プロローグ
「本当に死んでる……!」
単調な水音ばかりだった空間に響く、物々しい足音と喧騒の声。
アルバローズ中央都市西部、地下水道。
二名の警邏がランプを翳した水路の先は鉄柵に塞がれ行き止まりだ。そこに凭れかかるようにして、白衣の男が息絶えている。
傷んだ栗毛に丸眼鏡、無精髭。汚水を吸い上げて薄汚れた白衣の胸部は黒ずんだ赤色に滲んでいた。
眉をひそめながら顔を近づけた警邏の目が捉えたのは、赤く染まった白衣に拵えられた小さな裂け目。
しかもひとつふたつではない。視認できるだけでも六ヶ所はある。
「ナイフで滅多刺し。しかも突きに迷いがない。怨恨かね……姿は見なかったんだな?」
振り向いて問いかけた先には、一回り以上年若い同僚が立ち尽くしている。
任についてまだ三ヶ月の新人だ。屯所にひとりで詰めていた折「地下水道で人が死んでいる」と戸外から叫びかけられて混乱してしまい、やむなく連れ立って様子を見に来てみればこの状況だ。
「は、はい……すぐ飛び出して姿を追ったんですが、影も形も……その声も、若い男か、低めの女かもはっきりしなくて」
「それはまあ、仕方なしだ。そいつが下手人と決まったわけでもない、取り逃がしたことにもならん。ただまあ……出るものが出ちまった以上、面倒なことになったな」
萎縮しきりの同僚を宥めながら、踏むべき手順を考えて眉間の皺を深くする。
そうして、匿名の通報を受けて発見された謎の遺体の情報は速やかに報告された。
中央都市西部地下水道の管理を担うヴァレリス中央製薬工房へ。そして、工房の所有者であるヴァレリス公爵家へ。




