Ch10
CH10
「おはよう!うわ、何その顔、どうしたの?」
リアがジェーンの顔を見るなり驚いた顔をした。
「そんなに酷い?」
「酷い」
何だか悶々として一睡も出来なかったジェーンはリアの手を引っ張ると、学校に向かう人々の群れを避けるように、近くの公園へ連れて行った。リアは何も言わずにジェーンの後をついてきた。何となく、何かが起こったのだと察したのだろう。
「マイクが私のお兄さんだった」
唐突に言葉を発したジェーンにリアはきょとんとした顔をした。
「マイクは私のお兄さんなの」
もう一度繰り返したジェーンにリアは眉をひそめ呟いた。
「どういう事?」
「そのままの意味よ」
リ アは訳が判らないという顔をしていた。
「私にはお兄さんが居て、それがマイクだったの。マイクのお父さんが私のお父さんだったって事」
「半分血が繋がってるって事?」
「違う、私が産まれてすぐ、お父さんがマイクを連れて出て行ったんだって」
「……」
「兄弟だったから、マイクの事が気になってたみたい」
ジェーンはまだ理解できていなさそうなリアをジッと見た。
「マイクがジェーンのお兄さん?」
「そうなの!」
ジェーンは始めて他人の口から聞いたその言葉に少し興奮した。
「マイクのお父さんがジェーンのお父さんか……何か複雑だね」
「不思議なんだけど、お父さんの事は何とも思わないんだ」
ジェーンは少し声のトーンを落とすと、眉根を寄せた。
「どういう意味?」
「う~ん、何て言うのかな、元々お父さんが出て行ったのは知ってた訳だから、その理由とかが分かっても別に何とも思わないって言うか……」
「そっか、そんな物かな?」
リアは不思議そうな顔をした。
「それより、私にお兄さんが居たって事のほうが衝撃が強かったからかもしれないけど」
「そうだね。しかもそれがマイクだったなんてね」
リアはホゥと小さく息を吐いた。
「でも、早めに判って良かったね。マイクと付き合って、ディープな関係になった後に判ったりしてたら大変な事だったよ」
ディープと言う単語をわざと大げさに言って、リアは少しおどけてみせた。
「だから、そんなんじゃないって言ってたじゃない! リアはすぐ私を誰かとくっつけようとするんだもん!」
ジェーンは、出来るだけ怖い顔をして見せた。
「でもマイクも驚いたろうね。自分に妹が居る事知ってたのかな? お母さんの事とかもどこまで聞いてたんだろう?」
リアはすました顔で話題を逸らした。
「そうだよね。マイクも驚いたよね」
ジェーンは自分の事ばかり考えていて、マイクの気持ちなんて全然考えていなかった事に呆然とした。
「一度ちゃんと話してみたら?」
「そうだね。そうしようかな」
話しこんでいたジェーンとリアは、結局大幅に遅刻してしまったので、そのままリアの家に行く事にした。ジェーンはリアの家でお昼を食べると、家に帰った。リアは泊まっていけばと誘ってくれたが、ジェーンは一度きちんと母と話をしたいと思ったのだ。
「ただいま」
「ジェーン、どうしたの? 早いじゃない」
家に入ると、母が驚いた顔をして仕事部屋から顔をだした。
「今日学校行かないで、リアの家に行ってた」
「そう」
母は悲しそうにジェーンを見たが、それ以上何も言わなかった。
「お昼は食べたの?」
「うん。リアの家で食べてきた」
「そう、それじゃあお茶でも飲む?」
母もジェーンと話したそうだった。
「うん」
ジェーンがキッチンテーブルに座ると、母はやかんに水を入れて火にかけた。
「マイクの事どうするつもり?」
思ったより、キツイ言い方をしてしまい、自分でも驚いた。こんなに嫌な言い方をするつもりは無かったのに……
「近くに住んでいるのだから、もっと交流をもてたらいいな、と思ったのだけど……」
母はジェーンの前に座ると、遠慮がちに言った。
「そう。でも、私はお父さんに会いたくないけど」
なんで、こんな言い方をしてしまうのだろう、ジェーンは自分で自分を八つ裂きにしてやりたいと思った。
「……」
母は寂しそうな表情を浮かべた。
「変な意味じゃなくて、一度も会った事の無い人を突然お父さんとは思えないし……」
ジェーンは声のトーンを上げて言い訳した。
「そうよね。マイクもそう思ったかしら?」
母は遠くを見るような目をした。
「それは、判らないけど……」
ジェーンが目を伏せると、母は「しょうがないわよね」と呟いた。
よく考えてみたら、母は全然悪くない。父が勝手にマイクを連れて出て行ってしまったのだ。きっと、母はマイクにずっと会いたかっただろう。
「明日、マイクと話してみるね」
ジェーンの言葉に、母は弱弱しく微笑むと、
「二人だけの兄弟だから、仲良くできるといいわね」
と言った。
お湯が沸いた音がして、母はやかんの火を止めると、ジェーンにハーブティを入れてくれた。
「おいしい」
ハーブティは何だかとても優しい味がした。




