サンタに質問した夜に
「ねえ、サンタさんは小さい頃、どんなものをお願いしていたの?」
ささやくような声で、小さな女の子は尋ねました。
女の子が眠っているものと思い込んでいたサンタクロースは少し驚きましたが、すぐにやさしい笑顔で答えました。
「私ははじめからサンタだったんだよ」
「じゃあ、サンタさんは生まれた時からお爺さんだったの?」
「そうだね」
「変なの!」
言いつつ女の子はふふふと笑いました。
サンタも「そうだね。そうかも知れないね」と微笑みながら答えました。
女の子は、その微笑みが少しだけお母さんに似ているような気がしました。
「じゃあ、サンタさんはプレゼントをもらったことがないの?」
言いながら、あれ? と女の子は思いました。あれ? どうしてだろう、ちょっとだけ、泣きそうだ。
けれども、サンタさんは「きみはやさしい子だね」と言うと、それ以上にやさしい目をして「大丈夫だよ」と女の子の頭を撫でました。
女の子は、その手のひらが少しだけお父さんに似ているような気がしました。
「サンタは毎年、たくさんの想いや気持ちをもらっているからね」
そんなのでいいのかな、と女の子は思いましたが、それならとサンタさんに「ありがとう」とお礼を言いました。
「まだ何もあげてないよ」
「あ、そっか」
ふふふとふたりで笑ったあと、サンタさんは改めて訊ねます。
「それで、君は何が欲しいんだい?」
女の子は鼻の頭が隠れるまでお布団を引き上げると、瞳だけをサンタさんへ向けて答えました。
「あのね……もうすぐ弟か妹が生まれるの」
「え?」
「だからね、わたしの欲しいものはわたしの分じゃなくて、その子のためのものなの」
それでもいい?
そう尋ねながらも少女の瞳は輝いています。
「……ああ、そうか。君も、サンタなんだね」
サンタさんはそう言って、とてもやさしくて、だけど少し泣きそうな目で微笑みました。
女の子は、サンタさんが何故そんなことを言うのかわかりませんでしたが、それはとても大事なことのような気がしていました。
「大丈夫。きっと届けるよ」
お母さんに似た目をしたサンタさんの、お父さんみたいな手で頭を撫でられているうちに、女の子はうとうととし始め、やがてゆっくりと目を閉じました。
◇ ◇ ◇
目が覚めた時、女の子は知らない天井をぼんやりと見つめながら、ここはどこだろうと思いました。
お父さん、お母さん、そして生まれてくるはずだった弟か妹がもう、どこにもいないのだということを身体中の痛みと共に知るのは、もう少し先の話です。