過去
彼の話はこうだった。
まず祐樹さんは、幼い頃に両親が事故死した。二人ともたくさん彼を愛してくれた人だったそうだ。
何が起こったか分かっていない祐樹さんはとりあえず親戚の家に預けられた。だがその頃、すでに祐樹さんは見える能力があったので、不思議な発言を多くしてしまった。幼いが故、それが特別な能力だとよく分かっていなかったのだ。
初めは両親を亡くしたショックで、と周りの人は思っていたようだが次第に気味悪がられるようになり、他の家へ追いやられた。そこでも上手く関係性が築けず、いくつかたらいまわしにされたという。
小学校中学年にもなると、余計なことは言わない方がいいと学んだようだが、『変な子』という噂はすでに蔓延しており、家でも学校でも常に浮いているような状態だった。
中学に入るとまた違う親戚の家にいき、邪魔者扱いされながらも高校まで進学させてもらった。進学にかかるお金は大人になってから必ず返すと念書を書かされたらしい。大学はとっくの昔に諦めた、と祐樹さんは言っていた。
高校になるとバイトに明け暮れ、何とかお金を稼ぐことで必死だった。家に帰っても居場所がないので外出が増え、随分とすさんだ生活だったとか。
そんな時、見知らぬ男性に声を掛けられた。どこで知ったのか、祐樹さんが見える人だとわかった上で話しかけてきたようで、仕事をしないか、という誘いだった。
とにかくお金が欲しかった祐樹さんは詳しい話も聞かず、霊視で儲けられるなら天職かもしれない、と上機嫌で着いて行ったところ、完全に詐欺行為をしている人たちだった。
さすがに人を騙すようなことはしたくないと拒否すると、かなり強く脅された。頼れる大人もいなかった祐樹さんがどうしていいか分からずにいたところ、助けてくれたのが竜崎さんだった。これが、二人が初めて会った時のことだ。
彼は詐欺集団を警察に通報し、みんな逮捕された。祐樹さんは事情は聞かれたものの、無理矢理連れてこられただけと判明しすぐに解放されたので大事にならず、高校も無事通い続けることが出来た。これも、竜崎さんから警察へ証言があったそう。(どうやら、竜崎さんは元々この詐欺集団を知っていたらしい。)竜崎さんにお礼を言いたかったが、一度会っただけで連絡先もわからないので諦めるしかなかった。
それからまた細々と暮らしつづけ、高校を卒業すると同時に家を出て就職した。だが、給料はさほど良くない中で親戚には高校時代の学費を返し、一人で暮らす生活はあまりに辛く、副業を始める。それが、霊に関する相談役だった。詐欺に巻き込まれるのはもうごめんだったため、この時は個人的に始めたそう。
だが素人なので危険な目に遭ってしまい、もう自分は死ぬかもしれないと思うまで追い詰められた案件があったみたいだ。そこで、他の除霊師を求めて訪ねたところ、そこにいたのが竜崎さんだった、というわけだ。
竜崎さんに除霊してもらい、事なきを得た。再会に感激した祐樹さんは竜崎さんに懐き、いろいろ経てルームシェアを開始することになった、というのが流れらしい。
雅さんは竜崎さんの近所に住んでいた幼馴染で、幼い頃から視える者同士、仲がよかったのだとか。
雅さんも祐樹さんのように、小さなうちから変な発言を繰り返し周りに気味悪がられた。雅さんには妹がいたらしいのだが、そちらは能力がないため、両親は妹ばかりをかわいがって雅さんを邪険に扱っていた。そのうち祖母の家に自分だけ預けられ、親は会いに来なくなった。初めは『ちょっとだけおばあちゃんに家にいて』と言われたので迎えを待ち続けたが、両親は一向に迎えに来なかった。
そんな祖母は小学生になったと同時に亡くなり、一人ぼっちになった。でも、これで親と暮らせるのかもしれないと期待した雅さんだが、彼女は結局そのまま施設に入れられてしまったのだ。親が『この子は育てられない』ときっぱり断ったらしい。
子供ながらに、親に嫌われているんだと悟り、彼女はひどく傷ついた。一時期は口もきけないほどになってしまったらしい。
親に捨てられ心を閉じてしまった雅さんの唯一の理解者が、祖母の家の近所に住んでいた竜崎さんだった。同じものが見える年上のお兄さんとして慕い、施設に入ってからも時々会いに来てくれたりと、ずっと付き合いを続けていたらしい。施設内でも浮いて孤独だった雅さんには、竜崎さんの存在が本当に大事だったようだ。
『施設を出たら、一緒に仕事をしよう』と竜崎さんに誘われ、雅さんはそれを励みに頑張った。彼女にとって竜崎さんは、家族以上の存在になっていたのだ。
施設を出る十八歳になると、まずは一人暮らしをしながら竜崎さんと仕事を始めた。初めは依頼も来ず、来ても難航したりと苦労したみたいだが、根気よく続けてなんとか仕事は軌道に乗り、生活も安定していった。
