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王太子の来村 7

 王太子タルナスは、従弟のグイニスが親衛隊員達と鬼ごっこをした話を聞いて訝しむ。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 タルナスは黙って入り口前に立っている、ヴァドサ・シークの方を向きながら、はっきりとグイニスに尋ねた。

「見知った人というのは、フォーリとベリー医師の他は誰のことだ?」

 すると、グイニスは不思議そうな表情を浮かべた後、くすくすと楽しそうに笑う。どうやら、タルナスが側に居るというだけで、嬉しいらしい。そんなに喜んで(もら)えると、こっちも嬉しくなる。

「……従兄上も分かっているくせに。親衛隊のみんなだよ。」

 グイニスは、本当に少ない身の回りの人員しかいないため、安心して口を開く。

「親衛隊?お前と仲良くしているのか?」

 できるだけ、(とが)めているという調子ではなく、穏やかに尋ねる。

「うん。みんな、私に親切にしてくれるんだよ。鬼ごっこも一緒にした。」

 タルナスは、思わずグイニスの顔を見つめた後、顔色一つ変えずに立っているヴァドサ・シークを見つめた。

「……鬼ごっこ?」

 親衛隊が鬼ごっこをするなど、聞いたことがない。王宮では絶対に、絶対に無理だ。

「本当だよ。」

 呆れているタルナスの表情が面白いのか、グイニスはきゃははと笑い声を上げた。あまりに楽しそうな声に、釣られてタルナスも頬が上がった。

「楽しいのか?それで、お前は逃げ切れたのか?親衛隊は精鋭部隊だからな、お前の足では早くに捕まってしまうのではないか?」

 グイニスの頭を優しく()でながら尋ねると、グイニスは楽しそうに鬼ごっこの説明を始めた。

「いろんな鬼ごっこがあるんだよ。それで、私が一人だけ鬼になったままってことがないように、ヴァドサ隊長がしてくれた。」

「ほう?」

「重りをつけてたんだ。」

「重り?親衛隊がつけたのか?」

「うん。砂袋をつけてたよ。土嚢(どのう)を担ぐのが最も手っ取り早い重りだからって。」

「確かに、土を袋に入れれば済むからな。」

 思わずタルナスは納得した。

「土だと湿気ていたり、葉っぱが多いと軽かったり虫が多くいたりするから、砂の方がいいんだって。ヴァドサ隊長が教えてくれたよ。」

 なるほど、鬼ごっこしながら訓練ができるな、それは。そんなことをタルナスは思い、なかなか機転が利くのだと、ヴァドサ・シークに対して思った。

「だから、私一人がいつも鬼なんてことはなかったよ。」

 グイニスは鬼ごっこの話をたくさんした。よほど楽しかったのだろう。子供らしいことをしていたのだと分かって、内心、複雑な気持ちになった。自分の知らない間に、グイニスが元気になっていた。

 そのこと事態はいいことなのに、自分が側にいられないのが歯がゆかった。弟のように可愛がってきたのに、肝心の時に側にいて守ってあげられないなんて。そして、治っている過程を見てあげられないなんて。

「……どうしたの、従兄(あに)上?」

 少し残念に思っていると、グイニスが途端に気がついて尋ねてきた。

「なんでもないよ。」

 そう言って笑うと、タルナスは食事にしようと促した。そろそろ昼食の時間だ。豪勢な食事会を催して、タルナスに恩を売っておきたかっただろうと、ラスーカの内心を想像した。

 でも、どう彼らが思おうと、タルナスはグイニスのために来たのだ。そこを譲るつもりはない。何が何でも、グイニスのために時間を使う。

 運ばれてきた料理に、二人は舌鼓を打った。グイニスには、味が薄くて普段から食べている料理や、病人食も用意させたので、それらを安心したように食べていた。食事の時はベリー医師が、タルナスに随行してきた宮廷医のランゲル・カートンと共にやってきて、側に控えていた。時々、食べていい物をフォーリに指示していた。

 そうやって、二人は楽しく食事を済ませ、お茶もゆっくり飲んだ。お腹が落ち着いた頃に、グイニスを布団に寝かせる。

「そうだ、従兄上に友達を紹介したかったなあ。」

 お腹も膨れ、緊張もほぐれたためか、グイニスはまどろみながら言った。

「友達?」

 可能性としては、働きに来ている村娘と仲良くなったのだろうか。相手は友達の意識なのか疑わしいが。タルナスの声に少しだけ険が混じっていることに気がつかず、グイニスは嬉しそうに続けた。

「ここに来て、友達ができたんだ。でも、都合がつかないから、しばらく来られないよ。会って欲しかったんだけど。」

「そう、それは残念だな。お前の友達がどんな人か会ってみたかった。」

 タルナスは笑顔を作り、優しい声音で言うと、布団の中のグイニスの手を握った。それだけでグイニスは、とても安心したように息を吸うと、自然に眠りに落ちた。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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