引越し
引っ越すことが決まってからは早かった。
しょーちゃんは即次の住まいを決めただけでなく、私の引越しも手伝うと言ってくれた。更に、これまで使っていたもので私が使えそうなものも残してくれるそうだ。
そうまでされては私ものんびりしていられない。そもそも長びかせて良いことはないのだから急ぐのは当たり前なのだが。
要さんのところに転がり込んだとしても、生活の拠点を完全にうつさない限り、モノを取りにあの部屋に行かないとならないし、解約するまで家賃はかかるし、契約というつながりが残っているうちは、結ばれてしまった縁を完全に切ることもできない。
もとより心理的な恐怖に起因した騒動だから、心からもうあの部屋とは関係が無いと思える状況にならないと意味がない。
とにかく一気に荷造りをし、今住んでいるマンションの解約の手続きも進めた。
学校へは通いながら、必要が生じた際は部屋に戻って荷物などを回収し要さんの家に持っていく。
怖いけど一瞬なら大丈夫。だけど暗い時間になってしまったり、家での作業に時間がかかりそうな時などは要さんも立ち会ってくれた。
迷惑をかけてばっかりだ。情けなすぎて本当に自分が嫌になるが、そこを我慢しても無理しても結局もっと要さんに迷惑をかけてしまうことになりそうなので、素直に甘えながら段取りを進めていった。
すべての作業や段取りは駆け足で、慌ただしく忙しかったが、引っ越しが完了するまでの間はその目の回るような忙しさに身を委ねていれば良く、恐怖を感じる暇もなかった。
引っ越しは要さんやその友だち、要さんとしょーちゃんのお店の人も手伝ってくれて、軽トラやら人工やらかなりのマンパワーで作業してくれたおかげで引越自体は一日かからずに終えることができた。費用もほとんどかからなくてありがたかった。
持って行っても置場の無い家具や家電は、買ったばかりのものが多くもったいないが処分した。
一部冷蔵庫や電子レンジなど、私はこれから要さんとシェアすることになるため必要の無い家電なんかは、逆にこれまでの生活でシェアしていてこの後買い足さなきゃいけなくなるしょーちゃんが引き取ってくれた。
そんな状況もあって、しょーちゃんも喜んでくれたことが、私の方に残っていた申し訳なさを軽減してくれた。しょーちゃんはそこまで考えて喜んでくれているのだとしたら、やっぱり申し訳なくなってしまうのだけれど、それを考え出したら切りがないので、素直に「私も少しは役に立てた」と思うことにする。
とにかくいろいろな人に掛けた迷惑、受けた恩は後で返す。
今はまず私自身がちゃんとリスタートを切ることが、目先でできるみんなの貢献に報いることになるはずだから。