。
そして、ポウトはタルナスの側にいるのがいいだろう。ポウトはどこかおっとりした所があり、宮廷にふさわしい上品さがある。
それに比べたら、フォーリは不敵な印象を与えてしまうだろう。多くの人間に警戒される可能性があることは、十分に理解していた。
そして、フォーリは自分より年下の王太子を尊敬して一目を置いていた。
そのタルナスと、しばらくぶりに会う。フォーリといえども、多少は緊張をしていた。
星河語
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