王太子の来村 5
タルナスはグイニスと二人で話す時間を作った。グイニスの部屋で休みながら、今までのことを聞く。すると、グイニスは……。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、また、ラブ史劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
二人で話していると、ラスーカが側にやってきた。そして、グイニスを見た後、少し驚いたように目を瞠ってから苦い表情を浮かべた。
(……ふん。先日、あんな事件を起こしたからだな。)
そう、グイニスが襲撃された事件。そして、来る直前に父から読ませて貰った親衛隊の報告書。ラスーカがグイニスの様子をみるために送った使者達が無礼を働いたので、フォーリに打ち殺されたらしい。
本来なら親衛隊の行う役目だろうが、主を侮辱されてニピ族が黙っていられるわけもない。仕方ないだろう。
タルナスは決めた通りにことを進めた。グイニスはタルナスにただ従っている。表だってはほとんど何も言わなかった。
そして、グイニスの部屋に入り、ようやく二人はほっと息をついた。タルナスは王太子なのでタルナス付きの親衛隊で固めてしまっても良かったが、グイニスが落ち着かない様子をしているので部屋の前にはヴァドサ・シークの隊にも控えて貰った。
そして、部屋の中にはシークにも控えさせる。本当に内々だけにしてグイニスが落ち着くようにした。グイニスもフォーリのほかにシークがいるためか、少し緊張が取れたようだ。慣れた人が側にいないと、恐いところもあるだろう。
いつもいる屋敷とはいえ、通常とは違うのでグイニスは緊張している様子だった。タルナスに対しても緊張している。そして、部屋に入ってからフォーリにつかまった。
「グイニス。お前はいつもこの部屋で休んでいるのか?」
タルナスは部屋を見回してから尋ねた。第一印象は『狭い』だ。これしか使わせて貰えないのだろうか。もっと、広い部屋もありそうだが。
「…はい。そうです、従兄上。」
「なんだ、その改まった言い方は。」
思わずタルナスは言った。つい、口をついて出てしまった。しまったなと思ったが言われた方のグイニスは、はっとした後、どこかほっとしたように息を吐いた。
「いいんだ。構わない。昔のように話そう。私はそうしたくて、ここに来たんだ、グイニス。」
タルナスは未だ、部屋の入り口付近に立っているグイニスに近寄り、その肩に手を置いた。
「……大きくなったな、本当に。」
しみじみと実感して、タルナスは口に出した。
「……三年前は、本当に……。」
死んでしまうかと思った、という言葉は飲み込んだ。その代わりに、今まで我慢していた涙が溢れ出てきた。
「…本当に……本当に、元気になって良かった。こうして……話せるようになるなんて、思っていなかったから……。」
タルナスにそっとポウトが手巾を差し出してくれた。それを受け取って静かに涙を拭くが、涙は留まるところを知らずに流れてしまう。本当は泣きたくなかったのに。
「……従兄上。」
グイニスは、泣いているタルナスを見つめているようだった。涙で視界が歪んでよく見えない。でも、泣きたいのを堪えたような表情を見せた後、ふいにグイニスがタルナスに抱きついてきた。
「やっぱり、従兄上だ。従兄上だけが、私のことを心配して、こうして会いに来て下さる。それができるから……。」
言いたいことは分かった。グイニスの姉のリイカは戦地にいるから来れない。会うことも出来ない。許されていない。
タルナスはそっとグイニスの頭を撫でた。背中を優しくさする。頭が前より近くなって、喉の下辺りにあった。
「……従兄上。」
二人でしばらく泣きながら抱き合っていたが、そうした後、ふいにグイニスが顔を上げた。タルナスつきの親衛隊長は部屋に入れなかった。グイニスの部屋であるからと言ってポウトだけを入れたのだ。
二人だけで話したかったからだ。誰かが居れば、決してグイニスは本心を話さない。それくらい気が回る賢い子だ。だから、グイニスはタルナスが思った通りに素直に心の内を明かした。
「従兄上、私もお会いできて嬉しいです。こうして、お会いできて話ができて、とても嬉しいです。」
タルナスは思わず破顔した。素直にキラキラした笑顔で話してくれる。彼が笑うと金色の粉か何かが、彼の周りに舞っているように輝いているように感じる。
「……実は、私は、一年前はあんまり話せなかった。だから、あの状態のままだったら、きっと、三年間お会いしていなかったから従兄上にお会いしても、きちんと話せなかったと思う。」
相づちの代わりに、タルナスはグイニスの頭を撫でた。
「…それで、フォーリはいてくれるし、ベリー先生もいるけれど、いつも自信がなくて親しい人以外の人と話すのがとても恐かった。」
優しくグイニスの頭をポンポンと撫でる。
「…だから、親衛隊の隊長が挨拶に来ると聞いて、私はとても緊張した。前の親衛隊の隊長は自信満々で私が話さなくてもどんどん進んでいって、私は、恐かった。」
タルナスはグイニスが何を言おうとしているのか、見極めようとじっとその目を見つめた。
「だってね、目で本当は早くしろ、って言ってるのが分かったの。でも、恐かったから、余計に話せなくなった。」
その時のことを思い出したのか、グイニスが不安そうな表情を浮かべた。
「だから、二番目の親衛隊が来た時、緊張した。最初の時みたいに、私が挨拶できないでいたら、さっさと挨拶して自分だけで行ってしまうのかなって。私は必要ないかもしれないって思った。」
「それで?」
グイニスがうつむいたので、タルナスは話を促した。
「そしたら、じっと私が挨拶するまで待ってくれた。本当に長い時間、待ってくれた。だから、私は何とか挨拶できた。態度で急かしてこなかったから。」
自分のことを話されているはずだが、ヴァドサ・シークの表情は淡々としていて変わらなかった。黙って護衛して、その場にいないかのように立っている。
「それで、その後、少し話して、それから、従兄上の手紙を渡してくれた。私のことをきちんと、セルゲス公として敬った態度で接してくれた。前の人は心の中で馬鹿にしていたから。でも、ヴァドサ隊長は違ったよ。従兄上の手紙を渡すのが遅れてしまったことを詫びてくれた。でも、私の挨拶が遅かったんだから仕方ないよ。」
 




