鷹藤晃と告げるべきことⅠ(彼から見た出会いと、別れまでⅠ)
「君が、鷹藤晃君?」
誰もいない放課後の廊下で、『その人』は話し掛けてきた。
「……そうですが」
自分の名前を知っている人間は、現状では同学年か同級生ぐらいかと思っていたんだが、その人は自分よりも上級生に見えて。
「初めまして。御子柴雪冬と言います。君と同様に、神崎君――いや、神様の方が分かりやすいか。まあ、どちらにしろ、彼らによって送られてきた君の同類だよ。あ、三年ね」
そう、上級生――御子柴雪冬と名乗る先輩と、知り合ったのである。
そして、何故こちらのことを知っていたのかを尋ねれば、神崎さんから連絡を受けたとのこと。
勝手に情報を流したことについては怒らないわけではないが、何より彼女が経験し、得てきた『情報』は無駄とは言えなかった。
神崎さんの情報にもある、標的となる女子の名前は、『桜峰咲希』といい、まるでこの世界が乙女ゲームでもあるかのように、対象となる男子たちと、相手を代えては恋愛を繰り広げているらしい。
「で、問題は、『逆ハーレムルート』ね。対象が一人であれば楽なんだけど、対象全員ってなると、これがまた厄介」
先輩曰く、逆ハーレムルートが確定してしまうと、どんな言動をしても効果が無くなるらしい。
だから、そうなる前に、先輩は孤軍奮闘していたらしいのだが――
「そこで俺が来るいう情報を聞いたから、こうして声を掛けてきた、と」
「そ。何たって、君に与えられた役割は『攻略対象』である『生徒会役員』の会計だからね」
「……そもそも疑問なんですが、『生徒会役員』の席って、もう埋っているんでは?」
生徒会会計の椅子なんて、誰か座っていそうなものなのに、そこに捩じ込まれたということは、本来居た人物は、このためだけに席を外されたことになる。
「そこは気にしなくていいよ。そもそも、誰も座ってないから」
「はい……?」
「会計の席は空席。現在は他の役職の人たちが穴埋めするかのように、会計の仕事しているからね。そこに、君という人材が来るんだ。役員たちは本来の仕事分に戻れるし、女神側としては、本来あるべき人数で目的を進められるから、あちら側にとっては大喜びでしかないだろうね」
つまり、火に油を注ぐ形になっている訳なのだが。
「それ、下手をしたら、俺が標的にされますよね?」
「下手をしたら、というか、十中八九されるだろうね」
やっぱりか。来て早々にそうなるのか。
「君の個人ルートと、君を含んだ逆ハーレムルート。それをクリアさせようとしてくるだろうね」
これは、どう反応するのが正解なんだろうか。
一人の少女がゲームをクリアするかのように、こちらを惚れさせ、両思いになる。
それを分かっていながら、好きになることなんて、あるとは思えない。
「まあ、君はまだ来たばかりな上に、物語は序盤だし。好きに行動してみるといいよ」
先輩は言う。
「物語が進むと、自分で好きなように行動取れなくなるし、意志に関係なく、イベントも起きたりするから」
それは、経験済みな人にしか言えないことで、すでに見てきたことなんだろう。
「君が来てくれただけで、こちらの気持ちとしては楽になったのは事実だけど、その代わりに君が押し潰されていい理由にはならない」
だから、と先輩は告げる。
「何かあったら、頼りなよ。虫除けでも何でもなってあげるから」
「いや、そんなのが必要なら、俺は今頃――……」
虫除けがいるほど、モテたことは無いし、もしそれがいるのなら、彼女の一人ぐらい出来ていた……はずだ。
けれど、こちらに来てからの見た目なんて、元の世界と見た目は何一つ変わってないから、そんなのが必要とも思えないんだが……
「ねぇ、鷹藤くん。『補正』って言葉、知ってる? 元の世界でどうだったなんて、関係ない。君が『攻略対象』という椅子に座ってしまった、座らされてしまったことによって、少なくともこの世界の人たちには魅力的に写るように『補正』が入ってる」
「……それ、『補正』が入らなきゃ、モテないって言ってるようなものですよね?」
先輩は、「本気で言ってる?」と言いたげな目で説明してくれたが、それを聞いて、思わずそう返してしまった。
だって、そうだろ。俺の交際履歴など知らない先輩に、遠回しにモテない認定されたようなものである。
「まあ、あくまでも、こっちでは、ね。そもそも、元の世界の君のことなんて、私は知らないし」
ある意味正論でもあるので、そう言われると、何も言えなくなってしまった。
「まあ、お互いに選ばれちゃった者同士、上手くやっていこう。この世界を一人で攻略するのは、大変だからね」
俺は許可した覚えはないのだが、俺たちは、こうして出会い、共同戦線を組むことになったのである。




