水森明花と各ルートⅣ(鷹藤晃ルートⅡ・告白(後編))
「お前や御子柴は――いや、『御子柴雪冬』という人を、知ってるか?」
………。
「……」
「……」
「……」
「……」
……え、今。
「……え、っと……」
「もう一度、言った方がいいのなら、言うが」
「……いや、いい。大丈夫……」
まさかの名前が飛び出たことに、少しパニックになったんだけど。
「……その名前を出してきたってことは、君は……」
「水森?」
珍しく、鷹藤君が慌てた様子で、立ち上がろうとしている。
「君は、あの人のことを知ってるの……?」
「いや、知っ――」
「それとも……覚えているの?」
その問いに、鷹藤君の動きが止まる。
それだけで――それだけで、答えを察するには十分だった。
「そっか……そっかぁ……」
あー、もう……何でなんだろう。
何で、覚えておいてほしい奴は覚えておかないで、それ以外が覚えてるんだよ。
「……大丈夫か?」
「大丈夫……」
恐る恐る聞いてくる彼に、そう返しつつ。
「……御子柴は、雪冬先輩の身内、なんだな」
彼の問いに、顔を伏せたまま頷く。
「夏樹は、雪冬さんの弟だよ。実弟」
「……そうか」
「それなのにさぁ、覚えてなかった」
「……」
「間を開けて、二回も聞いたのに……」
覚えてなかった。
「クリスマスにさぁ……会わせようと思ってたのにさぁ」
「……」
「知らない、覚えてないって……何でだろうねぇ。私たちは覚えてるのに」
「……水森」
気遣うような声だけど、鷹藤君がどんな表情をしているのかは分からない。
けれど、それなりに落ち着いてきたから、軽く目を擦って、顔を上げる。
「あまり擦ると赤くなるぞ」
「思いっきり泣いたわけじゃないので、大丈夫です」
多分とっさに出た涙は、飛鳥に因るものの方が大きい気がする……うん。
「それで。雪冬さんのことを聞いてきたってことは、あの人に関わることなんだね」
「ああ」
あっさり肯定された。
「そっか」
そうは返してみたものの、今日話すべきか悩ましそうな目を向けられる。
「さっきも言ったけど、大丈夫だから」
だから話せと視線で促せば、鷹藤君が口を開く。
「じゃあ、お前が大丈夫だと信じて聞くし、話す」
「うん」
最終確認みたいなことをしてきたのは、私がどれだけ大丈夫と口にしたところで、やっぱり心配で不安だからなのだろう。
「俺は、雪冬先輩の後輩だ」
「うん」
そりゃそうだろう。私(たち)だって、夏樹の幼馴染であることを抜きにしたり、何も知らない人から見たら、後輩になるわけだし。
「だから、御子柴が来たとき、何らかの血縁者なんだろうし、その御子柴の幼馴染である水森とも知り合いだろうと考えた」
「そして今、確認してみて、それが当たってた?」
「ああ」
鷹藤君が頷く。
「それに、雪冬先輩から二人についての話は聞いていたから、いつか会えたら会ってみるのも良いのかもしれないって話していたこともある」
「でも、その様子じゃ、明花のことは話していなかったみたいだね」
「少なくとも、俺は知らなかったからな。先輩が意図的に隠してた可能性もあるし」
確かに、その可能性も無くはない……か。
「私も飛鳥も、あの人のことに関しては分からない部分はたくさんあるし、それこそ夏樹でさえ知らないことがあるかもしれない」
それこそ、あの空間のように。
「家族でさえ知らないのであれば、本人が話さない限り、俺たちは知ることすら出来ないがな」
「まあ、そうだね」
それにしても、鷹藤君が話したかったのは、この事だろうか?
――いや、多分これも前置きだ。
「それで、何が言いたいのかな。急かす形になるのは申し訳ないけど、ゆっくり話してる時間が無いから、なるべく分かりやすく話してもらえるかな?」
ここまでのやり取りで、鷹藤君が雪冬さんの後輩であることは分かった。
けれど、彼が本当に何を言おうとしているのか、まだ分からない。推測しようにも、材料が少ない。
私の言葉を聞いてか、鷹藤君が時間を確認する。
「悪い、なるべく順番通りの方がいいと思ってな。――で、続きだが」
「うん」
そして、鷹藤君は、告げる。
「先に居たのは、雪冬先輩だった。『だった』という言い方もどうかと思うか、今は言い方なんてどうでもいい。俺は、雪冬先輩に会った。今の――水森にとっての、御子柴のような存在として」
そこから彼から聞かされたのは、それがまるで数分間の出来事だと思えない内容で。
その『情報』は、引きこもってる飛鳥にも聞かせたいと思えるもので。
何より――……
それは、私たちにとって、世界攻略のための、『光』となるのだった。




