王太子の来村 1
王太子タルナスの視点から始まります。従弟のグイニスを僻地に送ったベブフフ家の当主に対して腹を立てています。その思考は過去のことにも飛んで、グイニスが幽閉された事件の時にも及びます。
ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。
意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?
転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)
タルナスは馬車に揺られながら、考えていた。ベブフフ・ラスーカになんと言うかということだ。
ヒーズに着いた時点で、ここで療養させているのかと思った。ところが、それより更に奥の村にある別荘にいるというのだ。ヒーズの街の屋敷でさえも、相当な田舎で緑に囲まれていて、落ち着いて療養できる環境が整っているのにも関わらず、さらに田舎に送ったことに怒っていた。
(やはり、そんなことだろうと思った。グイニスを王子としても認めないつもりか。どんなことを言ったところで、王子であることには変わりは無い。王子でないのならば、母上が刺客を送る理由が消えるのだしな。)
タルナスは考えながら、腹の底から冷たい気持ちになるのが分かった。母のカルーラや父ボルピスのことを考えると自然に心の中が冷たくなる。父は確かに王としては有能だ。そこは認める。王としての父しか認めたくないが、王としても認めるのも嫌な部分がある。
父がグイニスから王位を奪ったその日、これがグイニスのためだ、などと言っていた。
さらに、それに反対して抗議してきた父の弟や従兄弟達の合わせて四人を殺してしまったのだ。謀反の準備を整えており、すぐに行動できるようにしてあった、というのがその理由だった。タルナスにとっても叔父に当たる人や近しい親族だった。ボルピスと直接面会していた親族の二人は、その場でバムス・レルスリが斬り殺してしまった。
普段、大人しそうな顔をしているのに、突然の行動でさすがに父のボルピスでさえも驚愕した。四人がボルピス、カルーラ及び、息子であるタルナスを殺害するための準備を整えているからだと答えた。
タルナスは嘘だと思いたかった。グイニスの誕生日を迎えるその日の前日まで、叔父達はタルナスにも優しかった。王宮が大騒ぎになっている中、はぐれてしまったタルナスに叔父が声をかけてきて、一緒に逃げようと言って手を握ってくれた。途中までは一緒に行った。
すると、突然、バムスのニピ族がやってきて、進路を塞いだ。その上、叔父にタルナスの手を放すように伝えた。バムスも後からやってきて、ボルピスが呼んでいる旨を伝え、タルナスを叔父から引き離した。
その時は叔父が自分まで殺そうとしているとは思っていなかった。叔父と離ればなれになるのが不安だった。だが、それ以上にグイニスとリイカのことが心配でならなかった。叔父はグイニスとリイカの所に連れて行ってくれると言っていたのだから。
だが、実際に叔父達が謀反の準備をしていたのは事実だった。その上、生き残っていた叔父は問い詰められて、タルナスを連れていって人質にする作戦だったと答えた。
そして、タルナスとグイニス、リイカを交換する予定だったと。交換後はボルピス、カルーラ、タルナスをまとめて三人、謀反を起こした犯人として処刑するつもりだったと言った。優しかった叔父が、自分まで本当に殺すつもりだったと知って、衝撃を受けた。
叔父達にしてみれば、正当に王位に就いていないボルピスは王ではない、という理屈だった。さらに、今日のためにタルナスにボルピスが命じて、グイニスと仲良くなるように仕向けていたのだろうとさえ言った。
思わずタルナスは『違う!』と叫んだ。『そんなことしていない…!私は本当にグイニスを弟のように思っているのに、そのために仲良くなんてしていない!』
でも、叔父達は冷たい目で嘘を言うなと叫んだ。
『お前は賢い子だ。いや、悪賢い子だ!ボルピスとカルーラの子なのだ、腹黒いに決まっている!将来は必ずグイニスを疎ましく思い、殺すに決まっている。だから……。』
一人の叔父がまだ何か言っているうちに、叔父は前のめりになって倒れた。バムスのニピ族が気絶させたのだ。
そして、バムスはもう一人のニピ族に命じて、タルナスをその場から退室させ、自室で休ませた。休ませたという言葉の聞こえはいいが、監禁されたという方が正しいか。バムスのニピ族は護衛してくれたが、見張られていたという方が正しいか。それでも、あの場にあれ以上いれば、タルナスの心はもっと傷ついて、荒れていただろうことは想像に難くない。寝台の上に膝を抱えて座り、全身を震わせながら泣いていた。
タルナスが自室にいる間に、バムスが残りの二人の叔父を斬り殺した。そして、残りの謀反軍をあっという間に取り囲んで押さえ、始まる前に決着をつけた。死んだのは四人の王族だけだった。
十歳になったグイニスを祭り上げて、ウムグ王に仕えていた者達が、後見人で摂政をしていたボルピスを殺そうとしたという謀反、ということで世間には発表された。それには四人の王族も絡んでいたということになった。
そして、このまま王位が空席だと今後もこのようなことが続くだろう、ということでグイニスではなくボルピスが王位についた。
タルナスにはどう見ても、父のボルピスが玉座のために甥のグイニスを追い落としたようにしか見えなかった。
確かに父は、何か悩んでいる様に見えた。それは、ある日、グイニスの母である伯母のリセーナと何か口論しているのを、偶然見てしまった時から、ボルピスが悩んでいるということは分かっていた。
父は兄のウムグが亡くなってから、難しい顔で眉間に皺を寄せ、黙り込んで何か考え込むことが増えるようになった。頭痛がすると言い、さらになぜか多くの女性と床を共にするようになった。幼いタルナスでも、それで頭痛が消えるわけがないことくらい、分かっていた。
父の行動には不明なことも多い。だから、それで余計に腹が立った。
そして、母のカルーラは論外だ。なんであんな女性が母親なのだろう。父も政略結婚であるとはいえ、もっとましな女性を娶ることができたはずだ。最初の予定通りカルーラの姉である、つまり、タルナスの伯母であるリヨーラとなぜ結婚できなかったのだろうかと考えることはよくあった。
伯母のリヨーラは穏やかな女性だ。妹と正反対の性格をしている。リヨーラと婚約していたのに、それが破棄されて妹のカルーラと婚約が成立した。そして、今に至る。リヨーラは別の男性と結婚した。
幼い頃、伯母のリヨーラになんで父と結婚しなかったのか、聞いて困らせたことがある。なぜ知っているのかと問われ、宮廷で侍女達が話していることを告げると、暗い顔でため息をついた。それで、こういう事は直接聞いてはいけない話なのだと幼心に悟り、それ以来、そういう話を直接本人に尋ねないように気をつけている。
今ではどういうことだったかは、想像がついているつもりだ。リヨーラは今の夫に力尽くで言い寄られ、可能性として子供まで身ごもってしまったのではないのかと。だから、今もどこかその笑顔が悲しそうで、目が影を伴っているのではないのかと。婚約を破棄して、その年の内にリヨーラは結婚した。
サリカタ王国では婚約後、身ごもってから結婚式を挙げる。つまり、そういうことである。
父のボルピスと伯母のリヨーラは、お互いに思い合っていたことくらい、二人の様子からして分かっていた。
もし、二人が結ばれていたら、こうはならなかった。それくらい、タルナスにも分かっていた。いや、実際には違う。願望だ。それこそ、それくらいタルナスには分かっている。
星河語
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