第22話【代表取締役ソシオ】
「音咲さん!」
「わああああ!? ケンタいたの!?」
あ、動ける。驚きのリアクションが取れる!
全校生徒がまだ動けない中、ケンタが私に駆け寄ってきた訳だが……。
後ろから急に話し掛けられるとびっくりするわ!
「ここ、まだ狭間にいるよね?」
「う、うん。多分ね、私もそんな感覚」
周囲を見渡しても、硬直し続ける生徒と教師の姿しかない。
隣に立っているマホの顔が視界に入り、ただひたすらに辛そうな表情で訴えていた。
「マホ、大丈夫だからね。必ず助けるから!」
私はマホを安心させたくて、ギュッと抱きしめる。
マホは震えはするものの、動けずにいた。
「まずいな……現実世界をそのまま狭間に持ち込むなんて。技術じゃ敵の方が上ってことか」
気を緩めてはいけない。
救いは傍にケンタがいることだけど、動けない皆の前で闘いが始まるのだけは絶対に避けなきゃ。とは言え――
「……敵の気配が……ない?」
「今の所は……かな。早くリーダーと連携しないと。僕ちょっと狭間から抜けてアジトへ行ってくるよ。音咲さんはここに居て、すぐ戻るから」
そう言った直後。ケンタは身体の振動と共に、顔を苦痛に歪めた。
「……がっ……かはッ」
口から血が流れ出る。これは一体!?
「ケンタ!?」
姿勢を崩し、手がダラリと垂れ下がる。
直ぐにケンタの背中に手を当ててみるものの、無事ではなさそう。
「お、音咲さん。ダメだ、ゲートを作ろうとしたら……全身を針で刺されたようなダメージが……」
「えっ!?」
脱出不可能!?
ケーボーイに知らせることも出来ない!?
「他の……他のみんなは!?」
息を切らしながら、ケンタは答えた。
「分断された。恐らく別の狭間で闘いが起こっていると思う……ぐうっ」
「そ、そんな……」
絶望感に襲われた最中、更なる絶望が押し寄せる。
ブゥンッ!!
破壊されたステージの前に、また知らない男が現れたのだ。
「ん? オマエらの相手は俺か?」
パッと見てヤンキーのような風貌。
ギラギラとした銀色の髪を逆立て、耳にはリングピアス、首にもジャラジャラとギラついた大きなシルバーネックレス。
少年のような青年のような……髑髏のオーバーシャツから鍛えられた腕が視える。
「……な、なんで疑問系なんだよ」
「ケンタ、無理しないでね」
私は拳を握る。闘いの意思を見せるのだ。
対するゼブラ柄のパーカーを肩に掛ける相手は気怠そう。そして目つきが非常に悪い。
「はぁ……2対1かよ。……悪くねぇ」
悪くないんか。
彼はやる気だ。殺意を剥き出しにしたその眼が私たちを捉えている。
何か、何か言わなきゃ。
「あの、貴方はだぁれ?」
思わず某国民的アニメーションのような一言を発してしまった。
だって怖いんだもん!
一歩、また一歩と近づいてくる彼がポケットに手を突っ込むと、スッと何かを取り出す。
眼前に迫った相手が差し出したソレは――
「……『株式会社SSOソリューション、代表取締役……ソシオ』????」
「初めましてこの野郎。オマエらがうちのボスが言ってた獣?」
ちょいちょいちょーい!
名刺渡してくる敵がどこにいるの!?
「だったら……どうするつもりだ?」
ケンタの背中から黒い渦が出現し、戦闘態勢に入った。
しかし相手は一切臆さない。
「お? いや、ちょっと待てや。獣は俺らの敵っつー話になってんだが、俺にはどうもよく理解できなくてよ。話をしねぇか?」
「ん?」
「オマエら、何で悪魔的な奴ら殺してんの? で、何でオレらのことも殺そうとしてんの?」
まさかの対話!
ケンタはいつでも攻撃出来ると言わんばかりに高ぶり始めているけど、ちょっと待ってね。
「あの、別に殺そうと思ってるんじゃなくて……妖魔は一般人を狭間に連れ去って事件を起こすからほっとけないし、貴方たちも同じようなことしてるんでしょ? だったら止めなきゃって」
ソシオは頭をポリポリとかき、バツが悪そうに口を開く。
「あーそんな感じね。オマエら勘違いしてるわ」
そう言うと、ソシオは両腕を天井へ向けて大きく伸ばし、背伸びをする。
「オレらさ、適当に人殺してんじゃねーのよ。悪い奴に限定して裁いてんの。そりゃ正義の代表面したら身勝手かもしれねーけど」
「は? なんだそれ」
あっ、ケンタが切れそう。
「正義? 人殺し集団が何言ってんだ?」
一歩引いて、アゴに手を当てるソシオ。考えている様子はない。
「まぁ、無理に理解してもらおうと思ってねーよ。社会を知らねぇガキにはまだわかんねえだろうし。いやウチのチームにもクソガキはいるけどよ、法で裁けない……いや、裁ききれない悪い奴をそのままにして、誰が得するんだよ? よく考えてみ?」
「考えるまでもないよ――『骸の山』!」
刹那、ケンタの背後の裂け目が解放され、骸骨の剣士が飛び出し、ソシオを捉える。
「ちょっ、ケンタ! ここでやるの!?」
剣。それも太く重そうな長剣を振りかざす剣士は、ソシオと近接戦を開始した。
上級生と下級生の間にある通路、それほど広くはないこの場所で……!?