だがそんな頃、雅さんの両親が尋ねてきた。事業に失敗してお金に困っているから何とかしてくれないか、という厚顔無恥なお願いをしに来たらしい。
雅さんは激怒して断るも、向こうは諦めず何度も来る。すっかり参ってしまった雅さんを見て、竜崎さんが一緒に住むことを提案した。そうすれば、いつでも自分が親を追い返せるからと。ちょうどその頃、竜崎さんの叔父さんが海外に行くことが決まり、家が空くという好都合でもあった。
そしてすでに仲良くなっていた祐樹さんも誘い、三人でルームシェアを始めたらしい。
「なんか……竜崎さんは大人になって視えるようになった私のことを大変だって言ってましたけど、やっぱり小さな頃から視える方がずっと辛かったんじゃないでしょうか……」
私は言葉に詰まりながらそう言った。
少なくとも私は今まで普通の生活を送れてきたし、家族も友達もいる。見えるようになってから色々大変だったけれど、二人に比べればマシだと思えた。
涙が出てきてしまった私を見て祐樹さんが慌てる。
「いや泣くほどか!?」
「す、すみません! 同情とかそういうんじゃないです! ただ、もうちょっと周りにまともな大人がいたらな、と思っただけです!」
涙をこらえて私が言うと、彼は困ったように頭を搔く。
「まあ、そういうわけで俺も雅も、竜崎さんにかなり懐いている自覚はあるんだ。兄のように慕ってるっていうか、兄以上かも。恩人だしな」
「確かにそうですね……」
「それと!! あの人は肝心なところで抜けてるところが多いんだ!!」
祐樹さんは突然悲痛な叫び声を上げたので、私はきょとんとしてしまった。
「あの人ってさ、顔がいいのはもちろんなんだけど、ふとした時に優しい気遣いを見せたり、ぼうっとしてるくせに急に鋭くなったり、とにかく女の心をくすぐるタイプらしんだ」
あ、それはちょっと分かるかも、と心で呟いた。あまり表情も見えないし変わった人だけれど、一つ一つの言動に優しさを感じられるので、不本意にときめいてしまったことはあるのだ。
「いろんな女が寄ってきてはストーカーのように付きまとうんだけど、本人はあまり気づかないんだよ! エスカレートして、竜崎さんの洗濯物が盗まれたりゴミを漁られたり……ルームシェアしてるって情報を仕入れてきて、『私もいれてくださーい』って女が何人いたことか……」
「ひええ……」
「ちなみに一回は、完全に不法侵入されたこともある」
「ひえええ!」
「元は依頼人だったとか、よく行くコンビニで出会ったとかで、竜崎さんがちょっかい出したわけじゃないんだけど、ことごとく執着されてさ……あの人、ヤンデレ製造機っていうか。意外なんだけど、関わる女性を沼らせる傾向にあるんだよなあ」
「それで、私のことも色々心配してくれていたんですね」
竜崎さんのストーカーって疑われたし、その後も好きにならないように見張られている感じがした。それは、竜崎さんを好きになることで私がヤンデレ化してしまうことを恐れていたのか。
そんなに女性を沼らせる竜崎さんって、一体……。
一度はそう不思議に思ったが、線路に落ちそうになった私を助けてくれたり、私のアパートに入って荷物を触ったりと、頼りになりつつ距離感がおかしいこともある。そういうのが女性はたまらないんだろうか。
祐樹さんはため息をつく。
「何が厄介って、あの人無自覚で……俺や雅が指摘してようやく『そうだったの?』みたいになるくらい」
「わあ、想像つく」
「不法侵入された後はさすがに参ったって顔してたけど、何で女性が自分に集まってくるか分かってないみたい」
「竜崎さんって、彼女とかいないんですか? 雅さんは違うんですよね?」
「今はずっといない。ルナテスラの応援に必死だから」
ううん、女を沼らせるビジュアルと性格の持ち主なのにドルオタか……やっぱりなんとも意外な趣味だな。
だがそんな竜崎さんのことは置いといて、祐樹さんと雅さんが彼に凄く感謝しているというのはよく伝わった。家族以上の存在なんだろうな。
「お二人のことが聞けたのは嬉しかったです。雅さんも、急に私が入ってきたら嫌な気持ちになるの分かりました」
「まあ、そういうこと。まあ花音は嘘ついてないって分かってるから、時間かければそのうち仲良くなれると思うよ」
「ありがとうございます……あ、そういえば、竜崎さんのご両親もいない、って」
雅さんと祐樹さんの過去は聞いたけれど、竜崎さんのことは聞いていない。もう会えなくなった妹がいた、ということしか。
祐樹さんは少し困ったように笑い、私に言う。
「まあ、竜崎さんについては本人に聞いた方がいい。あの人の話はまたちょっと……あれだから」
そう言ってすべてのご飯を食べ終えると、手を合わせてしっかり挨拶をした。




