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嵐の前の騒動 8

 シークはフォーリの代わりに料理をしていたが、ジリナはそれを見て急いで村娘達を読んで見学させた。なぜなら……。


 ファンタジー時代劇です。一般的な転生物語ではありません。洋の東西を問わず、時代劇や活劇がお好きな方、どうぞお越しください。

 意外に頭脳戦もありますかな……。そこまで難しくないので、お気軽にお読み下さい。意外にコメディーかも……?


 転生はしませんが、タイムスリップや次元の移動はあります。(ほぼ出てこないので、忘れて読んで頂いてけっこうです。)

 そういうことで、若様の夕飯をシークが作ることになった。

 その調理の時間、ジリナは途中で様子を見に行った。早めに終わる前にどんなものか確認しようと思ったのだ、シークの料理の腕前を。

 すると、(おどろ)きの光景が広がっていた。何人かの部下達が手伝いをさせられていた。フォーリも当然手伝っている。

 野菜を洗う係、水切りして皮を()き、刻む係がせっせと下準備で切っている所だった。みんなマントを脱ぎ、前掛けをして頭に三角巾をしている。

「おい、遅いぞ、さっさとしろ。いつまでも野菜洗いばかりしていたら、体が冷え切るぞ。」

 シークは野菜を切りながら、野菜荒いの係に(げき)を飛ばす。

「こら、なんだ、この切り方は?厚さが均一でないと火の通りが変わる。できるだけ、厚さを均等にして切れ。」

 いちょう切りされた人参を見て、シークが野菜切り係に注意した。あまりに統制された動きに、ジリナは急いで村娘達を呼ぶと順番に入り口に立たせて、その様子を見学させた。

 やがて、調理に突入した。実はセリナはフォーリに手伝い係に任命されているため、一緒に手伝わされていた。今は野菜を()でていたが、注意を受けていた。

「葉物野菜でも茹でる時は、根元に切り込みを入れていないと茹でるのに時間がかかるぞ。」

「……はい。すみません。」

「次から気をつければいい話だ。その方が効率がいいということだから、そんなに気にしないでいい。」

 だから、日頃からあれだけ言っているのに、最近はジリナの目が離れることが多いので、いい加減にする所があったのだろう。

「…はい。」

 セリナはほっとしていたが、さっそく皿洗いに降格させられた。今は使ったざるなんかを洗う。

「根菜から入れる。」

 野菜と燻製(くんせい)肉の煮物を作るようだ。確かにお鍋をかき混ぜる料理だ。べつの(かまど)ではお(かゆ)を作っているらしく、ずっと誰かがかき混ぜている。そして、火が強くなりすぎないよう、もう一人が竈にくべる薪の調整をしていた。

 どんどん料理ができていくが、シークが呼びに行く前に若様とベリー医師はやってきた。

「ほら、止まるな。焦げ付く。最後に召し上がられる甘味だ。最後の味が焦げ味にならないようにしろ。」

 若様達はきちんと背筋を伸ばして入り口に立っている村娘達を不思議そうに眺めた。いや、自然とそうなるのだ。無駄口を叩く雰囲気じゃない。

 若様は自分達のために開けられた所を通って、おずおずと厨房の中に入る。

「野菜屑が落ちている。きちんと拾え。布巾がびしょびしょだ。取り替えろ。それから、この食器、きちんと拭けてない。」

 若様は目を丸くしてその情景を眺めた。若様はきっと、いつもどれだけ楽しく料理しているかが分かったはずだ。

「こら、ウィット、テーブルの拭き直し!汚れが残ってる。」

 名指しで注意されたウィットは、慌てて拭き直しに入る。

 もうそこには、軍事訓練のように(きび)しい世界が広がっていた。そして、シークは指揮を執っていた。自分も色々としているのだが、指揮が的確だ。

 若様はその雰囲気に、厨房の端っこの方に立った。お鍋をかき混ぜたいという希望があったが、それはしなくていいようだ。だって、必死になって鍋をかき混ぜている様子を見て、心配そうにベリー医師を見上げた。ベリー医師も苦笑する。

 すると、シークが気がついて振り返った。

「若様。来られましたか。鍋を混ぜますか?」

「……。ううん。」

 若様は小さく首を振った。

「場所を空けましょうか?」

 シークは若様に部下達に言うようには厳しく言わず、優しく声をかけているが、厳しい様子を見ているので若様は首を振った。

「ううん。ここで見てるよ。」

 そう言って、ベリー医師にしがみついた。その様子を見たシークは「分かりました。」と頷いて、それ以上は追求せずに仕事に戻った。そして、鍋をかき混ぜている部下に確認する。

「完成したか?」

「はい、できました。」

「竈の火を弱くしろ。」

 こうして、厳しい統率の元、若様の夕食ができあがった。料理ができあがって配膳された時には、洗い場も調理台も綺麗に片付いた状態だ。

 ジリナも村娘達の見学を解散した。いや、実に見事な采配だった。親衛隊員達は俺達が作ってない?というような雰囲気だ。

「……いただきます。」

 まずは毒味係のラオとテルクが食事をする。

「……。」

「……。」

 沈黙の食事の様子に、シークは苦笑して事務仕事に行く、と言って厨房を後にした。自分がいたら素直に感想を述べることすらできないからだ。

 シークが去ってから、若様が二人に尋ねる。

「…ねえ、おいしい?」

 すると、二人は大きく脱力して息を吐いた。

「はぁぁ。隊長の前で感想なんて言えないですから。」

「じゃあ、おいしくないの?」 

 若様は不安そうにしている。

「いいえ。旨いですよ。必死こいて鍋をかき混ぜたから余計です。」

「明日、腕が筋肉痛だな。」

「そうだな。」

 ラオとテルクは二人で苦笑する。毒味係の二人も手伝いに入っていたのだ。

「若様、しなくて正解ですよ。きつくて大変ですから。」

「隊長がやるとなんでも、訓練になっちゃうんですよ。」

 なんとなく残念そうな、それでいて微妙な表情を浮かべている若様に、二人は冗談めかして言った。

「絶対、きつくて大変でしたから。」

 ラオが言ってテルクがうんうん、と(うなず)いてみせる。すると、ようやく若様の顔に少し笑顔が浮かんだ。

「…ほんと?」

「ほんとですよー。いつも訓練している私達だって、これほどきついんですから。」

「…そっか。少しだけ残念だったけど、それならいいか。きっと、途中できついって言ったと思うもん。」

 若様はようやくいつもの調子に戻って、へへ、と笑う。

「ところで、フォーリ、また料理できなくなったら、隊長に頼むのか?」

 ラオが興味半分でフォーリに尋ねると、彼は少しだけ考える表情になった。

「どうしても、という時は仕方ないな。規律だっているから手早く終わるし、何より、若様のお食事が安全に作られるのが一番いい。今日だって仕方ないから、作って貰った。」

 さすが、ニピ族は主第一主義だ。自分が大変かどうかより、主の安全性が確保されるかどうかが判断材料だ。だから、若様の食事の安全性が保たれているならいいらしい。

「なるほど。さすが、ニピ族なんだな。隊長の指導でもきつくないのは。」

「別にきつくないとは言ってない。」

 フォーリの発言に思わず、そこにいた一同がフォーリを見つめた。つまり、さすがのフォーリでもきつかったってこと?

「…そんなことより、さっさと食え。若様のお食事が遅くなる。」

 フォーリは少し決まり悪そうにラオとテルクを急かした。

 思わずジリナは吹き出しそうになり、ようやくその場を後にしたのだった。

 星河語ほしかわ かたり

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

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