「あー……そうだな、例えば」
凄まじく速い剣の乱舞を難なく手足で捌きながら、ソシオは会話を続ける。
剣を素手で捌けるなんて、身体能力は異常に高い。
それを見たケンタは更に、裂けた空間から増援を呼ぶ。2体……3体……それでもソシオは正面から受けきる。
「――オマエの両親が殺されたとする。なんやかんや殺人犯は懲役刑で、時が経てばいつか世に戻って来るだろ? 誰も許してねぇのにだ。何でそれがオーケーな世の中なんだって思わね? オマエならどうする?」
「……ッ!」
いきなりとんでもない思想だ!!
そんな裁きを続けたら……争いはずっと止まらない。義務教育を終えている私でも、世の理不尽くらい受け入れて生きているよ。
――でも、お父さんはそれを受け入れられないからジャーナリストになった。
まだ私は闘っていない。
「力を持つ者が正義って言ってんじゃねーぜ? 持った力をどう使うのかってオマエに聴いてんだ」
複数の骸骨の剣士を使役するケンタ。でも押し切れない、彼の言葉を止められない。
格上……!
「復讐上等、報復が嫌なら最初からおとなしくしとけっつーのが俺の自論な。どうだ、俺が悪に視えるか?」
ソシオの回し蹴りがいともたやすく骨を砕く。
ガラガラと音を立てて崩れ落ちる骸骨の剣士達。
そのまま一歩踏み込み、構えた拳がケンタの顔を目掛けて繰り出される。
刹那――
ブゥンッ!!
「ダメだよ。人殺しは」
ケンタとソシオの間に割って入ったのは、羊の覆面。
開けている口元は優しく、諭すようにソシオの拳を受け止めた。
「「ケーボーイ!!」」
突如として現れたのは我らがリーダー。この状況に気付いてくれたのね!
ナイスタイミング過ぎて泣きそう!!
「ッ!? おまっ、どうやってここに……!?」
パッと拳を放し、驚いたソシオは瞬時に後退する。
「僕、お祖母ちゃん子なんだ。優しく接したら優しくしてもらえるし、痛めつけたら仕返しで痛い思いをする。写し鏡さ」
その羊、まだ獣化はしていない。していないが、絶対強者のオーラを私でも感じ取れる……もしかしてケーボーイめちゃくちゃ強い?
「そうやって育てられたから、力を人殺しのために使うんじゃなくって、人助けに使いたいんだよね」
「……だからダメだってぇのかよ」
肩に掛けていたジャケットを体育館の床に落とし、コキッと首を鳴らすソシオ。
動けない生身の身体の生徒達がいる中、本気を出されたら皆が巻き込まれ兼ねない状況。
未だ棒立ちのケーボーイは、身構えることをしない。
私は全体を見回して、この真面目だけど答えのなさそうな対話を、ただ傍観していることしか出来なかった。
「……結局は、悪の根源を絶つか、悪そのものを救うかの違いだろ? 救えねぇヤツが多過ぎるからオレたちは活動してんだよ。よろしくこの野郎」
禍々しい銀色のオーラがソシオから滲み出る。
その右腕に色濃く圧縮されると、渾身の一撃が放たれ――
「ッ!!」
ケーボーイの眼前で拳が止まり――そして、私たちはソシオが冷や汗をかいていることに気付いた。
「キミには悪いけど、ここは僕に免じて引き下がって貰えないかな?」
やや下を向きながら口を薄ら開き、驚愕の表情を浮かべるソシオ。
一体、リーダーは何をしたんだろうか。
スッと右の掌を見せて、ケーボーイは語る。
「争いを望んでいる人がいるなら止める。困っている人がいたら助ける。僕も困った時は誰かに助けて欲しいからね。……キミもそうだったんじゃない?」
それが私たちに出来ること――
株式会社SSOソリューション代表取締役のソシオだ。
全国各地の孤児や行方不明者に関する情報収集、関係各所への共有を主な仕事にしている。
困ってるヤツはいねーか?
困らせたヤツはどいつだ?
知っているなら必ずコメントを残してくれよ。
俺が何とかしてやる。いいねもよろしく!




