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王太子の来村 4

 王太子タルナスは、ようやく従弟のグイニスと再会を果たした。久しぶりに会って、様々な思いが彼の中に生まれる。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 タルナスは馬車から降りると、すぐにグイニスを見つけた。夕陽のような真っ赤な、透けるような赤い髪がきらきらと日光に照らされて(きら)めき、色白の肌に可愛らしい顔がちょこんと少女のように華奢(きゃしゃ)な体つきの肩の上に乗っている。

 姉だと思っているリイカにも似ているし、誰よりも絶世の美女だと(うた)われた、グイニスの生母である亡きリセーナ妃にそっくりだ。タルナスにとって伯母でもあるその人は美しい方だったが、謎めいた人でもあって、どこか近寄りがたく恐く思うこともあった。美しい伯母は二面性があったのだ。太陽のように優しい時と、氷のように冷たい時とあった。

 グイニスは優しいから、本当はとても優しい方だったのだろうと思う。そして、リイカも気が強くはあるが優しい従姉だ。だから、優しいリセーナが本来の人柄だったはずだ。

 そのリセーナに、グイニスは成長して本当にそっくりだった。リセーナが生き返った上に若返ったかのようにさえ思い、そんな風に錯覚しそうになった。

 だが、そんな(おどろ)きも一瞬だった。ずっと会えなかった従弟を一目見た瞬間、タルナスは堪えきれなくなって走り出した。

「グイニス、元気だったか。」

 グイニスに呼びかけながら走った。早くグイニスと間近で顔を合わせたかった。

 すると、タルナスが走ったので、グイニスも走り寄ってきた。タルナスが走れば、当然護衛のポウトとタルナス付きの親衛隊も走る。グイニスが走れば、当然護衛のフォーリとグイニス付きの親衛隊も走るはずだ。

 ところが、フォーリは走ってきても、グイニスの親衛隊は少し離れて見守るように寄り添っていた。タルナスの方はがっちり親衛隊が囲んでいる。しかも、タルナスは王太子でもあるので、数はグイニスの三倍だ。

 少々ムッとしはしたが、考えてみればタルナスの護衛がいるのに、自分達も一緒にその輪に加われば動きが取りづらい。それよりも、屋敷の周りなどに集中した方がいいかもしれなかった。タルナスが一緒にいれば、グイニスも必然的に一緒に護衛される。

 ちらっとグイニスの親衛隊の方を見ると、一番最初に面会した時のヴァドサ・シークの姿が見えて、部下に何か指示している様子だった。そして、タルナス付きの親衛隊の隊員に、何か言いに来ていた。

 その後、タルナス達が移動を始めた時、すぐに動きが取れたのは、その連絡があったからのようだ。どういう隊列で進むと動きが取りやすいか伝えてくれたらしい。

 一瞬のうちにそれらを確認すると、タルナスはグイニスに向き直った。

「グイニス、元気にしていたか…?」

 三年は会えなかった。どうしても声が弾むのは(かく)せない。年下の従弟を抱きしめようと腕を出したが、グイニスの様子にその腕を背中に回した。そっと背中をさする。具合が悪そうだった。肩で大きく息をしている。

「大丈夫か?」

 あまり大丈夫そうではなかったが、タルナスは尋ねた。

「大丈夫です、従兄(あに)上。」

 すると、グイニスは必死に息を整えて、額にうっすら汗を浮かべながら、慌てて答えた。

「ちっとも、大丈夫じゃなさそうだぞ。顔色が真っ青だ。本当は体調が悪くて、走ったらいけなかったんじゃないのか?向こうの方で医者が渋い顔をしている。」

 タルナスは周りを確認しつつ、言った。この言葉には、十分に自戒が含まれている。グイニスを走らせることになるのだったら、走るべきではなかったと反省した。もう少し、自分の立場を考慮するべきだった。グイニスはタルナスに対して、不敬だと言われる言動がないよう、そつがないように気をつけているのに。

「そ、そんなことありません。」

 グイニスはタルナスに心配をかけまいと嘘を答えた。だが、目が泳いで動揺している。

「嘘をつくな。」

 思わずタルナスは言った。

「目が泳いでいる。下手すぎてばればれだ。それに、たったこれだけの距離を走っただけで、汗をかいてる。早く部屋に戻ろう。仰々しい食事会なんかなしだ。」

 タルナスの提案にグイニスが慌てて口を開いた。

「ですが、従兄上、料理など用意されていますし、無駄になってしまいます。」

 グイニスの言葉は、タルナスには少し意外だった。料理が無駄になる、王宮で何不自由ない暮らしをしているタルナスには新鮮で、決して忘れてはいけないのに、うっかり忘れてしまう事実が告げられた。

「まあ、確かにそうだが。」

 考えながらタルナスは口を開いた。グイニスの信用は落としたくないし、それに、王太子としてもベブフフやトトルビに、民のことも考えていることを示さなくてはならない。食べ物を無駄にしない、その姿勢も示しておく必要がある。

「お前の体調の方が心配だ。大体、お前は療養中という事になっている。本当に療養した方が良さそうなのに、食事会をするなど馬鹿げている。」

 グイニスが心配そうにタルナスを見上げている。三年ぶりに会ったグイニスは大きくなっていた。当然だが、それが嬉しくて信じられない気持ちも混じっていた。従弟とまともに食事会の食事について、話し合っているのだ。三年前はそんなことさえ、できない状態だったというのに。

 いや、三年前どころか、今年の春頃までは普通に話せない、という報告を聞いていた。だから、それが、一年過ぎたかどうかという期間で、これほど普通に話し、成長している姿を見て感動をしていた。

「ではこうしよう。私とお前は最初に少しだけ出席し、すぐに部屋に戻ろう。お前は実際に体調が悪いのだし、私も疲れたということを理由に引き上げる。後はベブフフに任せる。勝手にやるだろうさ。」

「従兄上は食事を召し上がらないのですか?」

 グイニスが不安そうに聞き返す。

「いいや、後で部屋に運ばせる。お前やフォーリの分も一緒にだ。私の皿から取り分ければ、お前もフォーリも安全だろう。さすがに母上も私の料理に毒は盛るまい。」

 どこか不安そうな表情のまま、グイニスは頷いた。

「従兄上がいいのであれば、私は構いません。」

 グイニスは王太子の意見に自分の意見を差し挟むことはしなかった。そつが無い答え。その態度に少しタルナスは寂しさを覚えた。昔はただ素直に従兄上と呼んで、ただ嬉しそうに後をついて回っていたのに。今は、王太子とセルゲス公という位を持った王子としての立場で、接している。

(きっと緊張もしているのだろうな。)

 タルナスはそう結論づけた。そもそも母のカルーラがやたらと刺客をグイニスに送るから、警戒するに決まっている。それに、三年ぶりに会うのだから、余計に緊張しているはずだ。


 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

 ブックマークなどありがとうございます。

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